Be Of Good Cheer (4) ジニーを待たせておいて、ドラコは屋敷に戻るとドレス・ローブに着替えた。黒地にグリーンの裾飾りが入った正装でふたたび魔法省に姿現わしをすると、ジニーは爪先立ちで小さく身体を弾ませていた。ドラコを目にした彼女は、輝くような笑顔になって両手をぱちんと合わせた。 「それはどうも」 会場はブルーとシルバーを基調にした飾りつけを施され、さしずめ冬の楽園といった風情だった。パチルらとブラウンの普段の好みを考えると、意外に感じるほど趣味がいい。パチル姉妹とブラウンは、「PP & B Inc.」という室内装飾の会社を共同経営しており、俗悪なけばけばしいものを提供していることが多かった。予想どおり、ジニーはこの飾りつけを見事だと褒めたたえ、何を見ても感じ入ったようにきゃあきゃあと喜んだ。部屋の真ん中に据えつけられた巨大なツリー、窓に吊るされた小さな豆電球、ダンス・フロアの上空にぶら下がって、魔法で銀色にされた炎で床を照らし出しているキャンドルなどなど。彼女はその小さな暖かい手でドラコの手をきゅっと握り、嬉々として特に気に入ったものを指し示しながら、ドラコを引きずって広間じゅうを行ったり来たりした。 息を弾ませながら室内を一周し、二重扉のある入り口付近に戻ってきたとき、お馴染みの声が背後から聞こえた。 「ジニー! 来て大丈夫だったの?」 「来て大丈夫だったのって、どういうことよ? 大丈夫じゃない理由でもあるの?」 「コリンは、あなたが体調を崩したって言ってたの」 ジニーはぽかんと口を開けた。 グレンジャーの表情は、困惑から怒りへと急速に変化していった。 「ええ、違うわ」 「言っただろう、やつは大馬鹿だって」 グレンジャーはドラコを見て眉を上げた。 ドラコはゆっくりと冷笑を浮かべて見せ、どうでもよさそうに肩をすくめた。ジニーが咳払いをした。 グレンジャーはジニーとドラコを見比べると、首を振ってため息をついた。 ジニーは大変に淑女らしくない声を出すと、グレンジャーのあばら骨のあたりを肘でつついた。 グレンジャーはただ、もう一度首を振っただけだった。在学中にもしょっちゅう浮かべていた、微妙に不賛成を主張する表情だ。
「ロンはどうしたの?」
「ああ、ついさっき、ハリーとシェーマスと連れ立ってどこかへ行ったわ」
「なるほどね。男の人って箒に弱いのよね」
ドラコは、ポッターとフィネガンと箒に関して表明しそうになった辛辣な意見をぐっと呑み込んで会場を見回し、誰が来ていて誰が来ていないのかをチェックしていった。グリフィンドール出身者が大勢、これは当然だ。一方、ドラコのような人間の数はあまり多くなかった。そもそも、戦いが終わって以来、どこに行ったってドラコのような人間は少数派なのだ。
グレンジャーは何やら弁解の言葉を述べると、足早に離れて行った。おそらくジニーの兄を探しに行ったのだろう。ジニーはドラコのほうに注意を戻した。
「ん……お、見ろよ。パンチボウルのところにクリービーがいるぞ」
「彼の隣にいるあれがフローラよ。金髪の女の子」
ドラコはクリービーの横に立っている脱色したような金髪の女性をじっと見た。たしかに美人ではあるかもしれない。ガリガリで青白い不健康そうなタイプが好みなら。しかしここから見ただけでも、活気というものがまるでないことが分かる。彼女の周りには濡れた毛布みたいな雰囲気がはっきりとただよっていた。
「あいつ、あんなののためにきみを振ったのか?」
ジニーは楽しげに笑った。顔全体が晴れ晴れとしていた。
ドラコは鼻を鳴らした。
「わたしは、そうじゃなかったってこと?」
「きみは絶対、あいつにはもったいなかった」
この言葉で、ジニーの唇の端が上に向き、満足げな微笑をかすかに形づくった。
ドラコは、クリービーがこちらに振り向いてパーティ会場を見回すさまを観察した。隣にいる顔色が悪く影が薄い小柄な女性に、何かをつぶやいている。ドラコと目が合うと、クリービーは滑稽なほどの驚きをあらわにし、その傍らにいるジニーが目に入ると、あからさまに血の気を失った。突然、ドラコはあることを思いついた。
「あいつを殴って来てもいいか?」
「いいえ、殴るなんて駄目よ! 馬鹿言わないで」
ドラコはクリービーのほうに睨みを利かせ、年下の男がその視線を受けて蒼白になるのを見て溜飲を下げた。
「いいえ、よくないわ。だからさっさとそんなこと忘れなさい」
ドラコは、ジニーが腕を引っ張るのに逆らった。
「世間の人たちは、あなたのことを、ろくでなしだと思ってるわ。言っとくけど、そうじゃないってみんなを説得しようとするのは、けっこう大変なのよ」
「そもそも、なぜわざわざそんなことを?」
一方ジニーのほうは、ドラコが気にしていないことが、信じられないようだった。
「ぼくがそういうふうに思われているのは、日々接している馬鹿ども相手にわざわざ愛想を振りまいてやるほどの暇人ではないからじゃないだろうか」
「わたしの相手はちゃんとしてくれるわ」
「それはまた別の問題だ」
「そうなの?」
ドラコは咳払いをした。
「本当に、殴ってきては駄目か?」
ジニーは嘆息した。
「ちょっと早目のクリスマス・プレゼント代わりだと思えばいい。ぼくには何もくれないんだろう」
ジニーは赤面してうつむいた。
「そうなのか?」
まだこちらを見ないまま、ジニーはうなずいた。
「そうか」
「ドラコ!」
「ぼくからぼくへのプレゼントなら?」
「駄目」
「ふーむ」
ジニーはびっくりするほどの力を込めてドラコの手を握りしめた。
「あいつのほうから殴ってきた場合は、ぼくのせいじゃない。正当防衛をしないわけにはいかないからな」
「もしわたしがそれならいいって言ったら、あなた彼のところに行って、向こうから殴りかかってくるように挑発するつもりなんでしょ。ドラコ、わたし、たとえどんな理由ででも、あなたがコリンと喧嘩をするのは絶対許さないわ」
束の間、ドラコは目をしばたいていた。頬に触れるきゃしゃな指先に気を取られていた。
ジニーはただ、笑った。 |