2004/1/9

Their Room
(by aleximoon)

Translation by Nessa F.


第 11 章 悪ガキ

(page 3/3)

 ハーマイオニーは冬用のマントをしっかりと身体に巻き付けなおして、何か暖かい飲み物でも持って出ればよかったと思った。顔を空に向けて、グリフィンドール寮のクィディッチ・チームの練習風景を見つめる。スニッチが姿を現すのを待ちながらほかのメンバーよりも高いところでうろうろしていたハリーが、こちらに手を振ってきた。大概の場合、ハーマイオニーはクィディッチの練習を見物するのが好きだったが、今日はこんなに長いあいだ外に出ているには、ちょっと寒すぎる。両手をこすり合わせて、ハーマイオニーは大きく息を吐き出し、その息が自分の周囲で白く曇るのを見てそっと微笑んだ。


「やあ、ハーマイオニー」


 下を向くと、ディーン・トーマスが階段を上ってこちらにやってくるところだった。


「こんにちは、ディーン。元気?」
 ハーマイオニーは明るく挨拶した。


 ディーンは暖かい笑みを浮かべ、隣に座った。鞄の中を探して、マグルの魔法瓶を取り出す。ハーマイオニーは破顔して、ディーンのほうに身を寄せた。


「何が入ってるの?」
 好奇心あふれる笑顔で尋ねる。


「ホット・サイダーだよ。屋敷しもべ妖精たちが朝からずっと、キッチンで作ってたんだ。それでとうとうシェーマスとぼくで、降りていってちょっともらって来ることにしたんだ」
 ディーンは魔法瓶の蓋として機能していた小さなカップに琥珀色の液体を注いで、ハーマイオニーに手渡した。


「ありがとう、ディーン。ここにいると、本当に凍えそうで。どうして練習を見に行くなんて言っちゃったのかしら。もっと役に立つことだってできたのに」
 ハーマイオニーは悩ましげに言った。


「たとえば数占いとか?」
 ディーンはニコッと笑った。
「数占いなんかより、絶対クィディッチ見物のほうがいいって。クィディッチよりもいいものがあるとしたら、サッカーだけさ」


「わたしの友達って、なんでみんなスポーツ・マニアばっかりなの?」
 ハーマイオニーは悲しそうな声を作って尋ねた。


「えー。実を言うとさ、ハーマイオニー。友達という言葉で思い出したんだけど、ちょっと訊きたいことが……つまりぼくが言いたいのは、その、ぼくらは友達だし、それでさ」
 ディーンは恥ずかしそうに足元を見下ろした。
「思ったんだけど、えーと、そうだね、もしかしたらもうロンかハリーと行くことになってるかもしれないけど、もしそうじゃなければ、そしてぼくらは友達同士であることだし」
 ここで言葉を切って、ハーマイオニーの顔を見る。
「ぼくと一緒にダンス・パーティに行く気ない?」


 ハーマイオニーは微笑んだ。
「そうね。わたしロンともハリーとも一緒には行かないの。あの人たち、どうしてもまたダンス・パーティに出なくちゃいけないなら、今度はパートナーなしで行くんですって」


 ディーンはこの新情報で、いくぶんホッとした顔になった。


「あなたと一緒に行きたいわ、ディーン。楽しく過ごせそう」
 ハーマイオニーは言った。
「あら、見て。練習終わったみたいよ」


 ディーンは振り返って、グリフィンドール・チームの面々が地上に降りてきつつある競技場のほうを見た。


「あいつらのところへ行く?」


「ええ」
 ハーマイオニーは立ち上がって、心地よい温かさを楽しみながらサイダーの最後の一口を飲んだ。


 ディーンは魔法瓶を片付け、少し離れたところに立って、ハーマイオニーが自分の荷物をまとめるのを待っていた。ハーマイオニーが顔を上げると、彼は暖かい笑みを向けてきた。顔をそらす前に彼の顔がほんのりと赤くなっていたのは、きっと目の錯覚ではない。


 ハーマイオニーは誰にともなく微笑みながら、バッグを肩にかけた。ディーンのことは好きだ。いい人だもの。


(ええ、そうでしょうとも)
 頭の片隅でささやき声が聞こえた。
(すごくいい人よね。彼なら安心できるし)


(安心の何が悪いのよ?)
 ハーマイオニーは自問した。
(安心できるのは、いいことよ。できないより、よっぽど)


 突然、マルフォイのイメージが心に浮かんだ。行き場をなくして寂しげな姿。こちらと見つめてくる、マルフォイ。何を考えているのか分からないのに、お腹の中で蝶々がひらひらするような気持ちにさせられる、あの表情で。ディーンといて、お腹に蝶々がいるような気分になったことがないのはたしかだ。


(どうしてまたマルフォイのことなんか考えてしまうんだろう? ロンの言うとおりなのかしら。わたし、きっと頭がおかしくなってきてるんだ)
 ハーマイオニーは考えた。


(そうね)
 例の声がまた湧き出してきた。
(それが理由だと思っていたいのね、あなたは)


「もう、やめてよ!」
 ハーマイオニーは尖った声で言い返した。


 ディーンが肩越しに振り返って、こちらを見た。最後のところを声に出して言ってしまったらしいと気付いて、ハーマイオニーは赤面した。足を速めてディーンに追いつき、フィールドに降りていく。そして密かに、もうこれ以上マルフォイのことは考えないようにしようと誓いを立てた。