2004/5/5

賭け (Wager) by Davesmom

Translation by Nessa F.


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「賭け金はいくらだ?」
 小さな財布を取り出しながら、ドラコは尋ねた。


 ジニーが小さく押し殺した笑い声をあげ、フレッド(あるいはネッドかもしれない。いや、ジョージだ、思い出したぞ)またはジョージが、首を振った。


「賭けているのは金じゃないんだ、マルフォイ。禁止されているからな。ぼくたちが賭けているのは、頼まれ事だ」


 ドラコは、ほかのプレイヤーたちに、問いかけるような視線を向けた。
「頼まれ事?」


「そうさ」
 ジョージだかフレッドだかが答えた。
「ほら、もしきみが勝ったら、ぼくは今週、きみの数占いの宿題を代わりにやってやる、とか。そういったことだ」


「だから、ハーマイオニーはもう、来なくなっちゃったの」
 ジニーが、ふんわりとした声で付け加えた。
「ハーマイオニーはトランプ・ゲームが全然駄目なの。だから、一ヶ月ものあいだ、みんなの宿題をやらなくちゃいけなかったのよ!」


 ドラコはジニーに微笑みかけた。快い声だ。今まで、ジニーの声はあまり耳にしたことがなかった。「あっちへ行きなさいよ、マルフォイ」というようなことを言うとき以外では(これは、ドラコの毎度の陰険な振る舞いの結果だったが)。彼女は目をぱちくりさせて、手に持っていたトランプを見下ろした。


 ドラコはわずかに眉をひそめて、ふたたび双子を見た。
「ぼくの成績は、どの教科でもせいぜい平均点だ。ほかには、どんなものがある?」


 驚いたことに、ロンが笑い声をあげた。
「そうだな、もしおまえに料理ができたら、ジニーの手伝いができるんだがな。ジニーはみんなに、ものすごい大量の手作りクッキーの負債があるんだ!」


 ジニーはまだ自分のカードに視線を釘付けにしたまま、この笑い声を無視していた。


「おまえの妹の助手をやるよりずっとひどい時間の過ごし方はいくらでも考え付くがな。しかしぼくはキッチンでも役立たずだ。自分で料理する必要に迫られたことなんかないから」


 ロンは、ドラコのこの、さほど控えめというわけでもない裕福さを誇示するような言葉に顔をしかめた。


「取り巻きにボディーガードをやめさせるっていうのは?」
 双子の向こう側から、ネビル・ロングボトムが甲高い声で言った。自分に意見を出すほどの大胆さがあったことに一番驚いているのは、誰よりも本人であるようだった。


 ドラコはただ、うなずいた。
「なるほど、大体、かんじがつかめてきた。じゃあぼくが賭けるのは、それでいいか?」


 フレッド(またはジョージ)は、首を振った。
「いいや、ちょっと違うんだ。賭けのときに出すのは何も書いてない紙で、ほかの参加者が、きみに何をさせるかを決定するんだ」


 ジョージがさらに言った。
「ほとんどのメンバーは固定されてるから、賭けの内容はいつも大体、同じなんだ。ぼくとフレッドは面白いいたずらが得意だから、みんなそういったものを要求してくる。ロンはチェスのレッスン。ネビルは薬草学の天才だから、大概は宿題をやってくれと頼まれてる。それから、ジニーはうちのお袋にも負けない料理上手だから、毎回、何かを作ることになる」


 ドラコは首をかしげた。
「分かった。でも、あまりにも大きい要求をされた場合は? たとえば、クィディッチの試合でわざと負けろとか」


 フレッドは、初めて見るような真剣な顔になった。


「言っとくけどな、マルフォイ。ここにいる誰であろうと、そんなことを要求したりは、決してしないぞ! そんなの、賭けで負けた金の踏み倒しと同じくらいひどいじゃないか」


 真剣な表情を消すと、彼はさらに言った。
「でも、要求されたことが気に食わなければ、『再交渉』と言えばいいんだ。そうすれば、相手は別の要求を考える。あるいは、フォールドして(勝負を降りて)しまえばいい。これなら害はないし、不正もない。これでどうだ?」


 ドラコは最後にもう一度、ジニーに視線を投げかけた。今の彼女は、かすかな微笑を浮かべてこちらを見ていた。
「分かった」
 ドラコは合意した。


 ジョージがカードを集め、シャッフルして宣言した。
「ファイブ・カード・ドロー。ワイルド・カードなし」
 それから、カードを配った。ドラコに回ってきたカードはパッとしなかった。彼はすぐにフォールドしたが、興味津々でほかのプレイヤーがさまざまな要求を出し、それを受け入れたり、フォールドしたりするようすを見守った。最後に残ったのは、ロングボトムとロン・ウィーズリーだった。ウィーズリーは、薬草学の温室から高麗人参をいくらか持ち出して来いと要請した(なかなか興味深い――これは強力な媚薬になるものだ)。ロングボトムは心を決めかねてもだえながら、何度も自分のカードを見直していた。彼は隠れ穴(ウィーズリーの家のことらしい、とドラコは見当をつけた)を訪問したいと言ったが、ロンは再交渉を主張した。別にカードで勝負なんかしなくても、普通に招待するから、と。するとロングボトムは、呪文破りを生業とするウィーズリーの長兄ビルに会わせてほしいと言い出した。本当にビルの能力に憧れているんだ、と彼は言った。これで両者の合意が成立し、ロンが自分の手札を見せた。フルハウス、2 が三枚と 6 が二枚。ロングボトムは、自分の目が信じられないというような顔をしていた。彼も自分のカードをテーブルに広げた。こちらもフルハウス。ただし 7 が三枚と 4 が二枚だ。ロングボトムの勝ち! ロンは羊皮紙の切れ端を一枚と羽根ペンを手に取って「ネビルをビルに紹介する」と記入し、それをロングボトムに手渡した。


 ドラコはわくわくしてきた。これは、金を賭けて勝負するより、よっぽどいい。ほかのプレイヤーたちも、現金を手にする場合よりも勝利を喜んでいるようだった。ゲームは続行され、ジニーはさらに焼き菓子を作る羽目になり、フレッドは "カナリヤ・クリーム" とやらを提供すると約束し(このときグリフィンドール生たち、特にロングボトムがドッと笑った)、ドラコは卒業するまでロングボトムをからかってはいけないことになった。これは、大した痛手ではなかった。どのみち、ほかの生徒にちょっかいをかけるのは、数ヶ月前にやめてしまっていたのだ。またドラコは、たとえロングボトムに要求されなくても、クラッブとゴイルをはべらすのはもうやめることにした。ロングボトムは抜け目のないプレイヤーで、意外なほどユーモアのセンスがあった。実際のところ、ドラコは段々と彼に好意的な気持ちを持つようになっていた。