Their Room
(by aleximoon)
Translation by Nessa F.
第 21 章 これもまた夢
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朝食の席は、思ったよりも平気だった。ハーマイオニーが入っていくと広間中の人々が興奮したようにざわめいたが、彼女の毅然とした表情が、最もゴシップ好きな生徒たちをさえ、抑え込んだようだった。彼女が噂の炎に燃料を追加してくれないことに対して、幾人かが恨みがましく睨みを効かせてきたものの、大半の生徒たちは食事に戻って、ハーマイオニーが自分の食事をするに任せた。
「わあ、ハーマイオニー、これ食べてみて」
ジニーが、ハーマイオニーの皿の上にこんもりと卵料理を盛った。全体に、派手な色彩をした食用の殻の小さな破片が散りばめられている。
ハーマイオニーはいぶかしげに皿を眺め、それからジニーに視線を戻した。
「ねえ、ジン。うちの母はいつも、朝食には卵の殻は入れないようにしてるんだけど」
ジニーは鼻に皺を寄せた。
「どうしてよ? 殻のところが美味しいのに」
そう言うと、自分の卵にぐさりとフォークを入れる。
ハーマイオニーは無言でトーストに手を伸ばした。いつもは大体、魔法界の食べ物だって美味しく食べているのだけれど、今日は馴染んだ好みの味のほうがいい。
ばさばさと羽ばたく音に気付いて上を見ると、朝のフクロウ便が到着して舞い降りてくるところだった。ヘドウィグがハーマイオニーたちのテーブルに着陸し、ハリーを探している。
「ごめんね、ヘドウィグ」
雪のように白いフクロウに向かって、ジニーは言った。
「ハリーは今、練習に出てるの」
フクロウがうんざりした風情で旋回しながら飛び立っていくのを、ジニーの目が追った。しかしハーマイオニーの目は、別の鳥に引き付けられていた。ドラコのワシミミズクがスリザリンのテーブルに急降下し、ドラコの頭にその鋭い鉤爪を食い込ませる寸前のところで停止したのだ。一通の手紙を携えている。ハーマイオニーは、トーストを取り落とした。ドラコが、とても愚かな行動に出るだろうことが、ハーマイオニーにははっきりと見通せた。彼は、父親からのあの手紙を、開封するつもりだ。
本当に彼の母親が病気であれば、校長先生が教えてくれるだろうと、ハーマイオニーは全力を尽くしてドラコに言い聞かせた。内心で思っているよりも本気で言っているように聞こえることを祈りながら。校長が、場合によってはあまり率直とは言えないと指摘したドラコの言い分には、たしかに一理あった。しかしハーマイオニーには、パンジーが本当のことを言っているとも思えなかった。何かのたくらみに違いないのだ。
ドラコが広間の反対側から目を上げた。ハーマイオニーは、彼と目を合わせた。これだけの距離があっても、ドラコの考えていることは分かった。たとえこの手紙に悪質な呪いがかかっていようとも、何が書かれているのかを知る必要がある。たとえ父が嘘を書いてきたとしても、その内容を知っておかねばならない。
ドラコが唐突に立ち上がると、数人のスリザリン生が食べるのをやめて彼のほうを見た。もうしばらく、ハーマイオニーと目を合わせておいてから、彼は背を向けて速やかに広間を立ち去った。その手には、手紙が握られていた。
ハーマイオニーは即座に立ち上がった。もう少しで、パンプキン・ジュースの入ったグラスを倒してしまうところだった。ジニーは驚いてハーマイオニーを見たが、ハーマイオニーはすでに椅子をうしろに押しやって、ほかのグリフィンドール生たちの脇をすり抜けていくところだった。
「ハーマイオニー、どこへ……」
ハーマイオニーの視線を追いかけてその先に広間を出て行くドラコの姿を認めると、ジニーは言葉を切った。
「ハーマイオニー、それ、ほんとにまずいわ」
ささやき声で言う。ほかの生徒たちが注目し始めていた。
ハーマイオニーはジニーを無視して各テーブルの横を全速力で通り過ぎ、戸口を抜けてドラコを追った。今この瞬間は誰に何を思われようとどうでもいい、と考えている自分が、ほとんど新鮮にさえ感じられた。
彼の行き先がどこなのかと考える必要も、なかった。図書館のはずれのあの部屋に行く習慣は、ハーマイオニーにとってそうであるのと同じくらい、ドラコにとっても、深く染み込んでいるはずだ。ハーマイオニーは、廊下を駆け抜けて図書館を目指した。速度を落として歩いたのは、教室の一つからマクゴナガル教授とフリットウィック教授が連れ立って出てきたときだけだった。ふたたび足を速めたとき、突然、自分がドラコ・マルフォイのあとを追いかけて廊下を走っているとは、なんて皮肉なことだろうかと思った。たった一年前には、あるいはもしかしたら、たった数ヶ月前でも、ハーマイオニーはきっと、彼が苦悩していると知っても、瞬き一つしなかっただろう。しかしまた、ハーマイオニーがいなければ、彼は今、苦悩などしていないのかもしれなかった。これらのことがたとえ一部でも、自分に関係しているかもしれないとハーマイオニーが考えついたのは、このときが初めてだった。今までドラコに、なぜデスイーターになることを拒否しているのかと尋ねてみたことは、なかった。
図書館に入ったとき、積み上げられていた本の山を一つ、突き崩してしまったが、背後から聞こえた司書の叫び声をハーマイオニーは無視した。幾人かの生徒が、ハーマイオニーが通り過ぎていくのを、びっくりして見守った。ハーマイオニーは図書館の常連だったが、物静かな年若い本の虫が周辺の物をひっくり返しながら館内を走っていくのは、非常にそぐわなかった。ハーマイオニーは狭い螺旋階段を一度に二段ずつ駆け上り、いつもの部屋のドアを、壁に激突するほどの激しさでばたんと開けた。
「ドラコ、駄目よ」
必死に呼びかける。
ドラコは、室内に数歩入ったところに立って、すでに封筒をびりびりと開いていた。
「心配するな」
目も上げずに言いながら、折りたたんであった羊皮紙を開く。
「ただの手紙だ」
「たしかなの?」
息を切らしながら、ハーマイオニーは尋ねた。
ドラコがうなずくと、ハーマイオニーはぐったりと椅子に座り込み、安堵のため息をつき、図書館に走ってくるあいだにズキズキと痛み始めた脇腹を恐る恐るさすり始めた。
「読みたければ、読んでいいよ」
ドラコはぼんやりと言い、ハーマイオニーの膝の上に手紙を落としてから身体の向きを変えて本を一冊手に取り、座った。
ハーマイオニーは用心深く羊皮紙に目をやると、次にドラコのほうをちらりと見た。彼は本に書き込みをし始めており、ハーマイオニーにも手紙にも、まったく興味を失ってしまったようだった。肩をすくめると、ハーマイオニーは手紙を拾い上げて読み始めた。
ドラコへ
わたしがおまえにこれを伝えるのは、おまえがいつかは、少しでも子供じみた意地を張るのをやめて、わたしからのフクロウ便に目を通してくれるのではないかと望んでいるからであって、他意はない。ほとんどの手紙は破棄されているのではないかと思うが、おまえがいくらかは正気に戻って、連絡が取れることを祈っている。
残念ながら、おまえの大切な母親に残された時間は、あとわずかだろう。彼女は重い鳥狩病を患っている。聖マンゴ病院の専門医たちは、考え付くかぎりの方策を駆使して治療に当たっていると保証してくれた。しかしこれは重度の難病であり、またおまえの母親はむかしから、はかなく身体の弱い女性だ。持ちこたえるだけの活力が残っているとは思えない。また、おまえがわたしたちと疎遠になったことで、彼女は非常な衝撃を受けている。わたしはこのことを、どちらかと言えばおまえが学校でいくらかのいかがわしい要素、具体的に言えば、あの校長と、彼が尊重しているマグル出身者たちの影響にさらされたせいであろうと信じ込ませるようにしている。もちろん、わたしたちは二人とも本当のことを知っているが、おまえがあのような見下げ果てたやり方で家名を傷つけたと知れば、たとえ彼女が回復する見込みがあったとしても、完全に消え失せてしまうだろう。
わたしは彼女の病気を、できるだけ内密にしている。彼女の友人たちがいきなり見舞いに来て感情を噴出させると、よくないのではないかと考えている。また、この弱点を利用してわたしの目的を阻もうとするかもしれない輩もいる。彼女の病状をわれわれがどれほど深刻に捉えているかは、数少ない近しい友人たちにしか知らせていない。
わたし自身をおまえがどう思っているかについては、幻想は抱いていないが、せめて母親が死の床についていることについては、なんらかの気遣いを見せてくれるような息子に育てたと思いたい。しかしながら、選択はおまえの、いくぶん忠実さを欠く双肩にかかっていると言わざるを得ない。
父より
ハーマイオニーは顔を上げた。
「ドラコ?」
「この話はしたくない」
ドラコは目を上げずに、簡潔に言った。
「でも、まさかこんなことを信じて……」
「話したくないと」
ドラコはぱたんと本を閉じて、ハーマイオニーを睨みつけた。
「言ったはずだ」
「ここに書いてあることを、そのまま受け取るわけにはいかないわ」
ハーマイオニーは立ち上がって、歩き回り始めた。
「だって、あなたのお母さんが、命にかかわる病気どころか、風邪を引いてるという証拠さえ、ないんだから」
ドラコは立ち上がって、凶暴な目つきでハーマイオニーを見た。
「きみには関係ない、グレンジャー」
ハーマイオニーは足を止め、びっくりして彼を見た。
「なんですって?」
「きみには、まったく関係のないことだ」
ドラコはハーマイオニーに背を向けて本の山のところに行き、目当ての本を引っ張り出した。それから席に戻り、羊皮紙の巻物の下から羽根ペンを探し出す。
ハーマイオニーは言葉を失って、ドラコを見つめた。
「じゃあ、それでいいのね?」
彼が何か言葉を発したり、行動を起こしたりするのではないかとハーマイオニーは待ち受けたが、彼は平然としたまま動かなかった。
「分かった」
ドラコの横をすり抜け、机の上から本を一冊取ると、それをバッグに押し込んで肩越しに彼をねめつける。それから、勢いよく部屋を出て行った。ドラコはただの一度も、顔を上げなかった。
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