2003/12/17


XII. 光 (Light)


 そうして、彼らはふたりきりになった。ついに、ようやく、完全に。はるか西の海岸を臨む、今にも崩れそうな小屋で、ふたりは激しく熱狂的な歓喜に身を任せた。まるで農神祭を祝う古代ローマ人のように、その場にあったすべてのロウソクやランプを灯して暗闇を追い払った。みすぼらしい窓から周囲の雪の上に、細長い光が扇のように投げかけられている。屋内では、光がふたりの身体を浮かび上がらせ、黄金の後光のように肌や髪を包み込んだ。淡く白い色、豊かに赤い色。悠久のむかしから存在した古いダンスに興じ、一緒になって身体を揺らすふたりの周りで、ゆらゆらと輝く光を背景に不可思議な影が舞い踊った。


 冬至。降誕祭。一年で最も長い夜。どこか遠いところでは、偽りの王が戴冠していた。のちになればその玉座から引きずり降ろされるだろう、正当なる権利を持たぬ悪政の王。しかしここにはただ、光と、喜びと、生命だけが在った。青葉に身を飾り、諍いを忘れ、闇の精を追い払わんと光輝に浴しつつ、ふたたび世界に光がもたらされたことを、ふたりは祝した。



(了)






※古代ローマの農神祭 (Saturnalia)
サトゥルナリア、サトゥルヌスの祭。農耕神サトゥルヌスを称えるため 12 月に 7 日間にわたって行われた。ロウソクなどを贈り物として交換する慣習が現在のクリスマスの慣習に影響を与えた。



翻訳者断り書き:
作者コメントによると、この作品の構成は Resonant さんという方による、テレビドラマ "Sentinel" の スラッシュ ファンフィク "Thirteen Christmas Traditions" から着想したものなのだそうです(私はこれ、読んでません)。作中で触れられている、クリスマスに関する伝承などは、あちこちの Web サイトから拾ってきたそうです。私も翻訳および訳注の記述にあたっては、あちこちのサイトを少しずつ参考にさせていただき、特にちゃんとした本を読んだりはしませんでした。ご了承ください。