2003/11/15

Their Room
(by aleximoon)

Translation by Nessa F.


第 4 章 カーテンを隔てて

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 しばらく経ってから、人の声がしてドラコは目を覚ました。どうやらかなり長いあいだ眠っていたに違いない。ベッドのそばの窓から日光が射し込んでいる。声は、ドラコのベッドとグレンジャーのベッドのあいだを仕切っているカーテンの向こう側から聞こえてきていた。ポッターとウィーズリーの声であることが認識できた。ドラコは黙ったまま、彼らの会話に耳を傾けた。


「まったく、何考えてたんだ? マルフォイと一緒にハグリッドの小屋へ行ったって? いったいどうして、マルフォイとどっかへ行ったりできるんだよ? 頭おかしくなってたんじゃないか?」
 ウィーズリーの声は怒っていたが、内心では心配していることが明らかだった。


「ロン、ハーマイオニーにはきっと、マルフォイと一緒に行動するちゃんとした理由があったんだよ。そうだろ、ハーマイオニー?」
 いつもこの二人の仲裁役にまわるポッターが、友人をなだめようとしていた。


「分かった、分かった。じゃあ、どうしてマルフォイと一緒だったんだよ? 授業がらみだったという話は受け付けないぞ。マルフォイは魔法生物飼育学を嫌っているじゃないか」
 カーテン越しに、ウィーズリーの声が耳に届いた。


「ねえ、ロン、ハリー。わたし、マルフォイの話はしたくないの。マルフォイのことを考えるのも、見るのも嫌。もう充分なの。おねがい、もっとほかの話題にできない?」

 嘆願するグレンジャーの低い声がした。


 ポッターが、素早く話題をドラコのことからマンティコアに移した。
「そもそも、なんでハグリッドのところにあんなのがいたんだい?」


「よく知らない。マクゴナガル先生は、ちゃんと処分できるようになるまでここで預かっておくことになったって言ってたわ。でも、誰が連れてきたのかとか、どこから来たのかは、分からないの。あのあと、捕まえられたかどうか、知ってる?」
 どうやら、昨晩のマクゴナガルとマダム・ポンフリーの会話を彼女も聞いていたらしい。


「ほんと、捕まっていてくれればいいんだけど」
 ウィーズリーの声が割り込んできた。
「ただでさえ禁じられた森の周辺は嫌なものだらけなのに、今度はマンティコアに気を付けなくちゃいけないなんてなあ」


「おい、ロン。そろそろ授業の時間だ。きみの分の宿題は持ってきてあげるよ、ハーマイオニー。それから、昼休みにまたこっちに顔を出すよ。いいかい? あんまりマルフォイに煩わされないようにね」
 ポッターが言った。


 彼らが別れの挨拶をし合う声が聞こえた。ポッターとウィーズリーがカーテンの外に出てドアに向かうあいだ、ドラコは眠ったふりをした。そのまま数分間じっとして、二人がいなくなったと確信できてから、慎重にベッドから下りる。恐る恐る脚の具合を試してみると、まだ痛みはあるものの、歩けるようになっていることが判明した。周囲を見回してマダム・ポンフリーがいるかどうか確かめたが、事務室へのドアは閉まっていた。ドラコは深く息を吸い、それからカーテンを引き開けた。グレンジャーがびっくりして小さく悲鳴をあげ、うしろに飛びすさるのを見るのは、面白かった。急いで近くに寄ってグレンジャーの腕をつかみ、ベッドの向こう側から滑り下りて逃げようとするのを阻止する。あまりにもきつく腕をつかんでいたので、グレンジャーは起き上がることもできずにいた。ドラコはかがみ込んで、相手の顔に数インチしか離れていないところまで自分の顔を近づけた。


「なぜだ?」
 ドラコは尋ねた。

「何が?」
 目を見開いて、グレンジャーはささやいた。


「なぜ、嘘をついてぼくをかばっている? 何が目当てだ?」
 ドラコは校医の注意を引かないよう声を低く保つことを心がけながら、腹立たしげにささやいた。


「わたし……わたし、あなたに何かさせようなんて思ってないわ、マルフォイ」
 鋭く言い返したグレンジャーの顔は、瞬く間に怒りの表情になっていった。


 ドラコは、相手の腕をつかんでいる力を強めた。
「きみが他人を脅迫するようなタイプだとは、思いもしなかったよ、穢れた血」
 わずかに手をひねって、グレンジャーの顔から血の気が引くのを見つめる。


「痛いわ」
 グレンジャーは静かに言った。その声には、はっきりと苦痛が現れていた。


 ドラコは即座に手を放し、うしろに下がった。ドラコがつかんでいたところは、目にも明らかだった。あとで痣になるかもしれない。グレンジャーは反対側の手を上げて、ドラコの指の跡が白く残る腕を用心深くさすった。


「わ……悪い。そういうつもりじゃなかったんだ」
 謝罪の言葉が口から出たことは、二人のうち、どちらにとっても意外だった。ドラコは少しのあいだ、ぎこちなくそこに立っていた。自分が謝罪をした理由も、まだここに突っ立っている理由も、今ひとつ分からなかった。


「脚はどう?」
 不思議な沈黙を破って、グレンジャーが尋ねた。


「痛いよ。ほかにどう言えと?」
 ドラコはそっけなく言い返した。


 グレンジャーはそれ以上は何も言わず、ベッドの片側に身体を転がして壁のほうを向いた。ドラコはもうしばらくそこに立ったまま、ただ彼女を眺めていたが、やがて自分のベッドに戻り、二人のあいだのカーテンを閉じた。