2003/12/20

Their Room
(by aleximoon)

Translation by Nessa F.


第 9 章 クィディッチ場での出来事

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「マルフォイを助けに戻ったなんて信じられないよ! ハグリッドの言うとおりだ、きみはどっかおかしくなってしまってる!」


 ハーマイオニーは、グリフィンドール談話室のテーブルの上に広げられた魔法薬学の宿題の向こう側にいるロンに、陰鬱な視線を投げかけた。


「あなたに言うんじゃなかったわ、ロン。いつだって大げさに騒ぎ立てるんだもの。マルフォイって、そんなにひどいやつじゃないのよ」
 ロンが、まるでハーマイオニーが二つ目の頭を生やしたとでも言うような顔で見つめ返してきたので、ハーマイオニーは目をそらした。


「そんなにひどいやつじゃない? マルフォイが……そんなに、ひどくないって?」
 いきなり、ロンは何枚もの羊皮紙の上から身を乗り出し、ハーマイオニーの額に手を当てた。
「熱は出てないみたいだな。でもやっぱり、マダム・ポンフリーのところに行ったほうがいいと思うよ」


「ロン!」
 ハーマイオニーはロンの手を払いのけ、睨みつけた。
「わたしは、どこも悪くないわ。単に、そんなにひどいやつじゃないって言っただけじゃない。ほんとに、馬鹿みたい。ハリー、あなたからも言ってあげて」


 ハリーは魔法薬学の教科書から目を上げた。喧嘩に巻き込まれるのは気が進まないという表情だ。
「ハーマイオニー、今回はぼくもロンに賛成せざるを得ないな。だって、マルフォイだよ。マルフォイがそんなに悪いやつじゃないって言うのは、尻尾爆発スクリュートが抱きしめたくなるほどかわいいと言ってるのと同じようなものじゃないかな」


「二人とも、信じられない。ただちょっとマルフォイがそんなにひどくないって言っただけで、わたしのことを聖マンゴ病院に入れたほうがいいって思うのね」
 段々と怒りが込み上げてくるのが、自覚できた。頭の中で鈍痛がする。ここで本格的な言い争いを始めたら、壮絶な頭痛になってしまうだろう。


「それは悪くない考えかもしれないな、ハーマイオニー。明らかに、きみはあいつにたぶらかされているんだ。きみはあんなやつの相手をするには頭が良すぎると思っていたけど、いくら頭脳が優秀でも常識がなければ大して役には立たないみたいだな」
 そう言ったロンは、加勢を求めてハリーのほうを見たが、ハリーはただ首を振っただけだった。ロンは越えてはならない一線を越えてしまったのだと、ハリーには分かっていた。


 ハーマイオニーはムッとした表情をロンに向けてから、手早く自分の本を片付けはじめた。


「ハーマイオニー」
 ロンはハーマイオニーに自分のほうを向かせようとした。
「ハーマイオニー、こんな言い方をするつもりじゃなかったんだ。本当に。頼むよハーマイオニー、行かないでくれよ。まだ呪文学の宿題も残ってるんだ」
 ロンはハーマイオニーの腕をつかもうとしたが、ハーマイオニーは届かないところまで退いた。


「あら、ご自分でやったらどう、ロン・ウィーズリー。いえ、もっといい考えがあるわ。常識のある人を見つけて、手伝ってもらいなさいよ!」
 そう言うと、くるりとうしろを向いて女子寮に入っていく。


「なあ、ロン。ぼくだって間違いを犯すことはあるけどさ。でも友達を心配してあげるときには、その友達を侮辱しちゃ駄目だいうことくらいは、ずっと前から分かってるよ」
 呪文学の教科書を開きながら、ハリーは穏やかに言った。


「でもさ、マルフォイのことで、あんなにおかしくなってしまってるんじゃあ、言わずにはいられないよ!」
 ロンは、どちらかというと後悔している口ぶりだった。




 ハーマイオニーはバッグを床に放り投げてベッドに這い上がり、周囲のカーテンを閉めた。


「よくもまあ、あんなこと言うわね? ロンったら馬鹿みたいだわ。あの人たち、二人ともそうよ。マルフォイはそんなにひどいやつじゃないって言っただけなのに。素晴らしい人だとか言ってるわけじゃないわ。ただ、地球上で一番ひどい人間のクズだとは思わないってだけよ」
 ぶつぶつと、ひとりごちる。


 ホグスミードでの一件以来、ハーマイオニーはマルフォイがいると分かっているときでも図書館を避けたりはしないようになった。気が合うとは言いがたい状態だったが、お互いにぶつけ合う侮辱の言葉は段々と辛辣さを失い、友好的な冷やかし合いの範疇に近づきつつあった。


 ハーマイオニーは寝返りを打って、ベッドを覆う天蓋を見上げた。別に、マルフォイのことを好きだというわけじゃない。ただ、気が付いたら以前ほど大嫌いではなくなっていただけだ。彼の目は、なんだか気になった。突然きらめいたかと思うと色合いを濃くしていったりするのを見ていると、なんとなく奇妙な気分になった。あの日、ホグスミードのはずれでのことも、奇妙ではあった。あの路地の奥でゴイルが近づいてきたとき、ハーマイオニーは本当に怯えていた。しかし心の一部は目の前の危険について考えることを拒絶して、身体に回されているマルフォイの腕の感触のことばかり思っていた。不思議と、大丈夫だという気がしていた。必要に迫られれば、マルフォイが自分をすべてのものから守ってくれるような気がしていた。まったく、筋の通らないことだ。ルシウス・マルフォイとゴイルの父親がいたことは、ロンとハリーには話していなかった。それを知れば、マルフォイを助けに戻ったことについて、余計に激昂するだろうから。あのときは戻る口実として、もう一度ハニーデュークスに一走りして、蛙チョコレートをもう少し買っておくと言ったのだった。暗がりの中で迷子のように座り込んでいるマルフォイを見た瞬間、ハーマイオニーはとにかく彼を慰めてあげたいと思った。まさか自分がマルフォイを慰めたいと思ったりする日が来ようとは。そもそもマルフォイに慰めが必要だと思ったりしたことすらなかったのだ。図書館で一緒にいると、ハーマイオニーは時々、自分たちがほとんど友人であるかのように感じることがあった。しかしそう思った次の瞬間、マルフォイはがらりと態度を変えて、いつもどおりの嫌なやつに戻ってしまうのだった。ハーマイオニーには、わけが分からなかった。時折、彼は本当に孤独に見えるのに。ハーマイオニーは大きなため息をついて顎まで毛布を引き上げ、やっぱりマルフォイなんかそんなに好きじゃない、絶対にマルフォイのことなんか好きになれない、と判断を下した。




「おい、グレンジャー。こっちの箱の中身は、どれかもう手をつけてみたか?」


 ハーマイオニーは、部屋の隅にある木箱の上に、立ったまま身をかがめているマルフォイのほうを見た。
「いいえ。どうして?」


「意味不明なんだ、どれもこれも。滅茶苦茶なことしか載ってないような本ばかりだ」
 マルフォイは表紙の剥げた書物を持ち上げた。


 ハーマイオニーは急いで部屋を横切り、箱の横に膝をついた。
「意味がないはずはないわ。これまでのところ、オリアリーは何についてでも、すごく精細に記していたもの」
 何冊かの本を引っ張り出して、パラパラとめくってみた。マルフォイの言ったとおりだ。これらの書物のどれを見ても、数字の羅列しか記載されていなかった。


「やれやれ。どう考えてもこのモウロク爺さんは、これを書いた頃にはすっかり正気を失っていたらしいな」
 マルフォイは、箱いっぱいの文献が無用の長物だと判明して、とても苛々しているようだった。


「でも、変だわ、マルフォイ。一冊丸ごと数字で埋め尽くされたような本を書く理由って? これ以外のオリアリーの研究は、すごく秩序だっているのに」
 膝の上に本を載せて、ハーマイオニーはなんとかその意味を見つけ出そうと考え込んだ。


「そう言えばグレンジャー、今週の土曜日はスリザリン対グリフィンドール戦だな。きみのかわいらしい友人たちをぺちゃんこに叩きのめしてやるぞ」
 マルフォイの目には、意地の悪いきらめきが宿っていた。

「ええ、もちろん」
 ハーマイオニーは目を上げもせずに応えた。マルフォイはギョッとして、それからどうやら彼女はまったく聞いていないのだと気付いた。


「ハリー・ポッターは完全な大馬鹿者だ。シーカーとしての値打ちは一クヌートもない」
 ハーマイオニーのほうを見ながら、マルフォイはニヤリと笑った。


「そうねえ……」
 集中するあまり眉間に皺を寄せたまま、ハーマイオニーは同意を示して本のページをめくった。


「それから、ぼくはものすごい美形だときみは考えている。余裕で学校一魅力的な男に違いないと」
 マルフォイは熱心に付け足した。


「何か言った?」
 突然、ハーマイオニーはマルフォイのほうに顔を向けて聞き返した。


「いや、土曜日のクィディッチの試合は見に来るんだろうかと思って」
 マルフォイは慌てて言った。


「ええ、当然行くわよ。自分の寮の応援をしなくちゃ。もちろん、ロンとハリーもね」


「ああ、そうだろうとも。まるで伝説の英雄ハリー・ポッターを応援する人間が不足しているみたいじゃないか。きみのしょうもない彼氏のためのファンクラブでも作ってやったらどうだい。おっと、きみの心をつかんでいるのはウィーゼルのほうだったのかな? いつもどっちだったか忘れてしまうよ」
 マルフォイは読み取りがたい表情で睨みつけてきた。


 ハーマイオニーは驚いてマルフォイを見上げた。今日はこれまでのところ、二人は特に何事もなく過ごしてきていた。ほとんど楽しいと言ってもいいくらいの、ひとときだったのに。


「どうしちゃったの、マルフォイ?」


「なんでもないさ、穢れた血。単に、きみがポッターとウィーズリーのことばかり喋りまくるのにうんざりしているだけだ」

 マルフォイは机の上から自分のバッグを引っつかんで勢いよく出て行った。後には、困惑したハーマイオニーが残された。