2003/12/17


IV. ヤドリギ (Mistletoe)


 ジニーは大広間の正面入り口の上から垂れ下がる枝を見て、眉をひそめた。あそこからは出ないようにしようと心に留める。あの下で男子生徒と鉢合わせするのは嫌だったし、キスしたいと思うただ一人のひとは、ホグワーツからはるか離れたところにいた。少なくともそうであって欲しいと、ジニーは願っていた。もしも彼がここにいたらどんなことになるかは、考えたくもなかった。


 戦いに明け暮れた長い一年だった。戦いと死に満ちた、もがき苦しみ続けた一年。不安にさいなまれながら、日付が変わるごとに、どんな報せがもたらされるかと待ちつづけた一年。どの人の顔からも、心にのしかかる負担が感じ取れた。マクゴナガルの髪に混じる雪のように白い筋や、空席のまま残されたスネイプの椅子からも。ハリーもハーマイオニーもロンも、もうここにはいない。前年度に卒業して、今では戦いの前線に出ているのだ。ジニーもこの学年が終わったら、彼らに続くだろう。授かることのできる教えを、すべて学び終えたら。今のホグワーツは学校というよりも、むしろ闇祓いを新しく育成するための訓練所のようだった。魔法省は、得られるかぎりの人材を必要としているのだ。


 ドラコ・マルフォイは死喰い人の仲間になった。彼は生命を奪うことを楽しんでいるのだと、皆は言った。ヴォルデモートの緑色の頭蓋骨を空高く掲げるための言葉を叫ぶことに、このうえない喜びを感じているのだとも。マグルを拷問することに生きがいを見出し、不浄なる愉悦を覚えているのだとも。


 この最後の主張は本当ではないとジニーは思っていた。誰にも分からないことだけれど。怒りを感じているときも、快楽を感じているときも、半開きになった彼の両目は同じようにしか見えなかった。それは、ジニーがこの目で見て知っていることだ。そして時には、怒りも快楽も、彼の中では一緒くたになっていた。ジニーは広間の扉の上に飾られた小さな白い木の実を見つめて、口づけに思いをめぐらせた。荒々しく激しいもの、深くやさしいもの。かすめるように、ごく軽く触れ合わされた唇。あるいは、ほかの誰にも見せたことのない場所に押し当てられた口唇の、焼けつくような熱。


 ヤドリギには、炎の精が宿っている。アイネアスは冥界からの帰路を照らし出すために、これを用いた。


 ペルセポネはかつて、ヤドリギの実を使ってハデスの門を開いた。








※ヤドリギ
クリスマスのために飾られたヤドリギの下にいる女性にはキスをしてもよい、という慣習がある。

※アイネアス
ギリシャ神話に登場する、トロイアの王子。父を探しに冥界を訪れる。

※ペルセポネ
ギリシャ神話に登場する、豊穣の女神デメテルの娘。冥界の王ハデスに攫われる。