2003/12/6

Their Room
(by aleximoon)

Translation by Nessa F.


第 7 章 無実の告白

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「おーい、ハーマイオニー。おかゆをボウルに一杯食うだけで、どれだけかかってるんだよ?」
 ロンは苛々しながら、フォークで自分の皿の上に載っている数粒のレーズンをつつき回していた。


「そうねえ。土曜日だし、別に急ぐ必要はないんじゃない」
 ハーマイオニーは、パンプキン・ジュースのおかわりをしながら答えた。ちょうどそのとき、高窓からフクロウたちが滑り込んできた。いつものように、一羽の茶色いフクロウがハーマイオニーの目の前に『日刊予言者新聞』を投下する。しかし、この最初のフクロウが飛び去る前に、別のフクロウがやってきてその隣に着地した。新聞配達のフクロウよりも少し大きく、灰色がかったフクロウだ。その足に結わえ付けられた手紙を、フクロウはハーマイオニーのボウルの上をまたぐようにして差し出した。


「誰からなの、ハーマイオニー?」
 ハリーが尋ねた。訊きながら、ヘドウィグが飛んできて自分の膝にハグリッドからのメモを落とすのを見つめている。


 ハーマイオニーが顔を上げると、ちょうどマルフォイのワシミミズクがスリザリンのテーブルに着地するのが目に入った。
「ヴィクトールからよ」
 ハーマイオニーは質問に答えた。


 かのクィディッチ選手の名を耳にしたロンの顔は、紅潮した。
「なんだって、あいつがまだきみに手紙を送って来るんだよ? 友達でいようって言ったんじゃなかったっけ?」


「そう言ったわ。だからわたしたち、友達よ。友達だから手紙をくれるの。ほんとにもう、ロンったら。いいかげん、こだわるのはやめてもいい頃よ」
 ハーマイオニーは手紙を後で読むことにして、バッグに入れた。ここで読んでロンの神経をさらに逆なでしても意味がない。


「二人とも、食事はもういいかな? ハグリッドが、訪ねて来ないかって」
 ヘドウィグがほかのフクロウたちと一緒に飛び去っていくのを見送って、ハリーが言った。ロンは食べ終わっているかどうかを確認しようとハーマイオニーのほうを向いた。


「二人で行ってて。わたしはちょっと図書館に寄っていくわ」
 トーストをちぎりながら、ハーマイオニーは言った。


「図書館? ハーマイオニー、週末なんだよ!」
 ロンが物悲しい声で言った。


「でも今から行けば、マルフォイに会わずにすむの」


「今ならマルフォイがいないって、どうして分かるのさ?」
 ロンが尋ねた。


「今ならマルフォイがいないって分かったのは、あなたたちがほんの少し前まで、今朝はスリザリン・チームが練習のために競技場を予約しているのでクィディッチができないって文句を言ってたからよ。お忘れかもしれないから言っておくけど、マルフォイはスリザリンのシーカーなの」
 そう言いながらジュースを一口飲み、目の前にあったボウルを押しやる。


「なるほど。じゃあ、次に会うのは昼ご飯のときかな」
 ハリーがそう言いながら、ロンと一緒に立ち上がった。
「マルフォイには気を付けるんだよ!」
 ニヤリと笑って、彼は付け足した。




 ハーマイオニーは、図書館の例の部屋の中で座っていた。今朝は新たに、前とは違う木箱をいくつか開けてみた。それぞれに異なった年代の数表や巻物が入っているようだ。なかには、今にも崩れそうにボロボロの呪文の本が入っているものまであった。かなり長いあいだこれらのものを眺めてから、ようやくハーマイオニーは気持ちを切り替えて作業に取り掛かった。時折、立ち上がって窓の外に目をやる。ここからはクィディッチ場が見えるのだ。ちらりと腕時計を見ながら、ハーマイオニーはマルフォイがまだフィールドに出ているかどうか、確認することにした。思ったとおり、箒に乗ったさまざまな人影がフィールド上空を飛び回っており、そのうちの一人は目の覚めるような白金の髪をしている。ハーマイオニーは少しのあいだ動かず、そのまま眺め続けた。マルフォイが優秀なシーカーであることは、認めざるを得なかった。もちろんハリーには及ぶべくもない。しかし、本当はチームに入るためにお金の力に頼る必要などなかったのかもしれなかった。


 窓の一つを開いてから、ハーマイオニーはふたたび机に戻った。巻物を一つ広げてみたが、今までのものと比べると、あまり興味を引かない内容であることが判明した。数占いよりは、むしろ占い学に関わる部分が多い。あくびをして羽根ペンを取り出し、ハーマイオニーは暖炉のところから引っ張ってきた、もっと座り心地のいい柔らかい椅子に腰を落ち着けた。しかしあいにく、ちょっとばかり座り心地がよすぎた。手から羽根ペンが転がり落ち、頭が下がって、机の上で折り曲げた腕を枕にし始めたとき、ハーマイオニーは自分ではまったく気付きもしていなかった。




「グレンジャー」


 遠くのほうから、静かに呼びかける声が聞こえた。頬に軽く何かが触れて、さらにもう一度、ささやき声がした。


「グレンジャー」


 ハーマイオニーはそれまでより少し深く息を吸いながら、どうしてラベンダーとパーバティは寮の部屋の中でもっと静かにしていられないのだろうかと思った。頬にかすかに息がかかるのが感じられたので、クルックシャンクスを撫でようと手を伸ばしたが、手に触れたのは毛皮ではなく、何か滑らかでひんやりとしたものだった。ゆっくりと意識が覚醒していくなかで徐々に鮮明になりつつある例の声が、さらにもう一度、呼びかけてきた。


「グレンジャー」


 ハーマイオニーの手は、まださっきのクルックシャンクスではなかったものの、滑らかな表面に押し当てられたままだった。ぱちんと目を開いた彼女は、まるで火傷でもしたように、ショックのあまり小さく悲鳴をあげて手を引っ込めた。手が触れていたのは、マルフォイの頬だったのだ。マルフォイはハーマイオニーが座っている椅子の横に膝をついていた。その顔はハーマイオニーの顔から数インチしか離れていない。思わず椅子を勢いよくうしろに引くと、椅子は傾き始めた。転倒すると思ったのはほんの一瞬だった。マルフォイの手がハーマイオニーの手をつかんで、前方に引き戻したのだ。ハーマイオニーはそのまま椅子から引っ張り出されて、つんのめるようにマルフォイの傍らに膝をついた。


「きみはとんでもない粗忽者だな、グレンジャー。教えてくれよ、それはきみが穢れた血だからか? それとも、グリフィンドール生の特徴かな?」
 マルフォイは嘲るように笑ってから、ハーマイオニーの手を離した。


「休戦協定を結んだじゃないの、マルフォイ!」
 慌てて立ち上がりながら、ハーマイオニーは噛み付くように言った。


「なんだって? きみ、呪いをかけられたっていうのか?」
 自分も立ち上がりながら、マルフォイは無邪気そうに問いかけた。


 ハーマイオニーは室内を見回して自分の本を確認し、それから自分の腕を上げて、魔法が使われた証拠となるものがないかどうか調べたが、何も見つからなかった。


「きみに呪いをかけないようにするには、強固な意志が必要だったさ、もちろん。しかし、約束は守るよ。結局のところ、ぼくはマルフォイ家の人間だからね」
 マルフォイは机の周りを歩いて行って、着席した。


「それが何か意味のあることみたいに言っちゃって。そりゃデスイーターは、正直者なことで有名ですものねえ?」
 ハーマイオニーは倒れた椅子を元に戻して、荷物をまとめ始めた。顔が火照っていた。マルフォイに寝ているところを見られたのが、かなり恥ずかしかった。


「ぼくはデスイーターじゃない」
 マルフォイが静かに言った。あまりにも断固とした声だったので、ハーマイオニーは驚いて目を上げ、彼の顔を見た。その声には硬い決意が満ちているように思われ、灰色の目は遠くのほうを見つめていた。


「でも、あなたのお父さん……」
 言いかけた言葉は、怒りの表情で立ち上がったマルフォイにさえぎられた。


「ぼくは父のことなんか何も言ってない。きみたちみたいな善人ぶったやつらは、人をその親で判断してはいけないと習うんじゃなかったのか?」
 彼はテーブルの周りを迂回してハーマイオニーの前までやってきた。先ほどまでの面白そうなようすは、すっかり消え去っていた。


「わたしは、ご両親のことであなたについて判断を下したことなんか一度もないわ。あなたが短気なろくでなしだっていう事実に基づいて判断してるの!」
 ハーマイオニーはマルフォイのほうに顔を向けてまっすぐに見つめた。


「今言ったことを取り消せ、穢れた血!」
 マルフォイは荒々しく唸るように言い、ハーマイオニーの前に立ちはだかった。琥珀色の目でハーマイオニーが見返すと、その灰色の目は色合いを濃くしてくように思えた。


「取り消さない」
 ハーマイオニーはマルフォイを睨みつけ、身体の向きを変えてドアのほうに歩いていった。しかし立ち去る前にふと足を止めて、わずかに眉をひそめ、振り返った。
「ほんとに、デスイーターじゃないの?」


 マルフォイは黙ったまま、ねめつけてきた。答えるつもりがないのだと思ってハーマイオニーは戸口を出た。しかしそのとき、背後から声が聞こえた。


「そうだグレンジャー。ぼくは、違う」