賭け (Wager) by DavesmomTranslation by Nessa F.
原文登録先:Fanfiction.net / ID : 491987 (2001/12/10 付)登録ジャンル:Romance/Humor カップリング:ドラコ×ジニー Rating:K+ (旧PG-13) (page 1/3)
ドラコがこの暗い戸口にたたずみ始めて、もうかなりの時間が経っていた。最後に彼の傍らを数人の生徒たちがすり抜けて、ホグワーツ城にはたくさんある小塔の一つに続く階段へと消えていってから、もう十分以上になる。ネビル・ロングボトムとハンナ・アボットが前方の回廊をこそこそと横切っていくのを目に留めたとき、ドラコは考え事をしながら城内をさまよっていたのだった。透明マントをまとっていたため、向こうはこちらに気付いていなかったが、ドラコは彼らに興味を引かれた。堅物でチビのグリフィンドール生と、泣きみそのハップルパフ生が、消灯後に校内をうろついているとは、どうしたわけだ? ただ単に、どこか二人きりになっていちゃつける場所を探しているだけかもしれないが――想像してしまったドラコは、ぶるっと身震いをした。しかしそのとき、さらに数人の生徒が、背後からいそいそとやって来た。グリフィンドール生とハップルパフ生。ドラコは、彼らのあとを追ってみることにした。見ていると、少なくとも十五人の生徒がひたひたと廊下を進んで階段を上っていった。みんなグリフィンドール生、ハップルパフ生、あるいはレイブンクロー生だ。 いったい何事だ、とドラコはいぶかしんだ。スリザリン寮の者が一人もいないのは、別段不思議なことではない。こんな寄り合いに参加するくらいなら、死んだほうがマシと思うのが大方のスリザリン生だ。しかしそれでも、ドラコは皆がここに集まっているのはなぜだろうと、好奇心をそそられた。来ているのは、七年生ばかりだ。ほかには一人か二人程度の六年生が混じっているだけ。ついにドラコは好奇心に負けた。自分も上に行って、あのマヌケどもをゆすってやるネタになるような何かが見つかるかどうか、覗いてみよう。 静かに、不要な物音を立てないように注意しながら、ドラコはそろりそろりと階段を上っていった。幸運なことに、てっぺんの部屋に続く跳ね上げ戸は開けっ放しになっていたので、誰かに気付かれることを警戒しながら押し上げる必要はなかった。ドラコは開き口から頭を突き出し、周囲を見回した。 幾人かの生徒たちが、何をするでもなくうろうろしながら、談笑していた。壁際に食べ物や飲み物が並んだ間に合わせのテーブルがしつらえてあり、その周囲に数脚の椅子が乱雑に置かれている。まるで社交クラブじゃないか! 跳ね上げ戸から見て反対側では、少人数のグループがテーブルを囲んで座っていた。どうやらトランプをしているようだ! 金銭は見当たらなかった(ホグワーツでは、ギャンブルは好ましくないとされている)が、普通は "掛け金" を置く場所に、羊皮紙の切れ端が何枚か置かれていた。要するに、そういうことだったのか? ポーカーのゲーム? ストリップ・ポーカーでさえないのか これでは教師に告げ口するほどのことでさえない。しかし階段を下りようとしたちょうどそのとき、ポーカーをしていた生徒の一人が背中をそらせたので、テーブルの向こう側に座っている生徒の姿が見えた。彼女だ! ドラコはそのまま静止して、そちらに目を奪われた。今年度が始まった頃から、ドラコはこの少女が気になり始め、すっかりのぼせあがっていた。美人だからじゃない。実際、美人ではないし。可愛いところはある、もちろん。しかしもっと可愛い子なら、ほかにいる。ただ、彼女にはどこか心を惹きつけるところがあった。彼女を見ると、いつも身体の中が締め付けられるような気がする。そしてきっと、彼女のほうはこちらを嫌っているに違いなかった。ドラコは彼女の白い肌、心騒がせる顔を縁取る鮮やかな髪、大きな茶色い目を、食い入るように見た。彼女は誰かとお喋りをしながら微笑んでいたが、突然はっと身を固くして、まっすぐにドラコを見据えた。しかし、そんなことはあり得ない。こちらの姿は見えないはずだ。彼女は身震いをしたようだった。そして、自分の左側に座っている少女に視線を戻した。 ドラコ自身も、少しばかり動揺していた。かれこれ何ヶ月も、彼は自分らしくもないジニー・ウィーズリーへの想いを打ち消そうとしていたが、そうはできずにいた。とにかく、彼女には何かがあった。微笑む表情、自然な品のよさ、生来の優しさ。本当なら考えるだけで胸が悪くなるようなものばかりだが、気にならなかった。彼女の善良な部分のすべてが、彼に呼びかけてきているようだった。そして彼自身の中にある堕落した部分の中核がその呼びかけに屈し始めているのを、彼は自覚するようになっていた。どうせ卒業まで、あと数週間しかないのだということに思い至ったとき、心が決まった。学校を出たら、おそらくもう二度とジニー・ウィーズリーを目にすることはないだろう。失うものなど、何がある? ドラコは透明マントをするりと脱いで、ポケットに仕舞った。そして精一杯の冷笑を浮かべて階段を上り、小塔へと入っていった。最初のうち、彼に気付いた者はおらず、パーティー参加者の一人として見過ごされていた。しかし突如として、ジャスティン・フィンチ=フレッチェリーが、ドラコに気付いた。彼は言いかけていたことを中断して、まじまじと見つめてきた。彼の会話の相手もその視線を追って、やはり絶句した。沈黙はドラコが小塔の中を歩いてゆく先々に広がり、やがて夢中でポーカーをしている者たちのテーブルに到達した。 ドラコは、ジニーの双子の年長の兄たちまでがテーブルに着いているのを見て、驚いた。トランプをするためだけに、わざわざこっそり学校に戻ってきたのか? トランプに興じていた者たちもとうとう、周囲の沈黙に気付いて、顔を上げた。入学一日目以来ずっとドラコと敵対しているロン・ウィーズリーが、顔をしかめて席を立ち、鼻と鼻を付き合わせるようにドラコの前に立ちふさがった。 「何しに来たんだよ、マルフォイ? おまえや仲間のスリザリンのやつらを呼んだ覚えはないぞ」 彼女はあのきらきらした両目の上の眉を寄せて、ドラコを見上げていた。はっきりと顔をしかめているわけではなかったが、彼の姿を見て嬉しくてたまらないという表情でも、決してない。無理もないのだが。ドラコが、七年生になって以来ずっと、夜になると彼女のことを考えてなかなか眠れずにいたことなど、彼女は知るはずもないのだ。ドラコはロンのほうに注意を戻した。 「なんとまあ、面白いことだな」 「おい、マルフォイ」 ドラコはニヤリと笑った。獲物を見つけた鮫を思わせる笑み。 「ぼくの考えを聞かせてやろうか、ウィーズリー? このままぼくが下に行って、おまえたちのこのささやかな夜会のことをフィルチに教えたら、どうなるか。もしかしたら」 ドラコは隙を見てもう一度ジニーのほうにちらりと視線を向けた。まだ、さっきと同じように、なかば顔をしかめている。完全なしかめ面になる前にと、ドラコは先を急いだ。 「しかしだな」 ロンは、みんなの視線が自分に注がれるのを感じた。ロンさえしばらくドラコの存在を我慢してくれれば、このパーティーは続行できるのだ、と彼らが考えているのがひしひしと分かる。何かを強要されることが、ロンは嫌いだった。相手がマルフォイのような馬鹿野郎なら、なおさらだ。しかし拒絶の意を表明しようとした瞬間、双子の片割れが口を開いた。 「なあ、いいじゃないか、ロン。入れてやれば」 双子のもう一方がさらに言った。 ロンは嫌そうな顔で兄たちを見やったが、引き下がった。パーバティ・パチルが手に持っていたカードをテーブルに投げ出して、立ち上がった。 「ほら、マルフォイ。替わるわ。どのみち、そろそろ止めようと思ってたし」 |