イメージチェンジ (The Makeover) by DavesmomTranslation by Nessa F.
原文登録先:Fanfiction.net / ID : 792307 (2002/05/22 付)登録ジャンル:Humor/Romance カップリング:ドラコ×ジニー Rating:T (旧PG-13) (page 1/4)
ジニー・ウィーズリーは、薬草学の温室裏に放置されている作業用ベンチに腰をおろした。授業は終わったが夕食までにはまだしばらくある。宿題を出された生徒は勤勉に机に向かい(あるいは、向かうべきであり)、宿題のない生徒は友達の手が空くまで談話室で暇をつぶそうと適当にぶらぶらしている、そんな空白の時間だ。今日のジニーには宿題もなく、待っていたい友達もいなかった。そしてどっちにしても、適当にぶらぶらしているような気分ではなかった。もうすぐ学年末のダンスパーティが予定されている。六年間の思いに応えて、とうとうハリーが誘ってくれるのではないかとジニーは期待していた。しかしちょうどさっき、ハリーが誘うつもりなのはレイブンクローの子だと知ったばかりなのだった。胸が張り裂けるというほどではないが、気落ちはしていた。痩せぎすで恥ずかしがりやだった十歳の頃からハリーが自分を見てくれないかと思っていたけれど、まったくそういうことはなかった。少なくとも、親友ロンの妹として以外に見られたことはない。 ジニーは頬を伝ったひとしずくの涙をぬぐった。正直、ハリーを責める気にはならない。今でもジニーは痩せぎすで恥ずかしがりやで、さらに五年生のときからは眼鏡をかけている。しかも、どうやら大半の科目でハリーよりもずっと成績がいいので、なんだかハーマイオニー並みの知ったかぶりやみたいだ。そんなつもりはないのに、とにかくなぜかそんなふうになってしまうのだ。ジニーは男の子に好かれるタイプではなく、それを自分でもわかっていた。しかしわかっているからと言って、気持ちが楽になるわけではなかった。 さらにもう一滴流れた涙をぬぐい、大人にならなくちゃ、と自分に言い聞かせた。ハリーが気持ちを向けてくれることは決してないのだから、それを事実として受け止めなければ。ダンスは三週間後で、ハリーは誰かほかの子を誘って、そしてたぶん自分はみんなが楽しんでいるあいだ、談話室で独り寂しく座ってすごす。そして学期が終わり、それからはハリーに会えるのはきっと年に一度か二度、休暇中に彼が "隠れ穴" のウィーズリー一家を訪問するときだけになるのだ。ジニーはそろそろグリフィンドール寮に戻って夕食に行く準備をしようと気持ちを切り替えた。が、ちょうどそのとき、温室の間の砂利道をざくざくと踏みしめてこちらにやってくる足音が聞こえた。 慌てて目と鼻をハンカチで拭き、涙が出はじめたときに外していた眼鏡をかけなおし、ジニーは立ち上がって足音の主を待った。こんなところに来るのは誰だろう? 普段、このあたりにやってくるのはジニーだけなのだ。それほど待つことはなかった。すぐにドラコ・マルフォイが温室の角を曲がってその長身痩躯の姿を現し、そして突然立ち止まった。 明らかにそこに他人がいることに驚いた様子で、ドラコは目を見開いた。ジニーはお腹のあたりに重いものが沈むような気分になった。マルフォイがジニーをかまうことはそんなに多くないが、からんでくる話題はいつも同じ。ハリーだ。 ドラコがその鋭い灰色の目の上の眉をひそめると同時に、ジニーは心を引き締めた。しかし、ドラコの反応は思いもかけないものだった。 「一体こんなところで何をやっているんだ、ウィーズリー」 ジニーは背筋をぴんと伸ばした。こうすると目の前の少年とほとんど同じくらいの高さになる。マルフォイは好きではないし、からかわれるのも大嫌いだが、ここは言うならばジニーのなわばりだ。スプラウト先生から、いつでも好きなときに立ち入る許可をもらっているのだ。 「あなたには関係ないと思うわよ、マルフォイ」 言った瞬間、声の震えを指摘されるに違いないと思った。しかしまたまた驚いたことに、相手は嫌味を言うこともなく、そのままじっとこちらを見つめてきた。冷静な視線にさらされて、ジニーはとても落ち着かない気持ちになった。ドラコは、ものすごく格好がいいわけではない。絶対にハリーほどではない。でも着ているものは常に最高級品だし、髪は常にきちんと整っているし、教科書や持ち物は常に新品だ。彼のそばにいると、自分がみすぼらしく貧弱に思えてしまうのだった。顔が赤くなるのを自覚して、ジニーは少し腹が立ってきた。 「そういうあなたは、何しに来たわけ、マルフォイ? いつものたまり場からは外れてるわよね? 取り巻きなしでひとりでいて怖くない? 見学にでもきたつもり?」 最後まで言い終わりもしないうちに、ジニーは自分の大胆さに気付いてショックを受けた。マルフォイを侮辱するなんて。単に言い返すだけでも、より一層のいじめを誘発するだけなのに。これはもうさっさと退却するのが一番安全だろうと思ったが、退路が断たれていた。城に戻るにはマルフォイを押しのけていくしかない。しかしそれはそれで、一体どんな報復をもたらすか。それでもやるしかないと決意して一歩前に出たが、さらに驚いたことに、マルフォイのほうも前に出て、無造作にジニーをベンチに押し戻してきた。ジニーはぎこちなくベンチに腰をつけて、すぐにもう一度立ち上がろうとしたが、マルフォイは正面に立ちふさがって、空いたほうの手でジニーの肩を押さえつけていた。ちょっとこいつ、たかが痩せっぽちのフェレットのくせになんでこんなに力が強いのよ。頭に血がのぼった状態で、ジニーは肩から相手の手を引き剥がそうとした。 「離しなさいよ、マルフォイ!」 マルフォイは持っていた本を地面に落とし、もう片方の肩もつかんで、さらに力を強めた。 「やめろ、ウィーズリー」 ジニーは睨みつけて言い返した。 マルフォイはぱっと手を離して、後に下がった。ジニーはもう一度相手を睨みつけて、片方の肩をさすった。 「悪かったよ」 「何が言いたいの、マルフォイ? わたし、あなたに手伝ってもらいたいことなんてないわ」 ジニーは胡散臭げに、落とした本を拾い上げるマルフォイを見た。彼はジニーの隣に座り、本を見せた。七年生の薬草学の教科書だった。ジニーは本からマルフォイの顔に視線を移して、どういうことだろうかといぶかった。 「薬草学の単位を落としそうなんだ、ウィーズリー。誰かに言ったらただじゃ置かないからな」 ジニーは、もう一度マルフォイの顔を見た。たしかに彼は別に格好よくははない。特に、他人を脅しているときには。しかしそれでも、どこか心を騒がせるようなところがあった。そう、崖っぷちに立っているときのような。ジニーはその考えを追いやって、目をそらした。 「あのね、マルフォイ。普通の人は脅迫されるのが好きじゃないのよ。問題を抱えているのはわたしじゃなくて、あなたでしょ。あなたはコソコソした威張りやのろくでなしだから、どんな脅しの言葉よりも『お願いします』の一言のほうがよっぽど効果的だってことが理解できないのね。じゃあ、わたしもう行くから」 ジニーは、またしてもマルフォイがつかみかかってきてむりやり座らせるに違いないと思いながら再び立ち上がった。しかし、マルフォイは何もしなかった。ジニーは、早く逃げようと温室の角に急いだ。それにしてもマルフォイはジニーの悩みが何だと思っているのだろうか。ハリーのことで泣いていたなんて、わかるはずがないのに。角を曲がろうとしたところで、後から追いかけてくる足音が聞こえた。大変だ、走らなくては。脚が長くほっそりした身体つきのジニーは女の子にしては足が速いほうだった。それなのに、ローブの裾をたくしあげた時点で、もう追いつかれていた。 「待てよ、ウィーズリー!」 ジニーは度肝を抜かれて振り返った。ぎこちなくいかにも使い慣れていない言い方ではあったが、マルフォイがこれを口に出したという事実そのものが驚異的だ。彼もあまり気分がよくはなさそうだったが、じっと立ったまま返答を待っていた。きっと後悔するだろうと思いながら、ジニーは溜め息をついた。 「わかったわ、マルフォイ。どうしたいの?」 彼は顔をしかめた。明らかに、人に頼みごとをするのが嫌なのだ。 敵の弱みにつけこむのはいけないことだと知りながらも、ジニーはそっと微笑まずにはいられなかった。 マルフォイは苦虫を噛みつぶしたような表情になったが、何も言わなかった。どうやら自分はある種の勝利をおさめたらしい、とジニーは思った。小さな勝利ではあったが、勝利であることには変わりない。 「わたしにできることはやるわ、マルフォイ」 マルフォイはうなずいた。 今度はマルフォイのほうが、赤面してどもりながら否定するジニーを見て笑みを浮かべる番だった。 「わかるさ、ウィーズリー。きみは温室の裏に座り込んで泣きべそをかいていた。ダンスパーティの予定が発表されたばかりだ。ポッティーがきみを誘っていないことは明らかだ。もし誘われていたら、きみは今頃グリフィンドール中を踊りまわっているだろう。そうじゃないか?」 ジニーは口をぽかんと開けてマルフォイを見るしかなかった。学校中に、ジニーがどうしようもなくハリーにのぼせあがっていると、知れわたってしまっていたのだろうか? 心を読んだかのように、マルフォイは首を振った。 ジニーは黙ったまま唇を噛んだ。何が言えるというのだろう? マルフォイは間違っていると、ジニーの存在すら認識してくれないような男の子におかしいくらい心を奪われているなんて、そんなの嘘だと、言えばいいのだろうか? ジニーは目をそらして、相手のほうから何か言ってくれないかと願った。 「いいか、ウィーズリー。ぼくはきみがポッターに夢中だろうと何だろうとどうでもいい。まあ、見ていて面白くはあるがな。ただ、薬草学で及第できるようにしてくれるなら、あの馬鹿男の気を引いてダンスパーティに誘って来させるようにしてやる。これで手を打たないか?」 まだ目をそらしたまま、ジニーは尋ねた。 最後まで言わないうちにマルフォイがさえぎった。 「あなた、そんなこと本当に気にしてる?」 「するかよ」 宿敵の手によるイメージチェンジというのは、ジニーの想像を越えていた。目の前にいる青白い少年をぽかんと見つめて、自分の耳はたしかだろうかと思った。軽く頭を振ってみることさえした。 マルフォイは顔をしかめた。 「えーと、呪文や魔法薬はなし? あなたが指示を出して、わたしはそれをやるだけでいいの?」 「あるいは、やらないか。きみ次第だ。とにかく、効果がないときみが判断するか、ポッティーがきみを誘うかするまでの期間、きみはぼくに薬草学を教えてくれればいい」 ジニーは懸命に考えた。ジニーはずっと、どうも自分は美容方面において深刻に手助けが必要なのではないかと思っていたのだが、友人たちのアドバイスを信用する気にもなれずにいたのだ。なんせ彼女たちには、やみくもに最新流行に飛びつく傾向があった。マルフォイは好きではないが、趣味のよさは認めざるを得ない。それに、言われたことが気に食わなければ、提案を無視すればいいだけのこと。そうよね? |