2004/2/14

Their Room
(by aleximoon)

Translation by Nessa F.


第 16 章 何もかもゲーム

(page 2/3)

 冬休みの残りの日々を、ドラコは図書館にこもり勤勉に作業を進めて過ごした。彼が暗号を解読したのは二日目のことだった。まあ、正確には彼が、というより二人が、と言うべきだろう。けれどもハーマイオニーはあれ以来まったく姿を見せなかったので、気分としては賞賛を受ける権利の大半は自分にあるように思えたのだった。もっとも、それほど賞賛されるほどのことでもなかったのだが。解読してみると、これらの書物は個人的な日誌だった。非常に長ったらしい個人的な日誌。それでも彼は、図書館を毎日訪れ、それらの日誌を翻訳していった。そのうち彼女がやってくるに違いないという期待を、どうしても捨てられずにいた。しかしハーマイオニーは、この二人の部屋に、一度も顔を出すことがなかった。この行き違いの何もかもに恐ろしくうんざりしていなかったとしたら、むしろ彼女の粘り強さに感心したかもしれなかったが、今このときのドラコには、彼女のことをものすごい強情っぱりとしか思えなかった。かろうじて明るい面を見るとすれば、彼女がポッターやウィーズリーと過ごす時間も、ますます減っているらしいことくらいだ。


 ハーマイオニーがあの二人と一緒に食事をしなくなったことは、ほとんど即座にドラコの注意を引いた。彼女は大概の場合、グリフィンドールの長いテーブルの端で、ウィーズリーの妹と一緒に座っていた。ごくたまには、数占いのクラスの友人たちがいるレイブンクローのテーブルに着くことすらあった。しばしば、ドラコはポッターあるいはウィーズリーが彼女に向かって心配そうな視線を投げかけているのを目撃した。彼女がそれを完全に無視するたびに、ドラコは喜ばしい気持ちになった。そういうときには、彼女が、もちろん自分のことをも無視しているのだという事実を念頭から追い払いやすかった。




 ようやく彼女がふたたびポッターそしてウィーズリーと一緒にいるところを見たのは、クリスマス休暇の最終日だった。閑散とした中庭で、彼女は座って本を読んでいた。ドラコが近づこうとしたちょうどそのとき、ポッターとウィーズリーが石のアーチ門の一つから姿を現した。ドラコは遠くにいたので、彼らが何を言っているのかを聞き取ることはできなかったが、少しのあいだいくぶん激しい言い合いのようなものをしてから、ハーマイオニーが泣き始め、二人の少年たちはとてもホッとした表情になった。


 彼女がウィーズリーの身体に腕を回して、彼のマントに顔をうずめたのを見て、ドラコは歯ぎしりをした。ウィーズリーが彼女を抱き返すと、怒りはさらに強くなった。彼女がポッターのほうにも向いて同じことをしたとき、ドラコはもう自分を抑えることができなかった。大股で中庭へと入っていった。


 先に彼に気付いたのは、ウィーズリーだった。
「なんだよ、マルフォイ?」


「別に大した用じゃない。きみたち全員におめでとうと言いたかっただけさ。驚異の三人組がようやく仲直りをしたと知って、学校中が大喜びだろうとも」
 冷たく物憂げな声で、ドラコは言った。


「黙れよ、マルフォイ」
 ポッターが険しい口調で言った。


「黙らせてみたらどうだ、ポッター」
 同じくらいの激しさで、ドラコは言い返した。


 ポッターはハーマイオニーから手を放し、ウィーズリーとともにドラコのほうに足を踏み出した。ドラコはひるむことなく、ポケットの中で杖を握り締めたまま、怒りの感情に身を委ねた。しかし少年たちの誰もがまだ何も言葉を発したり行動を起こしたりできないでいるあいだに、ハーマイオニーが駆け寄ってきて、ドラコとほかの二人とのあいだに割り込んだ。


「喧嘩はやめて。ハリー、ロン、おねがい」
 二人に向かって、ハーマイオニーは懇願した。それから何も言わずにドラコのほうを見た。大きな茶色の目を見れば、彼女の言いたいことはすべて明らかだった。けれどもドラコは、それを受け止めるには、あまりにも腹を立てすぎていた。この時点では、何もかも承知しているかのような暖かい瞳は、ドラコの怒りに油を注ぐだけだった。


「毎回毎回、ぼくの邪魔をする必要はあるのか、グレンジャー?」
 ドラコは冷ややかに言った。


 ハーマイオニーはたじろいだが、その場に踏みとどまった。ウィーズリーがその横をすり抜けて前に出た。

「ハーマイオニーにそんな口を利くなよ、マルフォイ」
 非難を込めて、彼はささやいた。


「ぼくがどんな口を利こうと、ぼくの勝手だ、ウィーズリー」


 これを聞いて、ポッターもハーマイオニーを押しのけて前に出た。杖を取り出している、とドラコは気付いた。頭の片隅では、なぜ自分はこんなことをしているのだろうかと思っていたが、怒りのせいで、答えを出せるほどに考えをまとめる余裕もなかった。


「おいおい、ポッター。杖なんか出してどうしたんだい? ここにいるぼくたちはみんな、友達じゃなかったのか?」
 当てこするような口調でドラコは尋ねた。


「そいつは本当に面白い冗談だな、マルフォイ」
 ウィーズリーが、むりやりに笑い声をたてた。


「ぼくたちは友達じゃなかったのか、ハーマイオニー?」
 突然ハーマイオニーのほうを向いて、ドラコは問いかけた。呼び名をさっきと変えたのは、わざとだった。


 彼女は何も言わず、ドラコから目をそらした。ドラコはいくぶん、自分の言い分が認められたように感じた。


「ぼくたちは友人同士のはずだ。ぼくは、こいつら二人には想像もつかないきみの一面を知っている」
 ドラコは指先で彼女の頬を撫でた。彼女が赤くなったのを見て、ニヤリと笑う。ポッターとウィーズリーが、信じられないという衝撃の表情でこちらを向いたのを見て、ドラコは勝ち誇った気持ちになった。


「どういう意味だよ、マルフォイ?」
 ポッターが尋ねた。


「分かるだろ」
 ドラコは意味ありげに応じ、少年たちにウィンクをしてみせた。


 グリフィンドールの二人の少年たちから怒声が上がった。しかし二人のどちらかが動く前に、ハーマイオニーが取った行動でほかの三人全員が凍りついた。彼女は、ドラコの頬を引っぱたいたのだ。ドラコがふたたび彼女のほうに振り向いたときには、淡いブロンドの髪が乱れて目の上に落ちかかっていた。彼女は目に涙を溜めて、身体を震わせていた。ポッターとウィーズリーが驚愕の表情で彼女を見つめていたが、ドラコは彼女と目を合わせたまま、決して視線をそらさなかった。ドラコ自身の魂を鏡のように映し出しているかに思えるときもある、あの茶色の目。


「わたしは、間違っていたわ」
 ハーマイオニーは、ささやいた。


 その言葉が、ポッターやウィーズリーの耳にも届くように発せられたものだったのかどうかは、ドラコには分からなかった。しかしそのときの彼女は、二人のどちらのことも、まったく念頭から追いやってしまったように見えた。ドラコは、この可憐な少女から、目をそらすことができなかった。ドラコの目の前であっても、涙を堪えようという意識をまったく失って、涙をはらはらと、とめどもなくこぼしている。しかし、彼女がドラコを釘付けにしていたのは、ほんのわずかなあいだだった。すぐにドラコにもほかの二人にも背を向け、頭を高く掲げて、彼女は雪に覆われた中庭を立ち去っていった。


 ポッターとウィーズリーは、黙ったまま彼女を見送った。彼らがくぐってきたのと同じアーチ門を通って彼女が姿を消すと、二人はドラコのほうに向き直った。


「おまえは、よっぽど自分が偉いと思っているんだろうな、マルフォイ?」
 冷たい声で、ポッターが言った。


 ポッターがウィーズリーのローブの背中をしっかりと握り締めていることに、ドラコは気付いた。おそらくこれは、ありがたいことなのだろう。赤毛の少年は、ためらいもなく素手でドラコを殺せそうな形相をしていた。


「行こう」
 ポッターが友人に向かってささやいた。ウィーズリーは抗いかけたようだったが、結局は身をひるがえして、連れのあとに続いた。


 ただ一人残されたドラコは、足もとの雪を睨みつけた。彼女は、分かってくれない。ドラコの観点では、これはあまり公平とは言えない状況だった。彼女は、あの二人を許したのだ。そもそも彼女があんなに取り乱していたのは、彼らのせいだったのだということを、ドラコは知っている。なのに、彼女は誰となら言葉を交わす? 誰に対してなら、義理立てをする? もちろん、あの忌々しいグリフィンドールのやつらだ。ドラコは苛立たしげに雪を蹴り飛ばした。しかし内心では、自分自身をこそ蹴りつけるべきなのではないかと、感じずにはいられなかった。