2004/5/28

Their Room
(by aleximoon)

Translation by Nessa F.


第 30 章 He Mele No Lilo

(page 3/3)

 ドラコとハーマイオニーは二人とも顔を上げ、新しく聞こえてきた声のほうを見た。少し離れたところから、校長が輝くような笑顔を向けていた。校長にこっそり近寄って来られるのが、ドラコは本当に苦手だ。このいかれた爺さんは、全身くまなく自分に音消しの魔法をかけているのに違いない。


「気分はどうかね、ミス・グレンジャー? 前よりよくなっておるとよいのじゃが?」
 やさしく問いかけながら、校長は二人のすぐ横までやって来た。


 ハーマイオニーは無言でうなずいた。興味津々の表情で、校長を見つめている。


「わしが思うに、話を始めるのに一番よいのは、まずきみたちからわしに、二人の興味深い発見のことを説明してくれることではないかと思う」
 自分用の椅子を召喚しながら、校長は愛想よく促した。


 ドラコはハーマイオニーのほうを見た。そして彼女がうなずいたのを確認すると、二人の研究について詳しく語り始めた。このような情報を、はっきりと感銘を受けている校長に向かって打ち明けるのは気分がよかったが、心のどこかで、悔しくも感じていた。自分と彼女の秘密だったことを、おおやけにしているのだ。二人があの部屋で成し遂げたことは、二人のものだった。自分たちそのものだった。他人と共有するのは、嫌だった。


 ようやくドラコが話し終えたとき、校長はしきりにうなずいていた。その両の目には、そこはかとなく得意そうな光があった。


「そうじゃ、わしは、そのようなことなのではないかと思っておった」
 ダンブルドア教授は、考え込みながら目的もなくその辺を歩き回った。それから足を止めると、二人のほうを振り返った。
「わしはずっと前から、アエクィトゥス騎士団に興味を引かれておった。好奇心をそそられておったのじゃ。彼らは闇の側についた敵たちと戦う、高潔な人々じゃった。そしてとうとう、勝利を収めた。しかし彼らが目標を達成するために用いた手段は、最終的には、敵対する側が用いた手段と同じくらいおぞましいものとなっておった。そしてヴォルデモートが力を得てからは、彼らの苦闘について知ることは、これまで以上に必要なことなのではないかとわしは考えるようになった」


「歴史は繰り返す」
 ハーマイオニーは、ぽつりと言った。


「われわれがそこまで堕落することが決してないよう、わしは心の底から祈っておるよ」
 校長は静かに言った。


 しかし校長は、堕落することがあり得ないとは言わなかった、とドラコは心に留めた。


「たまたま、オリアリーの手による何篇かの随筆に目を通す機会があったとき、わしは何かの役に立つのではないかと感じて、彼の手稿をすべて集めて学校に持ち込んだ」


「知ってらしたんですね」
 突然、頭の中ですべてがひらめいて、ハーマイオニーはゆっくりと言った。
「あれがあることを、知ってらしたんですね。あの呪文」


「そう、噂は知っておった。死の呪いから身を守れる呪文。あるいは――
 ダンブルドアは、いったん言葉を切った。
「それを相手に跳ね返すことのできる呪文」


「つまり、ルシウスがかけた呪いは、そのまま彼のほうに飛んで返ったということなんですか?」


「そのようじゃな。魔法省がすでに調査を開始しておる。きみのお父上がホグスミードでの拠点としていた家に、何人かの闇祓いが派遣された。そこで見つかったのは、死の呪いが使われた痕跡が、一つだけじゃ。二つではなくな」
 校長はそこで喋りやめると、ハーマイオニーにキャンディを一つすすめた。


 ドラコはゆっくりと、この情報を噛みしめた。自分はルシウスを殺してはいない。本当の意味では。しかし魔法省が調査に乗り出している。魔法界の法体系を充分に把握しているドラコは、自分の置かれた状況をしっかりと理解していた。


「ぼくは、どれくらい厄介なことになりそうですか?」
 ドラコは淡々と尋ねた。


 ハーマイオニーがびっくりして顔を上げた。
「厄介なことって? どうしてあなたが厄介なことになるの?」
 彼女は、ダンブルドアに視線を投げかけた。ダンブルドアは、ドラコをじっくりと注視していた。
「校長先生、彼が厄介なことになるなんて、そんなの駄目です。ルシウスは、自分がかけた呪いで殺されたんだもの。ドラコはわたしを守っただけなんです。彼はなんにも、なんにも悪いことはしてません。おねがいです、ダンブルドア先生」
 老魔法使いはただドラコを見ているだけなのに、ハーマイオニーの声はどんどんうろたえたものになって来ていた。


 ダンブルドアはようやく彼女のほうに目を向けると、微笑んだ。
「心配せんでよろしい、ミス・グレンジャー。きみたち二人のどちらについても、魔法省の者を近づけるつもりは一切ない」


 校長は今度はその笑顔をドラコのほうに向けた。そして本当に初めて、ドラコはハーマイオニーが抱くこの校長への敬愛の念が何を根拠としているのか、なんとなく分かったような気がしたのだった。

「さて、きみたちにお願いしたいのは、得られた知識を内密に保つよう細心の注意を払ってほしいということじゃ」
 口を開いて異議を唱えようとしたハーマイオニーのほうに、校長は向き直った。
「このことが、近々ミスター・ポッター、ミスター・ウィーズリーにも伝わるであろうことは、わしはほとんど疑っておらんよ。もうとっくに伝わっているのでなければということじゃが」
 ここで、校長は何もかも見透かすような目でドラコを見た。
「それから、とある強情な名付け親をはじめとして、さまざまな関係者にも、きっと漏れてしまうことじゃろうて。しかし、伝えるのは、どうしても必要な相手だけにしてほしいのじゃ。きみたちの発見した情報は、極めて貴重なものじゃからな。分かるかの?」


 ドラコとハーマイオニーは、二人とも無言でうなずいた。校長の深いまなざしにさらされると、何も言うべきことは見つからなかった。今たちまちは、不意打ちを食らわすことこそが、ヴォルデモートに対する最も効果的な防御となる。敵の繰り出す最も強力な呪文の一部が、いきなり効き目を失うというのは、絶対にポッターやその仲間たちの側にとって有利なはずだった。


 校長は小さなキャンディを口に入れると、ハーマイオニーに微笑みかけた。
「ミス・グレンジャー、言い忘れるところじゃった。あと数時間もすれば、ご両親がお見えになることになっておるよ」


「ええっ?」
 ハーマイオニーは驚いて息を呑んだ。
「でも、両親は今、会合があってアイルランドに行ってるはずなんです」


「この事件の報せを受けて、ご両親は旅行を切り上げることになさったのじゃ」
 校長は、これから言うことがこの少女を狼狽させると予想しているような表情で、一瞬、言葉を切った。
「わしの受けた印象では、ご両親はきみを自宅に連れ帰るつもりでおられるようじゃ」


 ドラコは目を見開いた。たしかに、もうすぐ学年末だ。しかし最後の一週間かそこらを、ドラコはハーマイオニーと一緒に過ごせるつもりでいたのだった。彼女の両親が、この件についてどのような反応をするかということは、まったく考えていなかったのだ。見たところ、ハーマイオニーのほうもそうであるらしかった。


「で……でも、先生。期末試験は?」
 ハーマイオニーの声が、危なっかしく震え始めた。
「それに、OWLは?」


 ダンブルドアは、クックと笑った。
「別にご両親は、きみを退学させるつもりはないと思いますぞ。ただ、きちんと療養させたいと思っておられるだけでな。傷ついた子の世話にかけては、どんな看護婦も、母親にはかなわぬものじゃよ。それから試験のことじゃが、わしはきみの担当教官の全員と話をした。みな、正規の試験の代わりとなる方策を講じることに同意しておる。OWLに関しては、六月の初めに実施される追試を受けていただく」


 ハーマイオニーはまだ今にも泣きそうな顔をしていたが、何度か深呼吸して気持ちを落ち着けた。
「感謝します、先生」
 彼女は静かに言った。


「いいや、ミス・グレンジャー。きみこそ、きみたち二人こそ、感謝を受けて然るべきじゃ」
 老魔法使いは立ち上がると、戸口に向かった。


 そのときになって突然、この日ずっと気になっていた疑問をドラコは思い出した。
「校長先生?」
 自分も立ち上がると、質問をした。
「ぼくたちがホグスミードにいることは、どうして分かったんですか?」


 ハーマイオニーも興味を引かれたようすで、ダンブルドア教授がふたたびこちらに向き直るのを見つめた。


「大変よい質問じゃ、ミスター・マルフォイ」
 青い目がキラキラと光った。
「わしが自分の会合から早目に戻ってくると、ミス・パーキンソンが待ち受けておったんじゃ。わしが見たときには、かなり取り乱しておった。明らかに、彼女はきみのお父上に欺かれておったのじゃな」


 ドラコは冷たく笑った。
「あのけちな女狐が? あいつは自分が何をやってるのか、ちゃんと分かってたはずだ」


「わしはそうは思わぬ、ミスター・マルフォイ」
 校長の視線には揺らぎがなかった。
「ルシウス・マルフォイの手の内に落ちたのは、彼女が初めてではない。わしは、ミス・グレンジャーの受けた危害に関しては、彼女はまったく無実だと見なしておる。そしてわしは、常に人を見る目はあるつもりでおるよ」
 そう言うと、彼は身をひるがえして戸口を出て行った。あとには、ドラコとハーマイオニーだけが残された。


「人を見る目があるって?」
 ドラコは校長の背後でドアが閉まるなり、皮肉っぽい笑い声をあげた。
「ロックハートみたいなやつを採用しておいて、何を言うんだか」


 ハーマイオニーも笑った。ドラコは彼女のほうに向き直った。
「じゃあ、家に帰るんだな」
 簡潔に言う。


「そうみたいね」
 彼女は平坦な声で返事をすると、自分にかけられている毛布をじっと見た。


「よかったな、早くに家に戻れて」
 もう一度、椅子にだらりと腰を下ろしながら、ドラコは説得力に欠ける声で言った。


「ええ、そうよね」
 彼女も、同じくらい自信のなさそうな声で応じた。
「ドラコ」
 そこで黙り込んで、唇を噛む。


「なんだ?」


「わたしたち、どうするの?」
 うつむいたままで、彼女は問いかけた。顔が赤くなってきていた。


「ぼくたちがどうするって?」
 ドラコは鋭い口調で訊き返した。こういった類の質問は苦手だ。具体的に何を訊かれているのか、確信が持てないというだけでなく、自分が果たして、なんらかの答えを出せるのかどうかも、心もとないのだから。


 ドラコの声音を聞きとがめたハーマイオニーは、顔を上げて睨みつけてきた。
「これで、何もかもおしまい? 秋になってまた学校が始まったら、わたしたち、以前と同じ関係に戻っちゃうの?」


 ドラコは、安堵のあまり、ニヤリと笑いそうになった。この質問の答えなら、はっきりしている。
「きみはどうやら、マルフォイ一族のことがまるで分かっていないな、グレンジャー」
 ドラコは彼女の手を取った。
「ぼくたちは、自分のものは絶対に手放さないんだ」


 ハーマイオニーは、少しのあいだ、彼の言葉を反芻していた。
「あのね、マルフォイ。わたしがあなたのこと、多少は魅力があると認めててよかったわね。でなきゃ今の言葉で、あなたを引っぱたいてる」


「分かってる」


 ドラコはベッドの上に身体を乗り出して、彼女にそっとキスをした。触れるか触れないかの口づけだったが、その唇の内側にあるすべての情熱を、ドラコは自覚していた。背筋を伸ばすと、彼は得意げに彼女を見下ろした。


「何を分かってるの?」


「きみが、ぼくを魅力的だと思っていること」


「もう、黙りなさいよ」
 しかしそう言うハーマイオニーも、笑みを浮かべていた。


「ほら、前にきみに言っただろ。ぼくは学校一魅力的な男だって」