2003/11/22

Their Room
(by aleximoon)

Translation by Nessa F.


第 5 章 ハグリッドの小言

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 ハーマイオニーは慎重にバッグの位置をずらしたが、痛む背中にそれが当たって、少々たじろいだ。マダム・ポンフリーは数分で折れた骨をもとに戻すことはできたが、処置そのもののせいでかなり痛みが残ってしまったのだ。二日間を、病室でマルフォイと一緒に過ごす羽目になった。あの最初の朝以来、二人とも頑なに沈黙し続けていた。その日の午後遅くになって、ダンブルドア先生が話をしにきた。半信半疑の表情でハーマイオニーのほうに視線を投げかけながら、マルフォイは例の作り話を繰り返した。校長は、立ち去る前にハーマイオニーに向かって、ほかに付け加えるべきことはないかと尋ねた。校長先生のキラキラした目を見ると、この話の信憑性を疑っていることが明らかだったが、先生は怒っているふうではなく、ただ面白がっているようだった。ハーマイオニーは本当のことを告げたい、何もかも言いたい、という強い衝動にかられたが、次の瞬間、大怪我をして血を流しながら地面に横たわっていたマルフォイの姿が頭に浮かんだ。自分があのとき、逃げるつもりで背中を向けたこと、マルフォイを見捨てようとしたことを考えると、身体が震えた。結局、ダンブルドア先生はハーマイオニーから返答を得ることなく、病室を出て行った。


 教科書を入れたバッグを、反対側の肩にかけなおしてみたが、さらに痛みが激しくなっただけだった。押し合いへし合いしているほかの生徒たちにぶつからないように、廊下の端の狭いアルコーヴのところまで避難する。さっきまではハリーとロンが荷物持ちをしてくれていたのだが、ハーマイオニーの次の授業は数占いで、ハリーたちは構内の反対側の区画で行われる占い学のクラスに向かっていた。時計を見ると、授業の開始時間まで、あと数分しかない。大きく息を吸って、ハーマイオニーはもう一度バッグをかつごうと身構えたが、そのとき、呼びかけてきた声があった。


「やあ、ハーマイオニー。何やってるんだい? 怪物やマルフォイから隠れてるの?」
 フレッド・ウィーズリーとジョージ・ウィーズリーがにっこりと笑いながら立っていた。


 学校の敷地内でマンティコアが飼われていたという事実は当局によって内密にされることになった。つまり、もちろんみんなが知るところとなった。ただし、詳細はあまり知られていなかった。ハーマイオニーとマルフォイはどちらも、この件については誰に対しても多くを語ることを拒否していた。たくさんの生徒が、グリフィンドール生とスリザリン生が消灯後に戸外で何をやっていたんだろうと不審がっていた。


「どこまで行くんだい?」
 フレッドが尋ねた。


「数占いよ」
 微笑み返して、ハーマイオニーは答えた。


「おれたちは変身術だ。そんなに離れてないね。教室まで送っていくよ」
 ジョージが言った。


「さあ、それはおれが持つから」
 フレッドが近づいてきて、ハーマイオニーのバッグを手に取った。そして大きなうめき声をあげ、壁に激突した。
「驚きだな、ハーマイオニー。何が入ってるんだ?」


「ほら、フレッド。手伝うよ」
 ジョージがやって来て片方のストラップをつかみ、そのまま床に膝をつきそうになった。
「も、持っていられ……ないぞ」


 ハーマイオニーは胸の前で腕を組んで、困惑の浮かぶ目で二人を睨んだ。
「そこまで重くはないでしょ」


「ハーマイオニーは冗談を言ってるのかなあ、ジョージ? このバッグには図書館が丸ごと入っているに違いないよ」
 フレッドは苦しそうな表情を作りながら、懸命にバッグを落とさないようにしていた。


 ジョージは壁に体重をかけて、ストラップをしっかり持ち直そうとした。
「きみは世界一力持ちの女の子だね、ハーマイオニー」


 フレッドは膝をついて、わざとらしい苦痛の表情を浮かべた。
「どこかの筋肉が伸びきったみたいだ」
 彼が大げさに誇張したうめき声を上げると、通りすがりの生徒たちがちらちらとこちらをうかがった。


「もう、あなたたち馬鹿みたい」
 ハーマイオニーはぴしゃりと言った。
「返して。自分で持っていけるわ」


「いえいえ、それはなりませぬぞ、麗しき乙女よ」
 フレッドがあっさりと立ち上がった。


「姫を目的地まで無事にお届けするのが、鎧きららかな騎士である我らの務め」
 ジョージが一礼した。


 深々とため息をつき、ハーマイオニーはフレッドとジョージのうしろについて教室に向かった。双子はハーマイオニーのバッグを、まるで貴重な聖像(イコン)でも掲げるように運んでいった。廊下を進みながら、彼らはほかの生徒たちに向かって呼ばわった。


「道をあけよ。レディー・ハーマイオニーとその尊い蔵書のお通りでござるぞ」


 ハーマイオニーは額をぬぐった。双子のパフォーマンスには、たしかにそれなりの利点があった。生徒たちが三人の行進を見守るために左右に道をあけたので、ハーマイオニーは先ほどまでと違って誰かにぶつかる心配をせずに歩くことができた。教室の入り口にたどり着くと、ハーマイオニーはバッグを受け取ろうとしたが、フレッドとジョージは聞く耳持たなかった。二人は教室の中に入ってハーマイオニーが席に着くまで、ずっとエスコートしていた。マルフォイはすでに着席していて、あの青みがかった灰色の目でハーマイオニーを見ていた。フレッドとジョージはそれぞれ、マルフォイに向かって凶悪な表情をしてみせてから、もう一度ハーマイオニーのほうに向いておじぎをした。


「姫が我ら騎士の奉仕を必要とされるときあらば、いつなりとお申し付けくだされ」
 声をそろえて、双子は言った。


「ありがとう、二人とも。覚えておくわ」
 立ち去っていく双子に向かって、ハーマイオニーは微笑んだ。


「なるほど、たしかに感動的な光景だったな。ウィーズリー家の者たちは、穢れた血に奉仕するほど金に困っているのか?」
 マルフォイの悪意に満ちたけだるい声を聞くと、ハーマイオニーは皮膚の上にむずがゆいものを感じた。


「黙りなさいよ、マルフォイ。あなたの相手をする気分じゃないの。わたしたち病室で、素晴らしく静かな二日間を過ごせたじゃない。これからもそうできない?」
 ハーマイオニーは、マルフォイの挑発に乗らないよう多大なる努力を払いながら、静かに言った。


「きみがそういうつもりなら。グレンジャー」
 そう返して、マルフォイはベクトル先生のほうに注意を向けた。