2003/12/13

Their Room
(by aleximoon)

Translation by Nessa F.


第 8 章 父からの手紙

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 ドラコはルシウスからの手紙を乱暴にくしゃくしゃと丸めて、テーブルから身を引き離した。背を向けて大広間を出て行こうとすると、数人のスリザリン生が顔を上げてこちらを見た。戸口を抜けるとき、背中に視線を感じたが、ドラコは頑なに、こちらに向けられた目の中に琥珀色のものがあるかどうかを確かめずにすませた。今は、あの目と視線を合わせたくない。


 ホグワーツの玄関口を抜けて、校庭に出た。ポケットから、さっき丸めた手紙を出して、細かく千切ってから手放す。小さな紙くずがゆっくりと湖の水面に舞い降りていくさまを、じっと見た。この手紙には、反応を示すことになるだろう。いくらルシウスを忌避していても、これ以上、送られてくる手紙や命令を無視し続けるわけにはいかなかった。少なくとも、この一番新しく送られてきた指示は、単純なものだ。ハロウィンの宴の前にホグスミードで彼と待ち合わせるだけのこと。会合の目的は分かっていた。ルシウスは今でもまだ、デスイーターになれ、自分の歩んできた道に続けと、ドラコを説得しようとしているのだ。時折ドラコは自分でも、なぜあっさりと同意してしまわないのか分からなくなってくることがあった。どうせみんな、ドラコのことはすでにデスイーターであるものと見なしている。グレンジャーを除いて、ではあるが。グレンジャーはあの時、ドラコの言葉を信じたように見えた。自分がデスイーターではないとグレンジャーに理解させることが重要に思われた理由は、分からなかった。しかし、それは彼にとって、重要なことだったのだ。あの日、グレンジャーが例の部屋でぐっすり眠っているのを見て、ドラコは非常に驚いたのだった。その顔のまわりの茶色い巻き毛を見ていると、記憶にあったほどにはボサボサではないように思えてきた。ドラコは湖面に強い視線を向けながら、図書館でのあの朝のことを思い返した。あの一瞬だけ、ドラコはもう少しで、グレンジャーをかわいいと思いかけたのだ。


「知ったかぶりやのグレンジャーが、かわいいだって?」
 ドラコは鼻で笑ったが、揺らいだ気持ちは誤魔化すことができなかった。


 背後を振り返って学校のほうを見ると、数人の生徒たちがちょうど校庭に出てきたところだった。近づいてきた人影は、箒を手にしたポッターとウィーズリー、そして二人に挟まれたグレンジャーだった。三人はお喋りに熱中していた。


「愚かな穢れた血だ」
 その姿が芝生を横切ってクィディッチ場へと向かっていくのを視線で追いながら、ドラコはささやいた。


 ほとんど毎日のように図書館に足を運んでいたにもかかわらず、ドラコとグレンジャーが顔を合わせることは、めったになくなっていた。一緒に過ごす時間はどんどん少なくなって、今では毎週の進捗レポートについて図書館で打ち合わせをする数分間と、お互いまったく口を利かないでいる数占いの授業のときしかない。やがてドラコは、グレンジャーが自分を避けているのだと気付いた。魔法薬学と魔法生物飼育学でもグレンジャーの姿は見ていたが、それらの授業のときには常にポッターとウィーズリーが彼女の周りを固めていた。あの二人がまつわりついているために、ドラコはグレンジャーに対して、まともにからかいの言葉をかけることすらできなかった。


「ぼくを避けるなんて、何様のつもりだ? 穢れた血なのは、そっちだろう!」
 ポッターとウィーズリーが箒に乗って空へと舞い上がっていきつつあるクイディッチ場の方向を、ドラコは睨みつけた。その場に立ったまま、陰鬱な表情で、仲のいい二人の少年たちが小さなスニッチを箱から解放し、追いかけはじめたのを眺める。


 ドラコは城の入り口を抜けて、地下牢に向かった。片側の壁に、シーズン最初のクィディッチの試合を報せる掲示があった。土曜日、レイブンクロー対ハップルパフ戦。


「これをすっぽかして図書館に行ってみようか。そのときなら、あいつもいるだろう。ぼくが試合を見に行っていると思って」
 声を殺してつぶやきながら、ドラコは張り紙を見た。なぜグレンジャーに会う必要があるのかは、自分でも分からなかった。彼女の作業の進捗状況を確認したいからだと、ドラコは自分を納得させようとした。彼の数占いの成績の半分が、グレンジャーの肩にかかっているのだ。しかし頭の片隅では、どうもそれは疑わしいように思えてならなかった。グレンジャーをつかまえようとしているのは、何か別の理由のためなのではないか、と。まるで、実はグレンジャーに会いたいと思ってでもいるかのように。まるで、実は顔を見ていないことに寂しさを感じてでもいるかのように。その考えが浮かぶなり、ドラコはそれを完全に馬鹿げたものと見なしてすぐに却下した。しかし、根拠のない奇妙な期待感と共に、土曜日を待ち遠しく思っていることは事実なのだった。