2004/9/5

お悩みごとが、多いから
A Lot To Be Upset About

by Cassandra Claire
(Translation by Nessa F.)

(page 4/6)


 自分の部屋に戻ると、ドラコは嫌悪感を込めて鏡をじろりと見た。
「あのレザーパンツを穿いたらカッコいいって言ったじゃないか」
 吐き捨てるようにささやく。


「そのとおりですよ」
 鏡は言った。

 

「そうかよ、でも座ったらうしろが一気に破れたぞ」
 ドラコは噛み付くように言った。
「おそろしく恥ずかしかった。ジニーに、つくろいものの魔法ヴェスティタルス・レパルス〔※7〕を尻にかけてもらわないといけなかったんだ。何がとってもお洒落だ、何がまったく感動ものだよ」


「誰もあなたに座れなんて言ってませんよ」
 鏡は憤慨した声になった。


「ハリー・ポッターがバタービールの大樽をトイレ代わりにしたって聞いて、ショックで腰が抜けたんだ」
 ドラコは説明をした。
「誰だって驚くだろ」


「どうしてですか」
 鏡は言った。


「あいつが、すっかり正気をなくしてしまってるからだよ!」
 ドラコは叫んだ。


「まあねえ」
 と、鏡。
「あの人には、悩まなくちゃいけないことが、たくさんありますからねえ」


 もう限界だった。ドラコは喉の奥からうめき声をもらすと、ヘアブラシを引っつかみ、鏡に向かって投げつけた。鏡は責め立てるような金切り声とともに砕け散った。



***



 次の日、ドラコは専門家の手助けを求めることにした。


「スネイプ先生」
 授業の合間の休み時間に、スネイプの研究室に行ってきっぱりと言う。
「助けてほしいことがあるんです」


 スネイプは、魔法で凍結してバラバラにした猿を入れた、たくさんの壜が棚にずらりと並ぶ壁に背をもたせかけ、官能的な半開きの目を向けてドラコを見た。
「ああ、ミスター・マルフォイ? なんだね?」


「ぼく、自分をもっと魅力的に思わせるものが必要なんです」
 ドラコは言った。


 スネイプは、ローブのボタンを上から順にもぞもぞとはずし始めた。ドラコが休み時間にここへやって来ると、スネイプはよくこんな振る舞いをした。我輩はささいな気温の変化にも敏感なのだ、だからすぐに暑くなってしまうのだ――と、スネイプは主張していた。
「しかし、きみはもうすでに非常に魅力的ではないかね、ミスター・マルフォイ」
 スネイプはつぶやくように言った。


「そうなんです」
 ドラコは素直に認めた。
「でもぼく、ジニー・ウィーズリーにぼくのことを好きになってほしいんです」


 スネイプのローブは、もうウェストのところまで開いていた。彼はけだるい手つきで、もじゃもじゃの胸毛をいじり始めた。
「愛の苦しみにさいなまれているのかね、ドラコ?」


「さいなまれている、というのはちょっと違うんです」
 ドラコは言葉をにごした。
「どちらかと言えば、微妙にいたぶられてる、というかんじなんです」


「我輩がお尻をペンペンしてやれば、心が軽くなるのではないかね?」


「いいえ」
 ドラコは慌てて言った。
「もうこれ以上、お尻ペンペンは要りません」


 スネイプはがっかりした顔になった。
「よろしい。せっかくのチャンスなのだがね」
 そう言うと、うしろに手を伸ばして、頭上の棚から小さなガラス壜を取り、ドラコに手渡す。
「これは、我輩がプライベートに使用している髭剃りローションだ。恋愛においては、常に驚くべき結果をもたらしてくれた」


 ドラコは気持ちが明るくなるのを感じた。
「ありがとうございます、先生」
 彼はもらった壜を注意深く調べた。薄いガラスでできており、かすかな腐敗臭を放っている。


 スネイプはドラコをじっと見た。
「一滴たりとも、こぼさぬよう。こぼした場合には、罰則を科さなければならん」


 ドラコは自分の胸元に壜を抱き込んだ。
「それは、またお尻ペンペンということでしょうか?」


 スネイプは冷たい流し目になった。
「どんな場合であろうと、またお尻ペンペンだ」







【訳注】

※7:つくろいものの魔法(ヴェスティタルス・レパルス) 〔本文に戻る〕
本作オリジナルの魔法。原文では "vestitarus reparus"。vestitarus はラテン語で「衣服」、reparus は「修復」。