2004/3/27

Their Room
(by aleximoon)

Translation by Nessa F.


第 21 章 これもまた夢

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 朝になって目が覚めたとき、グリフィンドール塔の外では小雨が降っていた。しかし壁の向こうの湿気が、寮室にまで入り込んでくることはない。ハーマイオニーのベッドから数フィートのところでは、暖かい暖炉の火が元気に燃えさかっていた。赤みを帯びた光が、覚醒し始めたハーマイオニーの顔を縁取っている。ハーマイオニーはいつも、寝るときにベッド周りのカーテンを閉じないのだ。目を開けて四柱ベッドの天蓋を見上げる。このひとときだけは、安らかな気持ちで静かに横たわったまま、一人きりの時間を満喫していた。安心できる場所があるのは、ありがたいことだ。ロンやハリーに邪魔されることなく、じっと考え事にふけっていられるところ。ドラコの貫くような視線から身を隠せるところ。実際、今や寮の寝室はハーマイオニーにとって、外の喧騒から逃れていられる、唯一の聖域となっていた。赤と金色の掛け布団の下に潜って、学校中の人々が、通りすがりに自分に関する噂をささやいているなんて嘘だというふりをしていられる、唯一の場所。


 今まではかなり首尾よく隠しおおせてきていた秘密が、いきなり学校中の関心の的となってしまったみたいだった。別に、ハーマイオニーとドラコが共同で課題に取り組まされているということを誰も知らなかったわけではない。これは大半の生徒たちにとって、特に問題ではなかった。とりわけハーマイオニーを直接知っており、彼女の学業に対する徹底的な打ち込みぶりを分かっている者にとっては。しかしなんだか一夜にして、ハーマイオニーがドラコ・マルフォイとふつうに考えられる以上の頻度で行動を共にしており、さらにそのうえ、それを楽しんでいるらしいと、ホグワーツ中の人々が姿勢を正して刮目し始めたように思われた。おまけに、渦中の人であるスリザリン生のほうも、この状況について別に困ってはいないようではないか、と。


 ハーマイオニーに親しい者たちは、マルフォイと彼女のあいだに、授業の課題だけに留まらない何かが起こっていると気付いていた。友人たちのあいだでは、ドラコとの関係について、いくつかの意見が表明されてきた。最も有力な見解は、多かれ少なかれ、ロンの主張に沿ったものだった。


「彼女は、どっかおかしくなってしまったんだ!」


 ハーマイオニーは、ロンに悪気がないことを分かっていた。ハリーとロンは、ただハーマイオニーを守ろうとしているだけなのだ。しかし、ハーマイオニーはこれまでずっと一人っ子である自分に満足してきた。過保護な兄弟なんか、まったく不要なのだ。


 友人たちは、ドラコとつるむことでハーマイオニーが自分を貶めているとしても、それは自分たちだけの秘密にしておこうと判断していたらしかった。ハーマイオニーがドラコ絡みでおかしなふるまいをしたり、不思議にも彼を受け入れていたりしていても、見ていないふりをすることで納得しているようだった。そのため、二人が図書館のはずれの部屋に引きこもっていることは、これまで校内の人々の意識に上ることなくきた。


 しかしもちろん、状況は変わってしまった。昨日、ドラコが変身術の教室の外でハーマイオニーをつかまえてから。二人のどちらにしても、決定的なことは口にしていない。しかし、見物していた者たちにとっては、確固とした証拠など必要ではなかった。全員が、普段は皮肉に満ちて冷静なドラコの声音に混じっていた憤りと必死さを感じとっていた。しかしそれよりさらに皆を驚愕させたのは、ハーマイオニーが彼の要求を受け入れたことだった。


 すぐさま、噂が流れ始めた。あの二人が話をするような仲になったのは、いつ頃から? なぜハーマイオニーは、まだ彼に呪いをかけていないんだろう? どうしてドラコは、目の前に穢れた血がいるのを我慢しているんだろう? あの二人は、友達なのかしら? 友達以上なのかしら? この年、ホグワーツには、刺激となるような事件が非常に少なかった。三校対抗試合もない、石化した生徒もいない、脱獄した囚人もいない。そういうわけで、このグリフィンドール生とスリザリン生のあいだにもしかしたら芽生えているのかもしれない関係についての、ちょっとしたゴシップは、まるで野火のように校内の廊下に広がっていった。ハーマイオニーは、こんなに恥ずかしい思いをしたのは一年生のときにあの大量の失点をもたらして以来だと思った。


 さらに毛布の奥深くまで身を沈めて、ふたたび目を閉じる。もう二度とこの部屋の外には出たくない。


「ハーマイオニー? 起きてる?」
 ひどく近いところから、ささやき声がした。


 ハーマイオニーは目を開いた。片側をちらりと見ると、近くのベッドにパーバティとラベンダーが座っている。二人が何やらいわくありげな視線を向けてくるのを見て、ハーマイオニーは内心でうめき声をあげた。


「ハーマイオニー、起きててくれてよかったわ。話がしたかったの。女の子同士のお喋りってやつよ。ね?」
 ラベンダーは、ハーマイオニーの気に入らない笑い方で微笑んだ。


「ほら、校内でいろんな噂が流れているじゃない、それでね……」
 パーバティが口を開いたが、ハーマイオニーが毛布を蹴り飛ばしてそそくさとベッドから這い出したのを見て、口をつぐんだ。


「あらまあ、時計を見てごらんなさいよ。ほんとにもう七時半?」
 ハーマイオニーは問いかけながらクローゼットに飛び込み、わずか数秒後には洋服の上にローブを羽織りながら姿を現した。


 ラベンダーとパーバティはそんなに簡単には引き下がらなかった。二人はハーマイオニーが室内で羽根ペンや教科書をまとめているあいだ、ずっとつきまとっていた。
「これからマルフォイに会うの?」
 ラベンダーが訊いた。


 ハーマイオニーは、パーバティとラベンダーに顔を向けた。
「マルフォイ? もちろん、違うわ。ハリーとロンが次の試合のために練習するのを観に行くの」
 もちろん、これは嘘だった。今この瞬間までドラコのいる図書館に向かうつもりでいた。この朝、ハリーとロンが練習する予定なのかどうかさえ、よく分かっていなかった。


「そう、じゃあみんなで行きましょうよ」
 パーバティが陽気に言って、自分の腕とハーマイオニーの腕を絡め、引きずるようにして戸口を抜けた。


「いいえ、大丈夫よ。わたし、一人で行けるわ」
 ハーマイオニーは必死になって懇願した。取り調べが目前に迫っているということは明らかだ。


「何言ってるの! パーバティもわたしも、クィディッチ見物が大好きなのよ。それにわたしたち、普段は一緒に過ごす時間が全然足りないじゃない。そうよね、パーバティ?」


 二人はハーマイオニーを引きずったまま、一つ下の階まで降りた。ハーマイオニーは、段々と二羽のハーピーを連想させるようになってきたルームメイトたちから逃れるすべが何かないかと、懸命に考えをめぐらせていた。


「ハーマイオニー!」
 四年生の女子寮の戸口から、声がかかった。
「あなたに偶然会えてほんとによかったわ! 呪文学の宿題で、教えてほしいところがあるの」
 ジニーが部屋から出てきて、ハーマイオニーに向かって晴れやかな笑顔を向けた。


「ハーマイオニーはわたしたちと一緒にクィディッチの練習を見に行くのよ」
 パーバティが冷ややかに言った。


「あら、ほんのちょっとの時間しかとらないわよ」
 ジニーはハーマイオニーの片方の手をつかんで、ほかの二人からハーマイオニーを引き離した。
「ハーマイオニーは、あとから行くわ!」
 そう言うとハーマイオニーを自分の部屋に引き込み、ラベンダーとパーバティの鼻の先でドアを閉める。


 ハーマイオニーはジニーのベッドの端に腰かけるとホッとため息をついた。
「ありがと」


「気にしないで。助け舟が必要なように見えたから。あの二人、ほかにもっとやること、ないのかしらね?」
 まだパジャマを着たままだったジニーは、ハーマイオニーの傍らに来てもう一度ごろんとベッドに横になった。


「まあ、ほかのみんなも、ほかにやることないみたいだし」
 ハーマイオニーはぶつぶつと言った。


「でもはっきり言って、無理もないわよ。マルフォイと付き合ってるんでしょ?」
 ジニーはハーマイオニーの顔を見た。


「えっ?」
 ハーマイオニーは赤面した。
「ち……違うわ! みんな、そんなこと言ってるの?」


「支持率の高い説の一つではあるわね。あなたがドラコを利用して、ロンまたはハリー、あるいはその両方を嫉妬させようとしているという説と、ドラコが何かあなたを脅迫するネタを見つけて宿題を全部やらせているという説のすぐうしろにつけてるわ。わたしが個人的に気に入ってるのは、あなたが実は長いこと行方不明だったマルフォイの双子の片割れで、あなたたち二人はようやく再会できたのが嬉しくてずっと一緒に過ごしているってやつ」


「でもわたし、ドラコと似たところなんか全然ないじゃない」
 ハーマイオニーはつぶやいた。束の間、唖然とした表情になったあと、ジニーをにらみつける。
「それ、あなたが今、作ったんでしょ!」


「まあね。そんなかんじ。でもね、流れている噂の一部は、ほんとにどうしようもなく馬鹿馬鹿しいの」

「慰めにもならないわ、ジニー」
 ハーマイオニーは気難しげにつぶやいた。


 ジニーはやさしい笑顔を向けてきた。
「こんなの、すぐに収まるわ。ほんとよ。今はただ、みんな退屈してるから。去年あなたが、ヴィクトール・クラムと一緒にダンス・パーティに出たあと飛び交った噂のこと、覚えてる? 言わせてもらえればね、ハーマイオニー、あなたの異性関係はホグワーツにとって、とにかく無視しがたいほど刺激的なのよ」


「光栄なことだわ、まったく」
 ハーマイオニーは立ち上がると、部屋の中を歩き回った。
「わたし、これからどうすればいい?」


 ジニーは自分のクローゼットに入ると、制服のローブに着替えて出てきた。
「もちろん、わたしと一緒に朝食に行くのよ。ほかの生徒たちを避けて一人っきりで食事をするなんて、健康的とは言えないし。それに大体、こそこそすればするほど、余計にうしろめたいことがあるように思われるわ」


「どうして、そんなこと分かるの?」
 ハーマイオニーは尋ねた。


「わたしには六人もの兄がいるのよ。それに、うちのママ、どんなだか知ってるでしょ。わたし、トラブルに対処するコツをつかんでるの。一番いいのは、みんなの目の前で笑い飛ばしてやることよ」
 ジニーはハーマイオニーと腕を組んで、部屋から連れ出した。


「いい考えとは思えないんだけど」
 グリフィンドール塔を出ながら、ハーマイオニーはぶつぶつと言った。