2004/1/24

Their Room
(by aleximoon)

Translation by Nessa F.


第 13 章 ジニーとの買い物

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 ジニーと腕を組み、ハーマイオニーは段々と雪が積もりゆくホグスミードを歩いていった。南のほうの空は吹雪いてきていたが、ひどい雪嵐になるのは、今晩遅くなってからだろう。今たちまちは、雪片が午後の空からふんわりと舞い降りて、クリスマスの飾り付けが施されてもとから美しいのどかな村の風景を、完璧に仕上げている。街灯と街灯のあいだにふさふさとした花飾りがかけられ、ヒイラギやツタでできたリースが、すべての家々のドアや窓を飾っているようだった。


 ロンとハリーがむりやり連れてきてくれてよかった、とハーマイオニーは思った。いつもなら、休暇中にホグスミード行きが許されることはなかったのだが、やはり今年は状況が特別だった。学校中が生徒たちでごった返している今年は、ホグスミードへ行くのを喜ぶ者が多いだろうと先生方は考えたのだ。


 ハリーとロンは、二人の少女たちの数歩前を歩いていた。中央の広場にたどり着くと、四人は立ち止まって、顔を見合わせた。


「えーと、そのう、ここから先は、ハリーとぼくだけで買いに行きたいものがあるんだ。きみたちがそれでかまわなければだけど」
 ロンがそわそわとしながら言った。


 ジニーは胸のところで腕を組み、感心しないという顔つきで兄のほうを睨んだ。


「大丈夫よ、ロン。ジニーとわたしは新しいローブを見に行くつもりだから。ね、ジン? 両親がクリスマスに新調しなさいって、わたしにお金を送ってくれたの」
 いまにも何か言い出しそうにしていたジニーをさえぎって、ハーマイオニーは言った。


「よかった!」
 ハリーが言った。
「じゃあ、一時間後に、"三本の箒" で待ち合わせようか?」


 ハーマイオニーがうなずくと、少年二人は背中を向けて低い声で語り合いながら歩み去っていった。


「クリスマス・プレゼント買うのを、ギリギリ直前まで延ばし延ばしにしてたんだわ」
 ジニーは鋭い口調で言った。
「わたしはもう、とっくのむかしに済ませてたのに」


「まあまあ、ジニー。グラドラグスに行きましょう。わたし、学校用のローブがちょっと小さくなってきてるの。あと半インチ背が伸びたら、本当にまずいことになりそう」


 "グラドラグス魔法ファッション" は、ホグスミードの中では比較的大きい店舗の一つだった。そしてほかのところと同じく、美しいクリスマスの飾り付けが施されていた。燃え尽きることのないキャンドルが建物の軒に沿ってずらりと並んでいる。その一本一本に、ちかちかと点いたり消えたりする魔法がかかっていた。ドアのところには、三人の緑の妖精小人までいて、陽気にクリスマス・キャロルを歌っている。店先全体がウィンドウのようになっており、少女たちはしばらくのあいだ店の外に立ったまま、飾られてある色鮮やかなローブをうっとりと見つめた。


 ハーマイオニーは、洋服のショッピングが得意ではなかった。魔女でよかったと思うことはたくさんあるが、こういうときもそうだ。基本的にシンプルなローブさえあればいい。しかしウィーズリー家の末娘は明らかに、ファッションに対して多大なる情熱を抱いているようだった。しばらくして気が付くと、様々に色調や素材の違う黒いローブを目の前に積み上げられていた。


「ジニー、わたしが欲しいのは、ごく普通の学校用ローブ一式だけなの」
 まだまだ高くなっていくローブの山の陰から、ハーマイオニーは懇願した。


「何言ってるの。普通のローブなんか見たってつまらないじゃない。これ、どう思う?」


 ハーマイオニーは積み上げられたローブの向こうに視線を届かせるために首を伸ばし、ジニーが手にしているとんでもなくギラギラした黒いローブを見た。それは、紛らわしいほどある種の生き物の皮そっくりだった。地面を這いまわるような。それとも……と、ハーマイオニーは、顔をしかめながら考えた。地面をするすると滑っていくような生き物。


「ジニー。わたし、何がなんでも絶対に、蛇皮でできた服の試着なんかしないから」
 断固として、ハーマイオニーは言った。


 ジニーは一瞬だけ、がっかりした表情になって、ハーマイオニーの背後に視線を投げかけた。突然、その顔に笑みが浮かんで、ジニーは興奮の歓声をあげ、ハーマイオニーを押しのけるように突き進んでいった。ハーマイオニーは呆れ顔になって、ふいに自分が今、図書館にいるのならいいのにと思った。一抱えのローブを、辛抱強く待機していた店員の魔女に引き渡す。それから若い店員の不機嫌な強い視線を避けて大急ぎで身体の向きを変え、店内を見渡してジニーの姿を探した。


 ジニーはドレス・ローブのコーナーにいた。濃いスミレ色のローブを引き出して自分の身体に当て、近くにあった鏡で検討している。ハーマイオニーを見ると、手振りで招いてきた。


「これどうかしら?」
 ハーマイオニーに顔を向けて、ジニーは尋ねた。


「素敵だわ、ジン。でも、たしか今年のドレス・ローブはもう持ってると思ったけど」
 ハーマイオニーは友人に見惚れつつ、言った。紫色のローブは、たしかにジニーによく似合っていた。


「ええ、そうよ。パーシーが誕生日に買ってくれたの。でも見るだけなら、ただでしょ。そうだ、だったらあなたのを探せばいいわ!」
 ジニーはローブをラックに戻して、周囲のほかのローブを物色し始めた。


「わたし、新しいドレス・ローブなんか要らないわよ。去年のやつが気に入ってるもの」
 ハーマイオニーは憂鬱な声音で言った。去年のダンス・パーティでの自分の装いに、彼女は非常に満足していた。


「そうね、でも、去年も着たのよね」
 ジニーは単語の一つ一つをわざとはっきりと発音しながら言った。
「それに大体、制服のローブが短くなってきてるなら、去年に着てたドレス・ローブだって短くなってきてるはずだと思うんだけど」


「わたし……」


 ハーマイオニーは一瞬沈黙した。それは思いつかなかった。でもジニーの言うのも、道理だ。去年のドレス・ローブはぴったりのサイズだったから、きっと今はもう小さすぎるだろう。ハーマイオニーは自分の周りのローブを眺めて、ため息をついた。どうやら、思ったよりずっと長い時間を、ここで過ごすことになってしまいそうだ。ジニーのほうはしかし、ちっとも困ってなどいないようだった。さっそく一、ニ着のローブを引っ張り出して、ハーマイオニーの身体に合わせてみている。


 ハーマイオニーはジニーに背を向けて、ローブの布地に手を滑らせた。ガラスのように滑らかなもの、硬くてごわごわしたもの。全体がドラゴンの皮でできているローブもあった。ジニーが鏡のそばのテーブルに積み上げているローブの山を、なるべく無視することにして、ハーマイオニーは目の前のラックに意識を集中した。すぐに、ある一着のローブに目が引き寄せられた。それを手に取って眺めてみる。色は暖かみのある真紅で、ヒイラギの実を思わせた。布地自体は触れると絹のように滑らかで柔らかかったが、絹よりはしっかりしている。生地の表面がマットなかんじに仕上げてあって、一部のほかのローブのように光を反射したりはしていなかった。さりげない美しさのあるローブだ。凝った部分はといえば、わずかに広がった袖くらいで、袖口に光沢のある細いリボン状のへりが付いていた。ハーマイオニーの顔に笑みが広がった。ジニーに見せようと振り返る。


「これ見て!」
 二人は同時に言った。


 ジニーのほうも、ハーマイオニーに見せようとローブを差し出していた。感嘆の声を交わしながら、二人の少女は二着のローブを惚れ惚れと見た。ジニーが目を付けたローブは、明るいブルーだった。薄くて軽やかな、光があたると揺らめくようにかすかに輝く素材だ。裾まわりに繊細なひだ飾りが付いており、袖は手首にぴったりと付くよう袖口に向かって段々と細くなっている。ハーマイオニーはそれぞれのローブを見比べてから、ジニーに笑顔を向けた。どちらかを選ぶなんて、できるかしら? しかしジニーは硬直して、ハーマイオニーの肩の先の、ある一点を凝視していた。


「どうしたの?」
 ハーマイオニーは問いかけながらうしろを振り返った。


 ドラコ・マルフォイが店の外に立ったまま、大きなウィンドウ越しにこちらを――ハーマイオニーを――見つめていた。妖精小人の三人組が彼を取り囲んで歌っていたが、彼は分かっていないようだった。どれくらい長いあいだ、ショッピング中のところを見られていたのだろうかと考えたハーマイオニーの顔が、真っ赤になっていった。突然、彼は物思いから醒めて我に返り、自分のしていたことに気付いたように見えた。彼は素早く身をひるがえして、段々と激しくなっていく雪の中を、大股で立ち去っていった。


「まあ」
 ジニーが、呆然とした声で言った。
「どう考えてもあれは、妙なかんじだったわね」