2004/5/28

Their Room
(by aleximoon)

Translation by Nessa F.


第 31 章 素晴らしい言葉

(page 2/2)

 窓の外から羽ばたきの音が聞こえても、両親は新聞から目を上げさえしなかった。日刊予言者新聞を配達するフクロウが、テーブルに向かって舞い降りてきた。しかしそのフクロウが着地する前に、もう一羽、濃い灰色の大きなフクロウが入ってきて、もったいぶった態度で最初のフクロウを追い越した。二羽目のフクロウはハーマイオニーのすぐ前に着地すると、もう一羽のフクロウに向かって、おまえは邪魔だとでも言うようにくちばしをカチカチ鳴らした。そして新聞配達のフクロウが恭順にうしろへ下がると、ハーマイオニーのほうに注意を戻した。偉そうに足を突き出し、そこに結び付けてある手紙をハーマイオニーに取り外させようと待っている。


 ハーマイオニーの顔に、理解による笑みが広がった。こんな自分勝手なフクロウを飼っていそうな知り合いは、一人しかいない。
「ドラコ」
 手紙を取り外しながら、ハーマイオニーはささやき声で言った。


「ドラコ?」
 母が、新聞のページの上から目を出して問いかけた。


「ドラコというのは、聞いた覚えのない名前だな」
 テーブルの反対側から、父が付け加えた。そこはかとなく興味を引かれていることが分かる声だった。


「彼は、わたしの――
 ハーマイオニーはそこで沈黙した。ドラコが自分の何なのかを、正確に表現する適切な言葉なんて、存在しないように思えたのだ。
「彼は、学校のお友達よ」
 結局、言い直した。


 母は新聞を折りたたむと、娘に向かって問いかけるような視線を投げかけた。しかしハーマイオニーは、これ以上長居をして質問攻めに合う気はなかった。皿の上からレーズン・ブレッドのトーストを一枚、掠め取ると、階段を駆け上がる。両親は顔を見合わせて意味ありげな微笑を交わしてから、ふたたび新聞を読み始めた。


 手紙は、手が切れるような真っ白な羊皮紙に書かれていた。隅の一つに、火を吹くドラゴンが描かれた盾の紋章が浮き彫り細工で入っている。ハーマイオニーは、ドラコが書いた几帳面な文字を、ぼんやりと見つめた。もうこの筆跡を見ることはないかもしれないと思っていたのに、ちゃんと目の前にある。



ハーマイオニー


もっと早くに手紙を出すつもりでいたが、屋敷ではやることが多くて時間が取れずにいた。きっと想像はつくと思うが。ルシウスの死についての皆の騒ぎ立てようと言ったら、信じられないくらいだ。葬式に集まってきた人数だって、予想をはるかに上回っていた。ただ、参列者の半数が、本心では追悼の意を表すためではなくて、あの卑劣漢が本当に死んだのかどうかたしかめたくて来ていたのだとしても、ぼくは驚かない。


母は元気だ。パンジーが言ったことは、すべて嘘だった。きみのほうが正しかったんだ。結局のところ、元気どころか、それ以上だ。母はクラブで知り合ったクィディッチのコーチと、かなり仲がいいみたいだ。仲がいいという表現では、ちょっと弱すぎるかもしれない。とにかく母は最近、非常に未亡人らしくない行動を取っている、とだけ言っておく。ルシウスの死を、母は非常に平静に受け止めている。はっきり言って、もしルシウスを地下に埋葬していたとしたら、きっと毎晩のように墓の上で踊っているんじゃないかと思うほど、まったく落ち込んでいない。あるいは、例のコーチと一緒に、ダンスよりもっと不埒なおこないに及んでいるかもしれないが、あまり深く考えないことにしておこう。


弁護士たちは、最低だった。こんなにも若いうちに、ぼくが財産と土地を相続することになるとは、誰も思っていなかったんだ。でも文句を言う気はない。うんざりするほど金がある状態を今までだって謳歌してきた。それが今では、すべて自分の名義になったわけだ。ルシウスはずっと、金銭的なことに関しては、母を信用していなかった。だから、財産のほとんどがぼくに遺されたのは、さほど驚くべきことでもない。


試験はうまく行った。特に魔法薬学では、大笑いさせてもらった。あの間抜けのロングボトムが、魔法薬をぶちまけてスネイプのローブを半分くらい溶かしてしまったんだ。もちろん、きみはこんなの、全然面白いとは思わないんだろうな。そうじゃないか? ロングボトムを笑いものにするなとぼくに説教するきみの顔が、目に浮かぶようだ。あいつが間抜けなのは、どうしようもないことなんだろうしな。


ちょっと思ったんだが、都合のつくときがあったら、屋敷を見に来る気はないか? もし気が向けば、一、二泊していくといい。今、きみが何を考えているか、想像できるよ。さまざまな不正と数多くのうしろ暗い卑劣な策略の舞台として知られている場所に遊びに来いなんて、よくもそんなことを、と思っているに違いない。しかし考えても見ろよ。ルシウスを墓の中であたふたさせてやったら、どんなに楽しいか。


とにかく、考えてみてほしい。ぼくたちの研究資料も、すべてこっちにあるんだ。ぼくが家に戻った翌日、ダンブルドアが送りつけてきた。彼はものすごく頭がいいか、あるいはぼくが思っていたよりずっといかれているかの、どっちかだ。本当のところ、その両方が混ざっているんじゃないかと思う。でも、ぼくたちの共同研究をダンブルドアが引き続き奨励するというのなら、きみだって嫌とは言えないだろう? 彼はきみのヒーローだ。まあ、どうせポッターの次だろうけど。とにかく、考えてみてくれ。


ドラコ



 ハーマイオニーは手紙をたたむと、机の前の椅子に腰かけたまま、背もたれに体重をかけた。満面の笑みを浮かべて、ここしばらくで一番、元気になったように感じていた。でも、マルフォイ屋敷を訪問? そこまで元気になれるかどうかは、自信がなかった。純血を重んじる屋敷の壁がぐんと延びてきて、無遠慮に乗り込んだハーマイオニーを押しつぶす、なんてことはないのだろうか?


 部屋のドアがそっとノックされて、母親が顔を覗かせた。
「ハーマイオニー、あなたがテーブルを離れたあとで、これが届いたの」
 母の手には、小包があった。


 包みを受け取りながら、ハーマイオニーはわずかに眉をひそめた。誰かから小包をもらうような理由が思い当たらなかったのだ。母はまた外に出ていって、ハーマイオニーを一人にしてくれた。


 注意深く包み紙をはがしていく。腕を目一杯伸ばした状態を保っていた。魔法界では、物事を見た目で判断してはならないのだということは、重々承知している。しかし包み紙を取り除いていくと、中から出てきたのは深緑の皮で装丁された本だった。ハーマイオニーは、わくわくしながら残りの包み紙を引きはがした。そして、自分自身の名前が刻み込まれた本の表紙を、まじまじと見た。真紅で縁取られた金色の文字で、本のタイトルが記されていた。"グレゴリウス・オリアリーの日誌・第一巻" と書かれた下に、さらに "ハーマイオニー・グレンジャー、ドラコ・マルフォイ共訳" とある。


 ハーマイオニーは、信じられない思いで、それを見下ろした。それから震える手で注意深く本を開き、手早くページをめくり始めた。中の文字は、手書きだった。これもまた、ドラコの筆跡だ。そして、本全体の半分までしか埋まっていなかった。残りのページは、何も書かれていない空白のままだ。一番初めのページに、ドラコはハーマイオニー宛てのメッセージを書き込んでいた。



もちろん、これはまだ草稿段階だ。ぼくたちの発見は、まだしばらくはちょっと秘密にしておくことになっているしな。でもダンブルドアは、あと一、二年もすれば、実際に出版できるだろうと言っている。ぼくは、きみが家に戻った直後から、この作業を開始した。かなり上手く行ってると思う。



 それから、そのあとにさらに言葉が書かれていた。ほんの数語だけ。はっきりとは言えないけれど、ハーマイオニーは、彼がその言葉を、あとになってから散々考えた末に付け加えたのではないかと思った。文字の傾き具合が、メッセージのほかの部分とは、わずかに異なって見えたのだ。ハーマイオニーは、屋敷に行ったら本人に尋ねてみようと思った。いきなり、行くつもりになっていた。だって、行かないなんて言えるわけがない。メッセージの一番下には、短くも素晴らしい一文が記されてあったのだから。



きみに会いたい。




(THE END)