2004/1/24

Their Room
(by aleximoon)

Translation by Nessa F.


第 13 章 ジニーとの買い物

(page 3/3)

 ハーマイオニーは例の部屋へのドアを開けて、足を止めた。どうやったものだか、マルフォイが彼女よりも先に学校に戻ってきていたのだ。彼は大きなテーブルの前に座って使用済みの羊皮紙の山の上に足を乗せ、膝に本を置いていた。ハーマイオニーが突っ立っているとマルフォイは顔を上げた。その瞬間、ハーマイオニーの脳裏に今朝の夢の細部が流れ込むようによみがえってきた。真っ赤になるのを自覚しつつ、ハーマイオニーは気を取り直すために息を吸い込んでから、室内に入ってドアを閉めた。


「どうかしたのか、グレンジャー? ちょっと顔が赤いようだぞ」
 そう言ったマルフォイの銀色がかった目は、そこはかとなく楽しそうだった。


 ハーマイオニーは返答を拒否してただ彼の横を通り過ぎ、ぎくしゃくと窓際の木箱のところまで歩いていった。意味不明だった書物の一冊を取り出してテーブルに戻り、静かに腰を下ろす。その後も数分間、無視し続けていたが、相手がまだずっとこちらを観察している気配が感じられることで、内心段々と苛々し始めていた。


「何よ!」
 ついに頭に来て、ハーマイオニーはつっけんどんに言った。
「いったい何が、そんなに面白いの?」


 マルフォイはニヤリと笑った。明らかに、ハーマイオニーを悩ませることができて、嬉しがっているのだ。
「特に何も。単に、今のきみが随分とウィーズリーそっくりなんで、愉快に思っただけだよ。そんなに赤くなれるとは知らなかった」


「外は寒かったのよ! それに、自分では赤いというより血色がいいんだと思ってるの」
 ハーマイオニーは冷たく言い返した。


「まあそういうことにしておこうか、グレンジャー」
 マルフォイはほとんど愛想がいいと言っていいほどの笑顔を向けてから、読書に戻った。


 ハーマイオニーはあともう一瞬を費やしてマルフォイの乱れた髪をにらみつけてから、自分自身が開いた本に完全に没頭した。時間はあっという間に過ぎてゆき、外の空は暗くなってきて、今では雪がどんどん降り始めていた。ある時点で、マルフォイは一言もなく部屋を出て行った。ハーマイオニーは視界の片隅でそれを確認して、彼がいなくなると、一人で肩をすくめた。


 小さくうめき声をあげ、ハーマイオニーはこめかみを指先で揉んだ。少なくとも一時間は取り組んでいるのに、まだ暗号はまったく意味をなさないままだった。わずかに身震いをして、彼女は寮のベッドの上の新しいローブのすぐ横に置いてきた暖かいマントのことを考えながら、ローブをしっかりと身体に巻きつけなおした。


 ドアが開いて、マルフォイがすたすたと戻ってきた。手にはカップを二つ持っている。そのうち一方を、彼はハーマイオニーの前に置いてから、テーブルの反対側の自分の席に戻って椅子に深く腰掛けた。ハーマイオニーはカップの中で湯気を立ち上らせている黒い液体を見下ろし、それから顔を上げて、すでに自分のカップの中身を飲み始めているマルフォイを見た。


「何これ?」


「なんに見える、グレンジャー? コーヒーだ」
 皮肉たっぷりの口調で、マルフォイは答えた。


「それは見れば分かるけど。どうして、わたしにもくれるの?」
 いぶかしげに、ハーマイオニーは尋ねた。


「冷え込んできたので、ぼくは馴染みの屋敷しもべ妖精のところに行って何か温かい飲み物でもと思ったんだ。きみの分も一緒にもらってきたほうが紳士的かと思っただけなんだが」


 ハーマイオニーはマルフォイの顔から自分のコーヒーカップに視線を戻して、疑わしそうに手の中で回した。


「ブラックでは飲めないなんて言わないよな? こういう刺激の強いものは飲めないとかいう虚弱な魔女もいるらしいがな」
 マルフォイはあざけるように笑った。


「飲めるわよ、もちろん」
 ハーマイオニーは鋭く言い返して、自分のか弱くなさを証明するかのように、熱い液体をがぶりと飲んだ。


 すぐに身体がぽかぽかと暖まってきて、ハーマイオニーは書物に注意を戻した。マルフォイの顔を一瞬だけよぎった、かすかな微笑には気付いていなかった。


 その後は、二人とも黙々と作業を続けた。しばらくしてハーマイオニーが腕時計を見ると、もうすぐ閉館時間だった。書物を読み解きたいという欲求がつのって、ハーマイオニーはもう我慢の限界だった。


「あなたは解読できたの、マルフォイ?」


「なんだって? きみ、まだ分かってなかったのか、グレンジャー?」
 マルフォイは、ハーマイオニーの質問に、質問で応えた。


 ハーマイオニーは相手をねめつけたが、とにかくプライドを飲み込んだ。
「ええ、分かってないの。あなたのその本には、何が書いてある?」
 その問いかけは、息を殺した小さな声で発せられた。これらの書物に何が書いてあるんだろうという期待感で、まるでこれから大冒険に繰り出すような気分だった。


「さっぱり分からない」
 その言葉を強調するために、マルフォイは本をぱたんと閉じて、前方のテーブルの上にぽいっと投げ出した。


「えっ? でも、だってあなた今……。あなたって時々、本当に嫌なやつだわ、マルフォイ」
 ハーマイオニーは胸の前で腕を組んで、マルフォイを睨んだ。


「分かってる。しかしそれでも、ぼくは恐ろしいほどの美形だからね。それで数少ない欠点も補えているさ」
 マルフォイはにこやかに応えた。


 ハーマイオニーはただ冷たく嘲笑して、自分の本を閉じた。これ以上続けるには疲れすぎていると判断して、テーブルの上のメモの山の傍らに本を置く。それから最後にもう一度だけ、何か見逃したことがあるのではと、メモに目を通した。まだ暗号を解読できていない理由が、分からなかった。そのつもりで見ると、明らかにそれは暗号だった。数字の並ぶパターンは、すべての本に共通している。数字が個別に四つずつのグループに分かれていることと、ほぼ例外なく "11" だけは単独で登場するということからも、間違いなかった。ハーマイオニーはあくびを噛み殺して、ここまでくたびれきってしまったら、これ以上やっても無駄だと思った。バッグを肩にかけ、ドアに向かう。


「明日も来るか、グレンジャー?」
 うしろからマルフォイが声をかけてきた。


「当然」
 ハーマイオニーは眠そうな声で応じてから、外に出てドアを閉めた。