Be Of Good Cheer (2) 昼休みに、兄のほうのウィーズリーとポッターを従えたグレンジャーがやって来た。妹のほうのウィーズリーを連れ出して、フローテスキューの店で昼食をとろうと言うのだ。ポッター、ウィーズリー、グレンジャーが昼食の誘いをかけに来るのは、いつものパターンだった。グレンジャーの職場はすぐ上の階だし、ポッターとウィーズリーは二人とも闇祓いなので、地方にさまよい出て追跡 もちろん、妹のほうのウィーズリーが持ち物をまとめるあいだ、目障りな彼らがオフィス内をうろうろしていないほうが、ドラコとしては心穏やかでいられるのだが。 「ごめんなさい……午後にミーティングがあるんで、午前中はずっと報告書にかかり切りだったの。すぐに支度するから」 「あら、慌てなくていいのよ」 ドラコは苦々しい気持ちで顔をしかめた。実際問題、仕事が詰まっている人間もいるっていうのに、こいつらは全員、午後からずっと何もせずぶらぶらできるつもりでいるのか。ジニー・ウィーズリーは、ちらりとドラコのほうを見て、微笑みを投げかけた。 グレンジャーは無神経にも同情めいた声をもらし、ロン・ウィーズリーは不恰好なデカ頭を振った。 ジニー・ウィーズリーは首を振ると、もう一度、可笑しそうな顔でドラコをちらりと見た。こちらの苛立ちを、彼女が面白がっているというのが、不愉快だ。しかもドラコが不愉快だと思っていることまで、彼女にはすっかりお見通しなのだ。 「無理だと思うわ、ロン。わたしがミーティングに欠席してたら、ミスター・ソーソンは絶対に気付くもの。兄さんはおまえ正気かって言うだろうけど、わたし、ほんとにこの仕事が好きなの。クビにはなりたくない」
ロン・ウィーズリーの表情からすると、彼は実際に、妹が正気を失っていると思ったらしかった。
「ミスター・ソーソンがそういうことを考慮に入れるとは思えないわ、ロン」
「そりゃ、あいつが腐った根性のひでえ
コリン・クリービー。
日刊予言者新聞の記者。カメラマン修行中。そして、ジニー・ウィーズリーの恋人。
ドラコは、彼が大嫌いだった。
クリービーは弾む足取りで部屋の中に入ってくると、集結した面々に向かって笑いかけた。ドラコはポッターの背中に注いでいた険しい視線を、今度はこの侵入者に向けた。クリービーの笑みがわずかに勢いを失った。彼はドラコの机をちらりと見ながら、居心地悪そうに身じろぎをした。
「あら、コリン!」
「ああ、きみたちが一緒に昼食に行くって聞いてたんで、ぼくも寄ってみようかと思ったんだ」
「まあ、もちろんよ、コリン!」
ドラコは嘲るように鼻を鳴らしそうになったのを押し殺し、わらわらとオフィスを占拠しているグリフィンドール勢の向こう側にいるジニー・ウィーズリーが眉をひそめて見せたのに応じて、ちらりと冷笑を浮かべてやった。あとで文句を言われるかもしれないが、今は心ゆくまであいつらに、特にポッターとクリービーに向かって、嫌な顔をしてやるのだ。あいつらが列をなして部屋を出てゆき、ドラコが誰にも邪魔されず報告書を推敲できるようになるまでは。
ところが実際には、ドラコの思いは、ともすれば報告書のことよりも、無人になったオフィスの向こう側の半分のほうに流れてゆくのだった。そちら側が、ウィーズリーの手でそこかしこに配置されたデコレーションや針葉樹の枝、それにこまごまとしたあれやこれやで埋まっているおかげで、部屋全体の印象が、暖かくくつろげる、居心地のよい職場といったかんじになっている。そしてたしかに、ここは居心地のよい職場なのだった。ドラコの人生に、ウィーズリーという陽気で茶目っ気のある笑い声に満ちた存在が入り込んでくる前よりも、ずっと。彼女がここにいるせいで、会いたくもないやつらと顔を合わせる羽目にはなった。グレンジャー、ポッター、あの愚鈍なクリービー、際限なく次々とやってくるウィーズリー家のほかの面々。しかし全体としては、彼女が来てからのほうがドラコの毎日は明るかった。
ドラコは深々とため息をつき、苦虫を噛み潰したような顔で羽根ペンを見下ろした。いったいなんだって、ウィーズリーにかかわるあれこれに心惹かれるようになんか、なってしまったんだろう。大体、美人でさえないじゃないか。仮に、本来なら不快な色合いであるはずのウィーズリー家特有の赤毛が、彼女の長くまっすぐな髪の場合だけはもう少し柔らかい、金色を帯びた緋色であると認めたにしても、肌はドラコの趣味から言うと青白すぎるし、鼻のあたりにそばかすが散っていて、まったく田舎臭い。たしかに、いくらかは可愛げのある特徴もある。濃いチョコレート色の瞳や、キスを誘うような唇
いや、自分は別にそんなことに気付いてなどいないのだが。
ドラコは報告書を見下ろして顔をしかめ、羊皮紙を羽根ペンで乱暴に突いた。ジニー・ウィーズリーになんか、興味はないんだ。全然。彼女が、どこぞのくだらないパーティに、鼻持ちならない憎たらしいろくでなしとしか言いようのないクリービーと一緒に行くからと言って、裏切られたような気分に陥ってぼんやり座っているなんて間違っている。内心でうなり声をあげると、ドラコはまるで敵討ちでもするような勢いで仕事に没頭し始めた。 |