イメージチェンジ (The Makeover) by DavesmomTranslation by Nessa F.
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土曜日の朝、温室に向かいながら、ジニーはマルフォイに自分のイメージチェンジを任せるなどという暴挙によくも出たものだと信じられない思いだった。別に見返りなどなしで教えてやってもよかったのだが、たぶん彼はジニーに借りを作るくらいなら死んだほうがマシだと言うだろう。そして、ジニーには彼の助けになっているという自負があった。マルフォイは馬鹿ではなかった。ただ、植物に馴染んでいないのだ。馴染むどころか殺していた。彼の成績を下げているのは、教科書で学ぶ部分ではなく、実技分野だった。そこでジニーは植物の世話をさせることにした。まずは水のやり方、日光の当て方、肥料のやり方、そして植え替えなど、基礎の基礎からだ。ふたりでプランター数個分の超高速成長もやしを育て終わる頃には、マルフォイの手に触れる植物がことごとく死に絶えることはなくなっていた。そこまでは、わずか五日間のことだった。今日はもやしの植え替えをやることになっている。時間まであと数分だ。それから、一緒にホグスミードに行ってジニーの髪型をどうにかする予定になっていた。ジニーは気恥ずかしい思いで、今までずっと伸ばしてきた長いポニーテールを手で払った。マルフォイは、ジニーがそれを切らなければイメージチェンジの手伝いはできないと言ったのだ。 この短期間でマルフォイがもたらした成果は驚くべきものだった。取引をした翌日、温室のひとつでふたりは待ち合わせた。ジニーが基礎を説明しているあいだ、彼はじっとジニーを観察していた。話をしようとしているときに凝視されるのは快いものではなかったが、マルフォイはジニーのしぐさや喋り方を見てマイナス要因を指摘し、プラス要因を伸ばすのだと言った。プランターの上にかがみこんで種のまき方を説明していたときに、マルフォイは手を伸ばして固く握った拳をジニーの背骨に沿って下に滑らせた。 「何よ」 「姿勢だよ、ウィーズリー。恐ろしく姿勢が悪い」 ジニーは少し口ごもりながら、習慣となっていたもとの猫背に戻ろうとした。彼はジニーの肩をつかんで、また背筋が伸びるように引っぱりあげた。 「背の高い女の子が苦手だなんていう男はぶっ殺しちまえ」 ジニーは、まるでマルフォイの目が三つになったとでもいうように、まじまじと彼の顔を見た。なんてことを言うのだろう。言葉自体の汚さと、励ますような内容の、どちらにより大きな衝撃を受けたのかは、自分でもわからなかった。しかし次の瞬間、現実に引き戻された。 「いいかウィーズリー。どういう態度をとるかで、周囲の態度も変わってくるんだ。自分のことをぐずでガリガリの魅力のない女だと思っていたら、身振りにそれが出る。要するに言いたいのは、人の目を引きたければ、引きつけられるような人間になりきれということだ。背筋を伸ばして、ありのままの自分を誇りに思え」 ジニーは機嫌を悪くしないように心がける一方で、アドバイスを受け入れることにした。前かがみにうずくまることを止め、頭を上げて肩で風を切るように、「事実上存在しない」胸を張り出して歩いた。そして、その様子は人の目を引いた。友人たちからは、突然お化粧をするようになったのかと尋ねられた。あるいは、新しいローブを買ったのかとか、髪型を変えたのかと訊かれたこともあった。ただ単に姿勢をよくしただけで。マルフォイはさらに、眉を少しだけ細くして、ごく薄く口紅を塗り、髪を切ることを勧めた。実際のところジニーはほとんどの提案に同意したが、眼鏡を止めるように言われたときだけは、頑として抵抗した。 「身長のことであなたが言ったのと同じよ。近眼の女の子が苦手だなんていう男には消えてもらうわ。ほんとに殺(や)りはしないけどね!」 温室に近付くと、ジニーはマルフォイの姿を探して周囲を見回した。まだ来ていないようだった。ジニーは、スプラウト先生から使用許可をもらっている温室に入った。もちろん、スプラウト先生には断っておく必要があったのだ。しかし先生は、ジニーがマルフォイの補習をすることを全面的に支持してくれていた。 ドアを開けると、実はマルフォイはすでに来ていたことがわかった。彼は自分が育てたもやしを見下ろして、畏敬の念に打たれたような表情を浮かべていた。ジニーには、彼の気持ちがよく理解できた。ジニーも自分が植えた植物が育つと、同じような気持ちになるからだ。こういうときの気分は格別だった。まるで自分が本当に特別なことをやっているようなかんじ。そのときマルフォイが突然身を硬くして振り向いた。 「なんだ、きみか」 ジニーはドアを後手に閉めて近付いた。 「じっと見られるのが嫌なだけだ」 ジニーはあきれ顔になった。マルフォイがこの五日間、ジニーをどのように改良するかを決めるために、ただただ彼女を凝視してきたことを思ったのだ。彼が見つめつづけているもやしに目をやって、ジニーは嬉しい驚きに息を呑んだ。 「マルフォイ! すごいわ!」 マルフォイはもう一度肩をすくめて、嬉しさを押し隠すかのようにぶっきらぼうに言った。 ジニーは彼を見て首を振り、手袋とプランターと移植ごてを渡した。 マルフォイは奇妙な表情でジニーを見やったが、差し出されたものを受け取って作業を始めた。半分ほど植え替えが進んだところで、ジニーは彼の手を止めさせた。 マルフォイはうなずいて、後片付けのために流しの前に移動した。 ジニーはまたしても、今は乱れているポニーテールに手をやった。何ヶ月も髪を切りたいと思っていたのに、勇気を出せずにいたのだ。そして今、マルフォイがむりやり切らせようとしている。ジニーは怯えていた。髪の毛は、猫背と同じだ。気が楽だし、自分を見せずにすむ。髪が長ければ、その陰に隠れることができる。短くしてしまえば、無防備な気持ちになるだろう。 ジニーの顔を見つめていたマルフォイの視線が厳しくなった。 「切らないなんて言ってない」 「言わなくてもその顔で一目瞭然だぞ、ウィーズリー。ちょっと髪を切る程度のことで、怯えているのがな」 彼はわざとらしく笑って腕を組んだ。 煽られていることはわかっていたが、ジニーは餌に食いついた。 ジニーはくるりと身体の向きを変えてマルフォイの横をすり抜けた。マルフォイの笑顔が見えた。ほくそえんでいるようだ。悔しいけど、まんまと乗せられた。でももう後戻りはできない。吉と出るか凶と出るか、とにかく夕刻までには、ジニーの髪の毛は数インチ短くなるのだ。 |