2003/11/2

Their Room
(by aleximoon)

Translation by Nessa F.


第 2 章 図書館

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 ドラコは男子寮に入るドアを、静かに後ろ手で閉めた。本当は叩きつけるように閉めたかったのだが、長年にわたってマルフォイ家の者として過ごしてきたドラコの身には、冷静さを保ち強い感情を表に出さないという習慣が染み付いていた。感情を見せるということは、他者に自分を支配する手段を与えることでしかないと、彼の父はいつも言っていた。ルシウスに思いが及ぶと、ドラコはつい、その顔にわずかな怒りを滲ませた。父親のことを考えるのは嫌だったが、今この瞬間に限って言えば、もう一つの考えを進めるよりは、微妙にマシであるように思えた。


「あのむかつく穢れた血が」
 ドラコは、唸り声で言った。特に誰に向かってというわけではない。室内には、ドラコ以外誰もいなかった。


 天井の低い部屋の隅にある四柱ベッドのところまで行くと、彼は深い緑色のカーテンを引き、ベッドの上に横になった。胸の上で腕を組み、目を閉じて、幼い頃ルシウスに強制的に学ばされた安らかな瞑想状態に身体を持っていく。ルシウスによれば、人が強くあるためには、集中力がなければならないのだった。ドラコは引き続き、両親に思いをはせた。ここ数週間は便りがないが、こちらとしてはそれでなんの不都合もなかった。父はビジネス提携者と共に忙しい日々を送っていたが、あの連中と一緒にやっているらしいビジネスというのが、はたして合法的なものなのかどうかは、非常に疑わしいとドラコは思っていた。ルシウスとその仲間、あのデスイーターたちのことが脳裏に浮かぶと、ドラコは軽蔑を込めて小さく笑った。子供の頃こそドラコは父親を崇拝していたが、ヴォルデモートが復活して以来、父がいかに弱い人間であるかが目につくようになった。穢れた血や愚かなマグルたちが窮地に陥ろうとどうしようと、正直知ったことではない。しかし、ただの赤ん坊によってズタボロの廃人になるところまで追いやられたような男の前に、自分の父親が平伏している姿を見たとき、ドラコは吐き気を覚えたのだった。ヴォルデモート復活後のルシウスは、たまに屋敷に戻ってきても、それ以外の話はほどんどしなかった。闇の帝王が力を取り戻した今、いかに万事がすばらしい状態になっていくはずであるか、ということを、ドラコは繰り返し繰り返し聞かされてきた。闇の帝王。ルシウスは、かの名前を口にすることすら、できずにいるのだ。自身の支持者たちのなかにさえ、そこまでの恐怖を喚起するような人物のどこがいいのか。頭の中に、父親の恐怖にかられたような顔が浮かんだ。ドラコが、デスイーターになる気はないと告げたときの顔だ。恐怖はすぐに怒りに取って代わられ、ドラコはその夜、ルシウスによって半殺しにされたのだった。そして父とはそれ以来一度も顔を合わせることなく、数日後に彼はホグワーツに戻ってきたのだ。脳裏に浮かぶ青白い顔、ドラコ自身にあまりも似通った顔には、憤怒がみなぎっていた。ドラコは、自分が段々と眠りに引き込まれていくのを感じた。まだ頭の中からは父親のイメージが抜けていなかった。しかしそのとき、まったく別の、さらに思い出したくない顔が浮かんだ。ボサボサの茶色い髪を振り広げている、怒りに満ちた顔。ドラコはうめき声をあげて起き上がった。


「ふざけたやつだ。穢れた血」
 声を殺して、ドラコはつぶやいた。


 ベクトル教授によって、ポッターのお気楽な共謀者たちの一人とペアを組まされたということを、ドラコはまだ受け入れられずにいた。腕時計を見ると、あと数分で夕食に行かねばならない時間だ。そしてそのあとは、図書館に行ってあの女に会わなければならない。来たるべき対面を思って、ドラコは顔をしかめた。彼が穢れた血と行動を共にしているなどと知ったら、ルシウスはどう思うだろう。しかしそこに考えが至ると、ドラコはニヤリとした。ルシウスは憤りのあまり、気も狂わんばかりになるに違いない。その意味では、グレンジャーと組むのも、まるっきり無駄ではないような気がしないでもなかった。


 寮の部屋のドアがバンと開き、ドラコのベッドに向かってくる、ドスドスという足音が聞こえた。


「ドラコ、そこにいるのか?」
 カーテンを開くとクラッブとゴイルの愚鈍な顔が目に入った。


「夕食の時間だよ」
 クラッブが誇らしげに言った。明らかに、時間を告げることのできる自分に感動しているのだ。


 ドラコは積み上げた教科書の中を探して、数占いの本を見つけ出した。それを鞄に入れて肩にかけると、クラッブとゴイルは驚きをあらわにした。ドラコはため息をついて、今一度、もう少し利口な仲間がほしかったと考えた。


「夕食後、図書館であの穢れた血のグレンジャーに会わないといけないんだ。数占いの宿題を共同でやることになっている」
 ゆっくりとした平坦な声で、ドラコは言った。これ以上の説明をせずにすむことを願いながら。


「へえ、なんだって、そんなことしようと思ったんだ?」
 それなりに察してくれというドラコの無言の祈りにもかかわらず、ゴイルが尋ねてきた。


「ぼくが決めたわけじゃない。ベクトル教授がぼくたちをパートナーにしたから、やむを得ずだ。さあ、早く行かないと、夕飯を食べ損ねるぞ」
 なるべくならグレンジャーについて語ることを避けたくて、ドラコは素早く話題を変えた。


 思惑どおり、クラッブとゴイルは食べ物の話が出たとたんに目を輝かせた。三人は寮を出て、大広間に向かった。