2004/1/9

Their Room
(by aleximoon)

Translation by Nessa F.


第 11 章 悪ガキ

(page 1/3)

「ロン?」


「ロン?」


 ハーマイオニーは苛々したようにため息をつき、ロンの脇腹をフォークでつついた。


「な……なに?」
 ロンは半フィート近くも飛び上がり、ハップルパフのテーブルから目を離した。スーザン・ボーンズが夕食を取るために大広間に入ってきてから、ロンはずっとそちらを見つめっぱなしだったのだ。


「まったく、ロンったら」
 ハーマイオニーは、少しだけ不快感のにじみ出た声で言った。
「顔が可愛ければそれでいいのね」


「だからって、暴力ふるうことないじゃないか!」
 ロンは不平がましく言って、恐々と脇腹をさすった。


「ロン」
 フレッドが、弟に向かって言った。
「我らが親愛なるハーマイオニーについて、とうとう真実を語るときが来たよ」


「ごめん、ハーマイオニー。もうこれ以上、きみの秘密を守ってあげることはできない。あの恐ろしい真実を、ロンもそろそろ知っておいたほうがいいんだ」
 ジョージが付け加えた。


 フレッドはロンとハーマイオニーのほうに身を乗り出して、ささやいた。
「つまりだな、ロン。ハーマイオニーは実は、フォーク振り回しマニアなんだ!」


 フレッドの声が徐々に大きくなったので、今や多くのグリフィンドール生が軽い興味を引かれて、彼らのほうを見ていた。


「ほんとにもう。ロン、そこの……」
 しかしハーマイオニーの言葉はジョージによってさえぎられた。


「ハーマイオニーは、いかれてしまっているんだよ、ロン。いかれてしまっているんだ……」
 ジョージは、狂ったような高笑いをした。


「ロン」
 ハーマイオニーはふたたび口を挟んだ。
「そこのキドニー・パイを取ってくれない?」


「ど……どのパイだって?」
 ロンはハーマイオニーのほうを見ていなかった。双子が珍妙な中世時代の決闘のように互いをフォークで突き刺そうとしている光景は、かなりの見ものだったのだ。


「あなたの手元のところにあるパイよ、ロン」


 ハーマイオニーはロンの肩を叩いたが、数日前からロンが多大なる関心を抱いている例の可愛らしいハップルパフ生がちょうどそばを通り過ぎて行ったため、彼は完全に硬直してしまっていた。


「もういいわ」
 つっけんどんに言って、ハーマイオニーは杖を取り出した。


「アクシオ、パイ」


 キドニー・パイは颯爽とロンの鼻先わずか数ミリメートルのところをかすめて飛び、ハーマイオニーが伸ばした手の中にきっちり収まった。


「いいかっこしちゃって」
 ロンは陰気な顔でぶつぶつ言った。


 ハーマイオニーがちょうど自分用にパイを切り分け始めたときになって、隣の席にハリーが滑り込んできた。


「あら、ハリー。どこに行ってたの?」
 パイをハリーのほうに回しながら、ハーマイオニーは尋ねた。


「夕食に間に合わないんじゃないかと思ったよ」
 スーザンが広間を出て行ったので、ロンはようやくまともな会話ができるようになっていた。


「ああ、ハグリッドと喋ってたんだ、図書館を出たところで。本を返さないといけなかったんだよ。ハグリッドが言うには、ダンブルドア先生は……」
 しかしその瞬間、当のダンブルドアが教員テーブルの向こうで立ち上がった。


 ダンブルドア教授は、皆が静かになるまで、辛抱強く待っていた。広間じゅうの生徒たちが鮮やかな紫色のローブに身を包んだ長身の教授を見つめるなか、静けさが急速に広がっていった。


「まことに美味なる晩餐の途中ではあるが、ちょっと諸君の耳を拝借させていただきたい。発表があるんじゃ」


 ハーマイオニーはハリーのほうを盗み見た。そして即座に、さっき彼が言おうとしていたのは、校長先生の発表と関係のあることなのだと気付いた。ハリーは興味津々といった表情で校長を見つめていた。


「昨年のクリスマスのダンス・パーティは大成功じゃった。そこで今年のクリスマスも、同じようにパーティを開催すると決定したのじゃ」
 ざわめきの声が広がっていくと、ダンブルドアは顔を輝かせた。


「加えて」
 ダンブルドアは続けた。
「昨年参加した者たちが皆、非常に楽しいひとときを過ごしたことを考慮し、今年はすべての生徒が参加できることとしようではないか。どの学年の生徒も出席してよろしい」


 その場にいた生徒たちは、びっくりして黙り込んだ。低学年の生徒たちがダンス・パーティへの出席を許されるなんて、かつてなかったことだ。


「さて、夕食の中断はもう充分じゃろうて。ご拝聴感謝しますぞ」
 ダンブルドアはもう一度生徒たちに微笑みかけてから、ふたたび着席した。


 このダンブルドアの最後の一言の直後から、耳が割れんばかりの喧騒が湧き起こった。ロン、ハリー、ハーマイオニーは頭を寄せ合い、ささやき声で語り合った。周囲では、ほかの生徒たちが興奮したようすであれこれ喋っていた。


「クリスマスのダンス・パーティって、三校対抗試合のときの伝統なんじゃなかったっけ?」
 ロンが尋ねた。


「そうよ」
 ハーマイオニーが答えた。考え込んでいるため、眉間に皺が寄っている。
「『ホグワーツの歴史』によると、クリスマスのダンス・パーティは、試合のある年にしか開催されないの。なんの理由があってそれを変更するのか、理解できないわ」


「それに一年生から三年生までの生徒も参加していいっていうのは?」
 ロンはさらに尋ねた。ハーマイオニーは、肩をすくめただけだった。


「ぼくは知ってるよ」
 周囲を見回してほかに誰も聞いていないことを確認しながら、ハリーが静かに言った。


「ダンス・パーティは、三年に一度しか行なわれないことになってる。でも、それがあったために、去年ほとんどの人たちがクリスマスも学内に残ってたの、覚えてる?」


 ハーマイオニーとロンはうなずいた。


「ダンブルドアは、できるだけ多くの生徒たちをホグワーツに残しておきたいんだ。ヴォルデモートのことがあるから」
 ハリーは言った。


 ロンは、ハリーがヴォルデモートの名を口にした瞬間、ひるんだようすを見せまいとしつつも、衝撃を受けたような表情を浮かべた。
「ハグリッドから聞いたのか?」


「分かるだろ、ハグリッドがどんなふうか。つい口を滑らせてしまう。彼が言ったのは、今年のクリスマスはみんなダンス・パーティのために学校に残るから、ぼくも退屈しないだろうってこと。それから、そうするのがみんなに目を配っておくには一番いい方法だって」


「ダンブルドア先生が休暇中も全校生徒を学校に引き止めておこうとしているということは、情勢は本当に悪化しているのに違いないわね。でも変だわ。日刊予言者新聞には、闇の陣営の活動についての記事は何も載ったことないのよ」
 ハーマイオニーは声をひそめて言った。


「魔法省が、内緒にしておこうとしてるんじゃないかな」
 ロンも同調した。


「そうだな」
 ハリーがつぶやいた。
「ヴォルデモートが戸口にやってきてドアをノックするその日まで、彼らは何も起こってないというふりをしようとするだろうさ」


「その名前を言うの、やめてくれない?」
 ロンが懇願した。


「どうした、ウィーズリー。賄賂に釣られておまえやポッターと一緒にダンス・パーティに出てくれそうな相手がいないかと、名簿を検討中か?」


 マルフォイのけだるい声が会話に割り込んできた途端、ハーマイオニーは全身を固くした。彼女が着席したまま振り向くことすらできないでいるうちに、ハリーとロンが立ち上がっていた。マルフォイは三人のすぐうしろに立っていた。いつもの冷笑を浮かべ、端正な顔を悪意で歪めている。マルフォイの背後、数フィート離れたところに、クラッブとゴイルもいた。


「少なくともポッターにはいくらか金がある。でもウィーズリー、おまえがどうするつもりなのかは、ぼくには見当もつかないよ。もしかしたら、説得にほだされて哀れみのあまりパートナーになってくれる子がいるかもしれないな」
 マルフォイは愉快そうに言った。


 ロンはマルフォイを目掛けて突っ込んでいき、ハリーが追いつく前に、強烈な一発をお見舞いすることに成功した。追いかけたハリーの意図がロンを引き止めることにあったのか、それともマルフォイを押さえつけることにあったのかは、ハーマイオニーには判断できなかった。その前にスネイプがやって来たからだ。


「ポッター! ウィーズリー! いったい何をやっている!?」
 スネイプは、マルフォイからほかの二人の少年を引き剥がしつつ、唸り声をあげた。


「先に喧嘩を売ってきたのはマルフォイです!」
 ロンが鋭い口調で言った。顔は怒りで赤くなっている。


「スネイプ先生。ぼくはただ、一緒にやっている数占いの課題に関する本をグレンジャーに渡そうと思ってこっちに来ただけです」
 マルフォイは古びた書物をバッグから出して、ハーマイオニーに差し出した。
「そうしたら、ポッターとウィーズリーが襲い掛かってきて」


「処罰を受けたまえ、ポッター。貴様もだ、ウィーズリー。喧嘩は規則違反だ。よく分かっておろう!」
 スネイプは二人を見下ろして睨みつけた。


 気が付くと、マルフォイはまだハーマイオニーに向かって本を差し出していた。オリアリーの著作のうちの一冊だということが分かった。


「ほら、グレンジャー。この本は、ぜひ開いてみるべきだ」


 ハーマイオニーは本から顔を上げてマルフォイと目を合わせた。濃い灰色が、まっすぐにハーマイオニーの心の中まで入ってくるように思われた。顔が赤くなりかけているのを自覚して、彼女は目をそらした。本を受け取りはしたけれど。マルフォイはもう一度、突き刺すような視線を向けてから、去っていった。


 ハーマイオニーはまっすぐ座りなおして、書物をめくった。ロンの言葉に耳を貸さないよう、懸命に努めながら。彼はマルフォイとスネイプを、甚だしく不愉快な何かと比較しているところだった。黄ばんだページを慎重にめくっていくと、折りたたんだ羊皮紙が一枚、ひらひらと床に舞い落ちた。拾ってみると、それはメモだった。


 "図書館、夕食後。" と書いてある。整然としたその筆跡がマルフォイのものだということを、ハーマイオニーは知っていた。


 ハーマイオニーは一瞬、息を詰まらせて、慌ててメモを本に挟みなおした。さりげなく、スリザリンのテーブルに視線を向ける。頭をうしろに反らせたマルフォイの殴られた頬に、作り笑いを浮かべたパンジーが何かを押し当てていた。マルフォイは、ハーマイオニーの視線に気付いたようだった。さらに頭を背中のほうに反らせて、こちらに目を合わせてくる。知らず知らずのうちに、ハーマイオニーはマルフォイに向かって素早くうなずいていた。それからもとのほうに向きなおって、マルフォイにどんなことをしてやりたいかということをロンがハリーに向かってまくしたてるのに耳を傾けた。