2004/2/7

Their Room
(by aleximoon)

Translation by Nessa F.


第 15 章 待ち伏せ、そしてハグリッドとお茶

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 ドラコはうなずいて、ロウソクを吹き消し始めた。ハーマイオニーは自分の荷物をまとめようと身体の向きを変えたが、そのとき、ダンス・パーティから直接ここに来たことを思い出した。パーティから早めに抜け出すことをディーンに慌ただしく謝るのにも、ほんのわずかな時間しか費やさなかった。ハリーとロンは二人とも、一回は一緒に踊ってくれると約束したじゃないかと文句を言い、ジニーは意味深な視線を向けてきたが、なんとか彼ら全員をかわして廊下に逃れることができたのだった。気が昂ぶっていたハーマイオニーは、ハリーとロンが、ドラコと共に会場を離れる自分を目撃していたとは、気付いていなかった。


「いいか?」
 ドラコが戸口から声をかけてきた。


 ハーマイオニーは巻き毛の頭を上下に振った。暗闇の中ではドラコに見えるはずもなかったが。


 部屋のドアにハーマイオニーが鍵をかけると、二人は音を立てないように螺旋階段を下りて、図書館の中を横切った。いつもなら、図書館を出たところで別々の道に分かれるのだが、ドラコは考え事に夢中になっているようで、そのままグリフィンドール塔へと続くしんとした廊下を、ハーマイオニーについて歩いてきた。ハーマイオニーは視界の片隅でドラコを見ていたが、彼はとても遠いところを見ているような表情だった。


 肖像画の穴にたどり着いたとき、太った婦人はかすかに鼾をかいていた。ハーマイオニーはドラコのほうを振り向いた。彼は中までついて来る気なのだろうか?


「ドラコ?」
 ハーマイオニーはささやいた。


「そうか、ここがグリフィンドール塔への入り口だったのか。いいこと知ったな」
 ドラコは静かな声でつぶやいた。


「ええ、そうでしょうとも。ちょくちょく立ち寄って顔を出したいとでも思っているんでしょうね」


 ハーマイオニーは辛抱強く、彼が立ち去るのを待った。どんなに疲れていようとも、彼の目の前で合言葉を口にすることはできない。しかしドラコは、心ここにあらずといったかんじだった。そのとき、ハーマイオニーは自分が彼のマントを着ていることを思い出した。


「はい、これ」
 濃い灰色のマントを肩から外して、つぶやく。


 ドラコはマントを直接見てはいないようなそぶりで、ゆっくりと受け取った。ドラコは、ハーマイオニーをじっと見つめていた。その視線に晒されると、ハーマイオニーは落ち着かない気持ちとわくわくするような気持ちが同時に湧き起こるのを感じた。灰色の目は、今一度、荒々しく暗い色を帯び、顔は半ば影に覆われていた。彼は何かを言おうと、あるいはもしかしたら、何かをしようとしているように見えたが、ちょうどそのとき動いたものがあって、二人の注意を引きつけた。


 たった数フィートしか離れていない場所に、ミセス・ノリスが座っていた。大きな目が光って、暗闇の中から二人を観察している。


 ハーマイオニーは息を呑んで、一歩うしろに退いた。
「早く行ったほうがいいわ。あの猫は思いも寄らないほどの速さでフィルチを呼んで来れるんだから」


「それできみはこれまでに何度、消灯後にあのうっとうしい猫に出くわしているんだ?」
 ドラコは驚いてささやいた。その声には、敬意を払うような調子があった。


「遺憾に思うくらい何度も。さあ、早く行って!」
 ハーマイオニーは腕を振って階段の方向を指した。


 ドラコはまだ、じっと立ったままだった。


「ねえ、あなたが捕まっちゃったら、いったい誰が、明日ラテン語の翻訳を手伝ってくれるの?」
 ハーマイオニーは懇願した。


 ドラコはミセス・ノリスに目を向け、その後もう一度ハーマイオニーを見た。そしてうなずいて、階段を駆け下りて行った。ミセス・ノリスはハーマイオニーに冷たい視線を投げかけてから、くるりと回れ右して彼を追いかけた。ハーマイオニーは肖像画のほうに向いて、ささやいた。


「クリスマス・チアー(クリスマスのご馳走)」


 太った婦人はまどろみながら鼾の音を立て、それからあくびまじりに口を開いた。
「帰りが遅いのね、お嬢ちゃん。ボーイフレンドには、これからは消灯後まで引き止めないでって言っておきなさいな。ハンサムな彼ではあるけれどもね」
 ピンク色に着飾った貴婦人が微笑みかけてくると、ハーマイオニーは赤くなった。


「ボーイフレンドなんかじゃありません!」
 肖像画の穴に足を踏み入れながら、鋭い口調で言う。


「ええ、そうでしょうとも」
 背後で肖像画がぱたんと揺れて通路を塞ぐとき、面白がっているような声が耳に届いた。


 談話室は真っ暗だった。ハーマイオニーは女子寮への階段を上っていった。部屋に入ると、ラベンダーとパーバティはぐっすり眠っていた。ベッドサイドの時計を見ると、午前四時。ハーマイオニーは急いでドレス・ローブを脱ぎ、パジャマに着替えた。柔らかいフランネル生地の感触を心地よく思いながら、この夜ずっと、頭の中で大きな位置を占めていた人物について、あらためて考えてみる。ドラコ・マルフォイ。


 ベッドに這い上がって、周囲のカーテンを閉めた。分厚い羽毛布団の下に潜り込んで、真紅の天蓋を見上げる。いったい全体、どういうことなんだろう?


 考えても考えても、分からなかった。ある一瞬、彼はいつもと同じマルフォイだった。これまでどおり、すべての穢れた血を厭い、ひたすらハーマイオニーや友人たちの不幸を願っている少年。ところがその次の瞬間には、彼はやさしさを見せ、ほとんど思いやりがあると言っていいほどの態度で接してくるのだ。突然、深い灰色の目が自分の目を覗き込んできたときのことを思い出して、ハーマイオニーは身体を震わせた。


 ダンス・パーティのとき、彼がやってきたのは、予想外のことだった。でも、来てくれて嬉しかった。それまでが楽しくなかったわけじゃない。ただ、求めていたものとは、何かが違っていた。馬鹿げた考えだと思いつつも、ハーマイオニーは今夜、何か摩訶不思議な出来事が起こってほしいという期待を、どうしても打ち消せずにいたのだ。そして、認めるのが癪ではあったけれども、満天の星空の下で雪片がやさしく舞い落ちるなかをドラコとダンスするというのは、これ以上ないというくらいに、摩訶不思議だった。