2004/4/2

Their Room
(by aleximoon)

Translation by Nessa F.


第 22 章 魔法薬学でのトラブル

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 ホグワーツ城の地下深くで、ドラコは目を覚ました。暖炉の火はずいぶん前に消えており、空気はひんやりとしていたにもかかわらず、全身がうっすらと汗まみれになっていた。非常に夜遅い時間に違いなかったが、すっかり目が冴えてしまっていた。眠りを妨げたのがなんだったのかも、なんの夢を見ていたのかも思い出せなかったが、それはありがたいことだった。ドラコが見ていた夢は、ハーマイオニーが見ていたものと比べると、ずっと陰惨なものだった。それは、彼がハーマイオニーよりも暴力を身近に感じながら生きてきたことを思えば、仕方のないことではある。ルシウスの息子であるドラコは、ルシウスが他人を実験台として利用する場面を何度も目の当たりにしてきた。また、闇の魔法に関する知識量の割には、彼は想像力がかなり豊かだった。


 緑色のサテン生地のベッドカバーをはねのけると、ドラコはベッドから勢いよく下りて部屋を横切り、衣装箪笥のところに行って、分厚い制服のローブを着込んだ。部屋を出て、ぽたぽたとロウを垂らしているロウソクの淡い光に照らされた長く暗い廊下に足を踏み入れる。両側に、ほかの寮室へのドアが並んでいたが、ドラコはまっすぐに進んで談話室を目指した。


 談話室は、しんとして無人だった。室内を見渡しながら、肖像画の穴に行って、そっと抜け出す。例の手紙をもう一度、熟読したかった。本当の事情を示唆するような手がかりが見つかるかもしれない。おそらく、徒労に終わるのではないかとも思ってはいた。ドラコの駆け引きのやり方は、すべてルシウスから学んだものだ。ルシウスが、極度の注意を払って表現を取捨選択していることは、ほぼ間違いなかった。しかしどうせ眠れはしないのだし、何かに意識を集中させていたほうが気が楽だ。たとえなんであっても。


 図書館にたどり着くまでには、かなりの時間がかかった。何度か、甲冑のうしろに身を隠さねばならなかった。一度か二度は、ひとけのない教室に駆け込む必要さえあった。例の忌々しい猫が、しつこく忍び寄って来ようとするのだ。あの汚らしい生き物は、ドラコがいるということを感じ取っているらしかった。ただ、見つけることはできないだけで。教師たちが廊下を巡回していないのは、驚きだった。以前、クラッブやゴイルと一緒にこっそりうろついていたときには、あらゆるところで出くわすように思われたのに。あの二人と夜中に忍び歩きをしていたのは、ずいぶんとむかしのことのように感じられた。あるいは、パンジーと一緒に、天文台の塔の上からの景観を楽しもうと出て行ったのも。しかし、あの頃を懐かしいとは思わなかった。今の彼の自由時間は、ほとんどがハーマイオニーと一緒に作業をしたり、ハーマイオニーのことを考えたり、ハーマイオニーと喧嘩をしたりすることに費やされている。そしてもちろん、またしても彼は、その関係を滅茶苦茶にしてしまったのだった。またしても、彼女を傷つけた。ドラコの陰険で無分別な言動をハーマイオニーが許してくれるかくれないかのうちに、またしても同じようなことをしてしまう。正直言って、もしドラコが彼女の立場だったら、とっくのむかしにドラコに呪いをかけてしまっているのではないだろうか。ドラコは考え込みながら、顔をしかめた。とにかく彼は、かんじよくふるまうことが、あまり得意ではないのだ。


 例の部屋に到着すると、ドラコは鍵を開けた。ドアを開くと、壁との隙間から一条の光がもれ出てきた。いささか驚いて大きく扉を開けると、机のところにハーマイオニーが座っていて、書物に没頭していた。彼女が顔を上げると、茶色の目が一瞬、ホッとした表情を浮かべた。しかし次の瞬間には、何かを思い出したように、その目の表情は恐れ、それから不安へと変わっていった。そして彼女は、ふたたびうつむいた。


 手紙は、机の上の先ほど置いたのと同じ場所にそのまま残されていた。
「ちょっと遅くないか?」
 ドラコは静かに尋ねた。


「眠れなかったの」
 彼女はつぶやいた。
「夢を見ちゃって」
 ドラコがさらにじっと彼女を注視すると、彼女は言葉を継いだ。
「あなたは、どうしたの?」


「ぼくも眠れなかったんだ」
 ドラコは返答した。


「悪い夢?」


「たぶん。でも、今はもう細かいことは記憶から抜け落ちてしまったみたいだ」
 ドラコは部屋に入ってドアを閉めた。その音で、ハーマイオニーは小さく飛び上がった。
「で、きみが見たのはどんな夢だよ?」
 興味を引かれて、ドラコは問いかけた。いつもの彼女なら、こんなにビクビクはしていない。


「別にどうってことないの」
 彼女はつぶやいた。目をそらしている。いつだってこれは、どうってことあるという証拠だった。


「ぼくは出てきた?」
 誘惑するようにニヤリと笑ってみせる。


「いいえ!」
 彼女はギョッとしたように叫んだ。ドラコは笑みを深めた。彼女は嘘をつくのが、あまり巧みではない。
「それに、たとえあなたが出てきたとしたって、そういう類の夢じゃなかったもの」


「じゃあ、そういう類の夢も、見たことあるんだ? ぼくが出てくる?」
 ドラコはしてやったりと喜びの笑みを浮かべた。


「そ……そんなこと、言ってない」
 ハーマイオニーは口ごもって赤面した。


 ドラコがからかうように笑うと、彼女は両腕の上に頭を伏せた。
「あなたって、ほんとに嫌なやつよ、マルフォイ。自分でも分かってるんでしょ?」


「きみには、一度か二度、そんなことを言われたかもしれないな、グレンジャー」
 ドラコはまだ微笑んだまま、穏やかな声で言った。
「それで、きみのその、そういう類じゃない夢だが、どういうものだったんだ?」
 窓際のベンチに腰かけると、彼女のほうを見た。


「よく分からないの。警告かしら?」
 ハーマイオニーは頭を上げてドラコを見ながらつぶやいた。


「きみは、ああいった占い学の戯言は支持してないんだと思ってた」


「ふだんはね。でもこれは、なんだか違ってるみたいに思えたの」
 ハーマイオニーは本のページを一枚めくって、さらにメモを取り始めた。
「もうちょっとで、何かつかめそうなんだけど、はっきりしないの。翻訳が難しくて」


 ドラコは本に向かって手を伸ばした。ハーマイオニーは一瞬、彼を睨んでから、窓際に座るドラコの横に移動した。ドラコは、本を吟味した。暗号化された文献のうち、二人が最初に取り組んだものの一つだ。


「この本なら、記憶にある」
 彼はつぶやいて、ハーマイオニーの翻訳文を検討し始めた。
「へえ、ラテン語が得意科目じゃないわりには、けっこうよくやってるじゃないか」


 ハーマイオニーは、ドラコを睨みつけた。瞬時にしてドラコは、たった今、彼女がドラコをベンチから突き落としたいという衝動を押さえ込んだのだと悟った。そうする代わりに、彼女はドラコの述べた感想を聞かなかったことにしたらしかった。
「ここの、この単語。それから、次の段落の下のほうにある、このフレーズ。この二つが、どうしても分からなくて」


 ドラコは、彼女が指差した部分をちらりと見て、目を見開いた。
「この意味は知ってる」
 早口で言うと、件のフレーズを指し示す。
「ネクス・ネシス。許されざる呪文の、むかしの呼び名だ。本来の名称」