2004/5/14

Their Room
(by aleximoon)

Translation by Nessa F.


第 28 章 協力は必須

(page 3/3)

 ポッターとウィーズリーは顔を見合わせた。それからポッターがドラコの前に出て、手を差し出した。ドラコはその手を、反感と畏敬の念のないまぜになった気持ちで見つめた。しかし結局は和平の申し出を受け入れ、立ち上がった。ポッターが手に持った羊皮紙をちらりと見て、ウィーズリーに向かってうなずくと、ウィーズリーが廊下を進み始めた。ドラコは興味を引かれてポッターの肩越しに目を凝らした。一瞬、校内の地図のようなものが見えた。その上で小さな点が動いている。


「それはなんだ?」
 ドラコは問いかけたが、ポッターは慌ててそれをもとのようにたたみ、睨みつけてきた。


「おまえの知る必要のないことだよ、マルフォイ」
 ウィーズリーがぶつぶつと言った。


 ポッターは鞄から透明マントを出して広げた。本当に美しい品であることを、ドラコは認めざるを得なかった。それをかぶったポッターにウィーズリーが合流すると、二人とも姿が掻き消えた。それから、ひそひそ声で激しい言い合いが聞こえたかと思うと、肩がぐっとつかまれて、ドラコもマントの下に引き込まれた。ドラコはポッター、ウィーズリーと身を寄せ合った。嫌になるほど、くっついている。


「いいか」
 ウィーズリーが押し殺した声でささやいた。顔が真っ赤になっている。
「お互いこの件については、二度と話題に出さないことにしよう」


「了解」
 ドラコとポッターが同時に言った。


「なあ」
 狭い廊下で数人の生徒たちが傍らをぶらぶらと通り過ぎていくのを三人でやり過ごしているときに、ドラコは言った。
「マントは別に要らないんじゃないか。まだ消灯時間じゃないし」


「道理だな。ぼくたちがおまえと一緒に廊下を歩いてたって、不思議に思うやつは誰一人いないだろうさ」
 ポッターが皮肉っぽく応えた。


 片目の魔女の像の前で、彼らは突然足を止めた。ドラコはいぶかしげに像に目を向けた。ポッターが、ドラコのほうを睨みつけた。ポッターたちにとって、これだけたくさんの秘密を明かすことがいかに大きな負担であるのかは、ドラコの目にも明らかだった。


「地図を見てて」
 ポッターが言った。ウィーズリーが色あせた古い地図をじっと見ているようすを、ドラコは観察した。


 ポッターはマントからそっと外に出て、杖を取り出した。片目の魔女のところに行くと、姿を隠したまま見守っているドラコのほうをちらりと振り返り、それから像のほうに身をぐっと乗り出して、何かをささやきかけた。何かを引っ掻くような音とともに、像が動いて、真っ暗な穴が現れた。


 ウィーズリーは地図をたたんで、ポケットに押し込んだ。ドラコは彼と自分の上からマントを外して、ポッターに手渡した。


「急ごう」
 ポッターが静かに言うと、三人の少年たちはトンネルに身体を押し込んだ。背後で、魔女がふたたび穴をふさいだ。




 ドラコの感覚では何時間も歩き続けたような気がしていたが、実はたったの十五分ほどだということは、分かっていた。時計を見る。もうすぐ八時だ。彼女は、そろそろあそこにたどり着いているはずだ。さっきまでは、彼女にはどこへ行くべきなのかは分からないだろうという希望にすがっていた。でもハーマイオニーは、非常に頭がいい。最終的には、ドラコはこの望みを却下していた。彼女は、どうにかして考え付いてしまうに違いないのだ。


 ポッターは、ドラコの前を歩いていた。彼の杖の先端が、明るく光っている。うしろではウィーズリーがしんがりを務めていた。赤毛の少年は、ほとんど身体を真二つに折り曲げていた。トンネルの天井が非常に低く、下に向かってせり出していたのだ。


「大体、なんでルシウスがハーマイオニーを狙うんだよ?」
 ウィーズリーは息を切らせながら不機嫌に言った。


「えーと、そうだな。彼女はポッターの親友の一人だ。彼女は闇の帝王の計略を頓挫させるのに何回か手を貸している。彼女はマグル出身者だ。ああ、そうそう、それに彼の後継者たる一人息子が、彼女と関わりを持っている。おまえの言うとおりだ、彼女が狙われる理由なんてどこにもない。ルシウスはいったい何を考えているんだろうな」
 ドラコは辛辣に返答した。ハーマイオニーはいったいどうやって、こんな鈍いやつらを我慢できているんだろう。


「もし彼女に何かあったら……」
 ポッターの声は段々と小さくなって途切れた。内心の恐れを、言葉にしたくなかったのだ。


「分かってる」
 ドラコの声は静かだった。先ほどの言葉に込められていた辛辣さは、口の中から消え去っていた。
「分かってるよ」


 たしかに分かっていた。彼女があそこに行ったのは、ドラコのせいだ。彼女は、ドラコを止めようと、ドラコを守ろうとしたのだ。どうして、そんなに高潔でいる必要があるんだろう。ドラコなんか勝手に殺されてしまえばいいと考えて放っておけばよかったのに。お節介を焼くことなんかなかったんだ。ドラコは吐き気がしてきた。何もかも、すべて自分が悪いのだ。


「もうすぐ着くよ」
 ポッターが肩越しに振り返って声をかけた。


「ほんとに、どこへ行けばいいのか分かってるんだろうな?」
 ウィーズリーが尋ねた。その声には、不信感がこもっていた。


 ドラコは、返事をする必要さえないと判断した。ドラコがハーマイオニーに危害を加えるつもりだとウィーズリーが本気で思っていたら、今頃二人のグリフィンドール生たちはドラコを叩きのめして置き去りにし、自分たちだけで先を急いでいるはずだ。


 顕著に下方へ突き出した出っ張りがあったので、ドラコは身をかがめてそれを避けた。背後で、小さく悪態をつく声が聞こえた。どうやらウィーズリーは、ドラコほど注意力がなかったらしい。ドラコは、彼らグリフィンドール生たちの意志の強さに驚嘆し始めていた。たしかに、彼らは勇敢だ。そう、愚かではある。しかし、勇敢さは驚くほど備わっている。ハーマイオニーは、ドラコを助けなければならないと思い込んで、明らかな危険の中に飛び込んでいった。そして今、彼女の二人の親友たちは、彼女を奪回するためなら、最も忌まわしく思っている敵のうちの一人のあとについて行くことだって厭わないというのだ。彼らを無防備なままで行かせるわけにはいかない、とドラコは気付いた。


「おまえたち二人に、教えておかないといけない呪文があるんだ」


 ウィーズリーは鼻を鳴らしたが、ポッターは立ち止まってドラコを振り返った。


「ぼくたちで見つけたんだ。ハーマイオニーとぼくで。数占いの課題研究で取り組んでいた文献の中にあった」
 彼らに、このことを言うのは嫌だった。ハーマイオニーと二人で過ごした時間にかかわる何かを、彼らと共有するのは嫌だった。誰とも、共有したくなかった。


「へえ、おまえら二人が、ほんとに勉強もいくらかはやってたと知って安心したよ」
 ウィーズリーが暗い声でつぶやいた。


「ぼくをなんだと思ってるんだ、ウィーズリー?」
 ドラコは尖った声で言い返した。


 ウィーズリーは、スリザリン生に対する意見を率直に述べようと口を開いたが、ポッターにさえぎられた。


「どんな呪文だ、マルフォイ?」


「うまく行けば、生き延びてハーマイオニーを助け出すだけの時間を稼げる」