賭け (Wager) by DavesmomTranslation by Nessa F.
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夜が更けていくうちに、多くの生徒たちはいつしか部屋を出て、寮の寝室に戻っていった。ポーカーのテーブルのところに残っているのは、ウィーズリーの面々とドラコだけだった。まだ見物している生徒もいたが、ほとんどはすでに立ち去っていた。ドラコにとっては、楽しい夜だった。双子は面白いやつらだったし、ロンの態度は軟化してきていたし、ジニーは直接話しかけてくることはほとんどなかったが、彼女とも友好的な会話ができていた。 「このゲームで最後だ」 「プログレッシブ?」 (※脚注参照) 「いいや」 皆が同意したので、ジョージがカードを配った。ロンは自分のカードを手に取ってちらりと見るなり、げんなりした顔でテーブルの上に投げ出した。 「ちぇっ、全然駄目だ」 自分の持ち札を見たドラコは、クリスマスを先取りしたような気分だった。ジャックが三枚! ジニーの手札は、おそらくツー・ペアだろう。ドラコはキングと 10 を抜き取り、表を下にしてジニーが出したカードの上に重ねた。 「ぼくも勝負するよ。二枚」 フレッドが自分のカードを見下ろして、ため息をついた。 ジョージは自分の手をじっと見ると、三枚を捨てた。 ジョージは足りないカードを自分に配りなおして、再び札を広げた。オープンを宣言したジニーを、ドラコは見つめた。まだ無表情のままだが、目が輝いている。 自分の手札がかなりのものだと思っているらしいな、とドラコは考えながら、自分の手に新しく揃ったカードを見下ろした。彼自身、淡々とした顔を保つのを難しく感じていた。ジャックとクイーン! これで同位札が四枚だ! これを負かせるのは、エースのフォア・カードだけだ。さっきドラコが捨てたのがキングで、今ここにクイーンがあるということは、キングとクイーンのフォア・カードはあり得ない。そしてジャックはすべてここにある。つまり、ロイヤル・ストレート・フラッシュも成立しない! ジニーにせよジョージにせよ、エースを四枚も揃えているかどうかは、大いに疑問だ! ジョージは自分のカードを手に取って検討したが、また下に置いた。 「どうやら、きみたち二人だけみたいだな」 「分かったわ」 「じゃあ、賭けの内容を言うわ。もしわたしが勝ったら、たとえどんなにキッチンで役立たずであろうと、明日は私の助手になって、クッキーとパイとケーキを焼くのを手伝うこと。その際には、エプロンを着用のこと!」 ほかのウィーズリーたちがドッと笑い声をあげるなか、ドラコはニヤリと笑った。たしかにこれは恥ずかしいが、屈辱的というわけではない。それに、彼女と一緒にいられる。これに同意したうえで、わざと負けてしまえばいいのだ、という強い誘惑にかられた。しかしそのとき、もっといい考えが浮かんだ。 「いいよ、ウィーズリー」 耳が聞こえなくなったのかと思うほどの沈黙が降りた。次の瞬間、ロンが椅子から飛び上がるように立って、ドラコにつかみかかろうとした。 「このスケベ野郎、そんなことが許されると……」 ドラコは、何も言わず、ただジニーを見ていた。 「こらこら、ロン。拒否権はジニーにあるんだ。おまえじゃない。賭けに干渉するのは反則だぞ!」 「そうだな」 ジニーは目を丸くしていた。こういった賭けになるとは、思いも寄らなかったのだろう。頬を真っ赤に染めて、不安そうに唇を噛んでいる。行き過ぎだっただろうか、と思ったドラコは前言を撤回しようとした。 ジニーは自分のカードをもう一度見てから、ドラコの目を覗き込んだ。ジニー自身の目は、細められていた。 「まず、キスの定義付けをして」 ドラコは、落ち着かない気分で周囲を見回した。 ジニーの口元がわずかに歪んだ。今すぐ、この唇にキスしたいくらいだ! 「たとえば、兄妹同士でするような、頬への軽いもの? 唇へのキス? それとも、もっと別のところ? 契約不履行で訴えられないように、事前にはっきりさせておきたいわ」 「ああ」 「唇へのキス」 「なん……」 「口は開いてするの、それとも閉じたまま?」 「その、それはきみ次第だと思う」 ジニーはふたたび微笑んだ。 ドラコにも、ジニーの言う意味が分かり始めていた。 一瞬、ジニーの瞳がきらりと光った。それから、彼女は睫毛を伏せた。ドラコは考えた――たとえ口を閉じたままのキスしか許されなくたって、接触を断たないあいだは、あの柔らかそうな唇をずっと味わっていてかまわないということになる。ドラコはニヤリとした。 「そして、契約を果たすのはいつ?」 「このゲームの終了後」 ジニーは再度、自分の手札を見た。ロンはジニーを凝視していた。フレッドとジョージは、にんまりと笑っていた。 「いいわ。先に手札を見せて、マルフォイ」 これは、ゲームの進行としては正しくなかった。オープンを宣言したのは彼女だ。しかし、揚げ足を取ろうとも思わないほど、気が急いていた。ドラコは、表を上にして自分のカードを並べた。 「ジャックのフォア・カード」 ジニーは目を見開いて、自分の手元をじっと見た。ドラコは、喜びが引き潮のように遠ざかっていくのを感じた。ドラコが勝ったことで、彼女は愕然としているじゃないか! ロンがふたたび、はじかれたように立ったが、またしても双子に取り押さえられた。 「じゃあ、これで」 彼とフレッドは、恐慌にかられた弟を引きずって階段を下りていき、跳ね上げ戸を閉じた。ドラコは、もう一度ジニーを見た。まだ、手に持ったカードを凝視している。ドラコの視線を察知すると、彼女は注意深く自分の手札を、表を下にしてテーブルの上に置いた。それから、顔を上げる。茶色の目が、大きく見開かれ、不安を映し出していた。 「えっと、そういうことね。さあ、どうする?」 ドラコは、気遣うような表情を浮かべて、ジニーの隣に行った。 「なあ、別に血判状に書いた契約とかじゃない」 ジニーの色の濃い両の目が、細められた。 ジニーはドラコに背を向けて、腕を折り曲げた。全身から、怒りが発せられているようだ。ドラコはおずおずと彼女の肩に手を触れ、くるりと自分のほうに向き直らせた。彼女は、傷ついて憤った表情をしていた。ドラコは彼女の身体に片方の腕を回して、引き寄せずにはいられなかった。空いたほうの手で彼女の顎を持ち上げて、顔を覗き込む。 「何ヶ月も前からずっと、こうしたかった」 ジニーがついばんでいる彼の耳に、静かな声が注ぎ込まれた。 「ほんとに何ヶ月も前からキスしたかったんなら」 驚きつつもまだ彼女の首元に唇をつけたまま、ドラコは散乱しているトランプを見下ろした。そして最初の驚愕が通り過ぎてしまうと、床の上から見上げてくる、ジニーの手札だった四枚のエースに向かって、微笑みかけた。 *** フレッドとジョージは、先ほどとは別の小塔へと続く階段を、ぐったりとした足取りで上っていった。箒をうしろに引きずりながら、フィルチやミセス・ノリスに気付かれないよう、ひそひそ声で語り合っていた。ロンはまだ怒り狂っていたが、このまま部屋に戻ってジニーのことは放っておけ、と二人して彼を説き伏せたところだった。 「ロンが殴りかかろうとしたとき、マルフォイがたじろぎもしなかったのは、感心したと言わざるを得ないな。あいつは、自分の欲しいものがはっきり分かってるんだよ」 フレッドも、物思いに沈んだ表情でうなずいた。 二人の若者たちは、階段の吹き抜けのところから足を踏み出して、小塔の内部を見回した。フレッドはポケットから小さな双眼鏡を取り出し、遠方に立ち並ぶ小塔の一つに焦点を合わせた。 「見えるか?」 「ああ。まだあそこにいるよ。顔をぴったりくっつけてね」 「可愛い妹が男といちゃいちゃしてるところなんて、あんまり見たくないような気がするんだ」 「それにしてもあの "唇と皮膚の接触" って条件設定には、やられたなあ。おれも覚えておかなくちゃ」 フレッドはうなずくと、家までの凍えそうな道行きに備えて、ローブの上に羽織ったマントの留め金をはめた。 「あいつらがずっとお互いを見てばかりいたの、気付いてたか?」 「気付かないはずないだろ。まったく、嫌になるほどだったよ!」 フレッドはジョージに視線を向けて、眉を上げた。 「おれたちの対応の仕方は、正しかったんだろうか?」 「そう思うよ、相棒。おれは、ジニーに必ずエースが四枚行くように念には念を入れたんだから。ジニーが自分でああなることを望んでいなければ、手の内を見せたはずだ」 「そうだよな。でもなあ、マルフォイかよ?」 「もっとおかしなことなんて、世の中いくらでもあるさ、相棒。いくらでもな」 二人は顔を見合わせてニヤッと笑った。それから箒にまたがって、夜空へと飛び立っていった。 (了)
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