2003/11/22

Their Room
(by aleximoon)

Translation by Nessa F.


第 5 章 ハグリッドの小言

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 ハグリッドの小屋への道行きは、前回のときとは全然違っていた。ゆったりと校庭を横切っていく彼らの上に、午後の日の光が降り注いだ。たくさんの生徒たちが芝生のあちこちに見られた。本格的な秋がやってくる前の最後の暖かい気候を楽しもうとしているのだ。


 ハグリッドは外に出て、野菜畑を耕していた。三人が近づいていくと、彼は顔を上げて呼びかけた。


「おまえさんたちが来ると思って待っとったよ」


 ハグリッドはみんなを小屋に招き入れた。瞬く間に、ファングがハリーに飛びついたので、ハリーはうしろに倒れて壁にぶつかった。ハリーは笑って、巨大なボアハウンドの耳のうしろを掻いてやった。ドアを閉めるなり、ハグリッドはハーマイオニーのほうに、探るような視線を向けた。


「何を考えとった、ハーマイオニー? あのろくでなしのマルフォイとここに来たんだと? 質問があったなんぞとかいう、くだらない言い訳は聞かんからな」
 黄金虫のような両目が、ハーマイオニーを見て光った。


 ハーマイオニーは胸の前で腕を組んで、小屋の床を見下ろした。ハグリッドがハーマイオニーの頭越しにロンとハリーを見やると、二人とも肩をすくめた。


「ハーマイオニーは、ぼくらにも何があったのか言おうとしないんだ」
 ハリーが説明した。ロンはただ、ハーマイオニーのほうを睨んだだけだった。


「そんで、おまえさんはここにやってきて、あれを逃がしたっちゅうわけか。自分のほうがあれより賢いつもりだったかね、ハーマイオニー」
 この言葉を聞くと、ハーマイオニーは怒りに顔を赤くして言い返した。


「わたしじゃないわ! わたしは、あれがどういうものだか分かってたもの!」
 険しい表情で、ハーマイオニーは友人たちを見た。


「じゃあ、やっぱりあれを逃がしたのはマルフォイだったんだ!」
 ロンが勝ち誇ったように叫んだ。
「さっさとマクゴナガル先生のところに行こうよ。きみが本当のことを言えば、とうとうマルフォイを追い払えるんだぞ」


 ロンはそばかすだらけの顔を意気揚揚とさせて、はじかれたように立ち上がった。しかしドアにたどりつきかけたときに、ハーマイオニーが声をかけて引き止めた。


「ロン、駄目なの。ごめんなさい、でもできない」
 ロンは勢いよく振り返ってハーマイオニーを見た。ハーマイオニーは自分の靴にとても興味を持ち始めたとでもいうようにじっと下を向いていた。


「どうして駄目なの?」
 ハリーが単刀直入に尋ねた。


「と……とにかく駄目なの。ごめんなさい。そうしたくないわけじゃないのよ。わたしだって、二度とマルフォイの顔を見なくて済むなら、すごく嬉しいわ。でも、とにかく駄目」
 ハーマイオニーは、マルフォイを突き出さずにおこうという誓いが揺らぐのを自覚したが、再度あの血の気の失せた顔が脳裏に浮かんだ。そして、彼を見捨てて逃げろと頭の中から語りかけてきた、あの恐ろしい小さな声。
「とにかく駄目なのよ、ロン」


「ハグリッド、あれはどこから連れてきたんだい?」
 ハリーは、マルフォイの問題から話をそらすことによって、ハーマイオニーとロンがまたしてもケンカを始めることを回避できるようにと祈りながら言った。


「えー……おまえさんたちには、言っちゃならんことになっとる」
 ハグリッドは、忙しそうにティーカップを洗い始めた。


「ハグリッド。あの怪物は、もう少しでハーマイオニーとマルフォイを殺すところだったんだよ。あれは、もとからこの辺にいる生き物じゃないよね。それともそうなの、ハーマイオニー?」
 ハリーは言葉を切ってハーマイオニーが素早く首を横に振るのを確認した。
「どうしてあれがハグリッドの小屋の庭先で飼われることになったんだい? 連れてきたのは誰?」


「いいかね、これはおまえさんの知ったこっちゃねえ話だ。あいつら闇の魔法使いのやっとることで、おまえさんが頭を悩ませるこたあねえ」
 そこまで言ってから突然、ハグリッドは自分が口を滑らせたことに気付き、ハリー、ロン、ハーマイオニーのほうを見た。
「ダンブルドア先生は、あいつらが危険な生き物を解き放っとるとおっしゃっとった」


「でも、そんなことして、なんになるの?」
 ハーマイオニーは、カップに入ったお茶をハグリッドから受け取りつつ尋ねた。


「分からん。厄介ごとを増やして魔法省を困らせようとでも言うんかなあ?」
 ハグリッドはガチガチのクッキーを勧めてきたが、三人とも礼儀正しく辞退した。


「それにしても怪物の選定については、あんまり上手くないよな、あいつら? あの化け物はマルフォイをぶっ殺すどころか、腕をきっちり噛み切ることすらできなかったじゃないか」
 ロンはニヤニヤしてハリーのほうを見たが、ハーマイオニーは少し沈んだ表情になった。


「ロン、そういうこと言わないで!」
 きつい口調で、ハーマイオニーは言った。


「なんでマルフォイなんかの肩を持つんだよ?」
 ロンもきつい声になって言い返した。


「ねえ、あなたたちは、その場にいなかったじゃない。直接見たわけじゃないでしょ。ほんとにすごい量の血が流れてて、それに……それにあの怪物が……それに……」
 ハーマイオニーの声は段々と小さくなって立ち消えた。手に持ったティーカップを見下ろしていると、ハグリッドが身をかがめてその背中をやさしくさすった。


「大丈夫か、ハーマイオニー?」
 静かな声で、ハグリッドは尋ねた。


「ええ、平気。ありがとう、ハグリッド」
 ハーマイオニーは腕時計を見て、かなりホッとしたような声で叫んだ。
「まあ、もうこんな時間。あと何分かで授業が始まっちゃうわ。じゃあね、ハグリッド!」
 そして、ロン、ハリー、ハグリッドの誰もが一言も発することができずにいるあいだに、ハーマイオニーは戸口から走り出て行った。