お悩みごとが、多いから A Lot To Be Upset About
by Cassandra Claire (Translation by Nessa F.)
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自分の部屋に戻ると、ドラコは嫌悪感を込めて鏡をじろりと見た。
「あのレザーパンツを穿いたらカッコいいって言ったじゃないか」
吐き捨てるようにささやく。
「そのとおりですよ」
鏡は言った。
「そうかよ、でも座ったらうしろが一気に破れたぞ」
ドラコは噛み付くように言った。
「おそろしく恥ずかしかった。ジニーに、つくろいものの魔法〔※7〕を尻にかけてもらわないといけなかったんだ。何がとってもお洒落だ、何がまったく感動ものだよ」
「誰もあなたに座れなんて言ってませんよ」
鏡は憤慨した声になった。
「ハリー・ポッターがバタービールの大樽をトイレ代わりにしたって聞いて、ショックで腰が抜けたんだ」
ドラコは説明をした。
「誰だって驚くだろ」
「どうしてですか」
鏡は言った。
「あいつが、すっかり正気をなくしてしまってるからだよ!」
ドラコは叫んだ。
「まあねえ」
と、鏡。
「あの人には、悩まなくちゃいけないことが、たくさんありますからねえ」
もう限界だった。ドラコは喉の奥からうめき声をもらすと、ヘアブラシを引っつかみ、鏡に向かって投げつけた。鏡は責め立てるような金切り声とともに砕け散った。
***
次の日、ドラコは専門家の手助けを求めることにした。
「スネイプ先生」
授業の合間の休み時間に、スネイプの研究室に行ってきっぱりと言う。
「助けてほしいことがあるんです」
スネイプは、魔法で凍結してバラバラにした猿を入れた、たくさんの壜が棚にずらりと並ぶ壁に背をもたせかけ、官能的な半開きの目を向けてドラコを見た。
「ああ、ミスター・マルフォイ? なんだね?」
「ぼく、自分をもっと魅力的に思わせるものが必要なんです」
ドラコは言った。
スネイプは、ローブのボタンを上から順にもぞもぞとはずし始めた。ドラコが休み時間にここへやって来ると、スネイプはよくこんな振る舞いをした。我輩はささいな気温の変化にも敏感なのだ、だからすぐに暑くなってしまうのだ――と、スネイプは主張していた。
「しかし、きみはもうすでに非常に魅力的ではないかね、ミスター・マルフォイ」
スネイプはつぶやくように言った。
「そうなんです」
ドラコは素直に認めた。
「でもぼく、ジニー・ウィーズリーにぼくのことを好きになってほしいんです」
スネイプのローブは、もうウェストのところまで開いていた。彼はけだるい手つきで、もじゃもじゃの胸毛をいじり始めた。
「愛の苦しみにさいなまれているのかね、ドラコ?」
「さいなまれている、というのはちょっと違うんです」
ドラコは言葉をにごした。
「どちらかと言えば、微妙にいたぶられてる、というかんじなんです」
「我輩がお尻をペンペンしてやれば、心が軽くなるのではないかね?」
「いいえ」
ドラコは慌てて言った。
「もうこれ以上、お尻ペンペンは要りません」
スネイプはがっかりした顔になった。
「よろしい。せっかくのチャンスなのだがね」
そう言うと、うしろに手を伸ばして、頭上の棚から小さなガラス壜を取り、ドラコに手渡す。
「これは、我輩がプライベートに使用している髭剃りローションだ。恋愛においては、常に驚くべき結果をもたらしてくれた」
ドラコは気持ちが明るくなるのを感じた。
「ありがとうございます、先生」
彼はもらった壜を注意深く調べた。薄いガラスでできており、かすかな腐敗臭を放っている。
スネイプはドラコをじっと見た。
「一滴たりとも、こぼさぬよう。こぼした場合には、罰則を科さなければならん」
ドラコは自分の胸元に壜を抱き込んだ。
「それは、またお尻ペンペンということでしょうか?」
スネイプは冷たい流し目になった。
「どんな場合であろうと、またお尻ペンペンだ」
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