ドラコーディア 〜ドラゴンの心〜Dracordia (by LittleMaggie)Translation by Nessa F.
第 24 章 エピローグ(page 2/2)
ドラコはインターフォンを鳴らした。 スミスというのは、ドアマンの名前だった。ひび割れた音声で応答があった。 「別にティー・パーティをやろうってわけじゃない。緊急なんだ、入れてやってくれ」 スミスが脇に退いて、女の子は階段の吹き抜けに向かって走っていった。ドラコはほっと息を吐いてカウチに戻り、気を散らされる前に自分は何をしていたのだったか、と考え込んだ。 階段を上ってくる足音が耳に入った。 「お嬢さん、ぼくはきみの従兄じゃない」 「ドラコ!」 「ジニー?」 ジニーはガタガタとドアノブを揺らした。 「しーっ!」 そこに、彼女がいた。赤毛は短く切りそろえられ、今は茶色に見えるほど水分を含んでしまっている。睫毛は互いにくっついて小さな塊を形成し、星型のそれぞれの頂点のようだ。 ドラコは愕然とした。何かを、見逃していたような気がする。頭の中で記憶のテープが徐々に巻き戻されながら、ぼんやりと霞んでいった。 「『はい』なの!『はい』だったの! それがわたしの返事。『はい』」 「怒ってないよ」 「ほんと?」 「そりゃ、ちょっとは腹が立ったさ」 「絵を見てなかったの」 「そういうことなら、ぼくも悪かったよ」 「嬉しかった」 「家族のことは?」 「わたしたち、何もかもなんとかできるわ。あなたは……あなたは、本当に特別なひとなんだもの。わたしにとっては。最初に思ったのとは、全然違ってた」 ドラコはジニーを引き寄せて、そっとキスをした。 ジニーは笑い出していた。ふわふわした気分で、ドラコのキスが頬骨から下がって首筋をたどり、ふたたび唇に戻ってくるのを感じながら。 「どうなることやら」 「指輪なんか、どうでもいいのよ!」 「金もない」 「ちゃんとしたお仕事に就いてるわ」 「でもハリー……もう顔を合わせられないよ!」 「あなたたちがふたりとも、お互いを不当に扱ってきたことは、わかってる。でも最終的には、ハリーは水に流すつもりでいるわ。ずっと前から、ハリーはあなたに向かって、手を差し出しているの。あなたに許してほしくて。彼独特の高慢なやり方ではあるけど。彼は時々、あなたと同じくらいプライドが高いのよ」 「たぶん、時間が解決してくれると思うよ」 「充分よ」 「冷え切ってしまってるじゃないか」 「少なくとも、あなたはそばにいるわ」 ふたりは微笑んだまま、お互いを見つめあった。隔たりや壁は崩れ落ちて、あとは多少の瓦礫を乗り越え、ふたりをつなぐ道を新しいセメントで滑らかに舗装するだけだ。そしてたぶん、最も強固なセメント、最も強固な絆は、愛情によってできている。 * ある晴れた冬の日。ふたりは膝まで埋まるほどの雪の中を歩いていた。どちらの手にも、指輪が光っていた。ふたりが歩いていったうしろには、雪で作った要塞が二つと、雪つぶての山、それから各々の陣営を固める雪だるまが二体ずつ残された。 さっきまで、ふたりは雪合戦をしていた。そのときジニーが、不注意で "攻撃ミサイル" と一緒に指輪を飛ばしてしまったのだった。そこでふたりは、たっぷり三十分間は、雪の中を探し回る羽目になったが、結局は見つけることができた。 今、ふたりは手に手を取り合って歩いていた。ドラコが身震いをすると、ジニーは自分のスカーフを外してドラコの首に巻いた。ドラコの青い目は明るく、頬は赤みがさして輝いている。さらに歩いていくと、ふたりの背後で空気の中を跳ねまわる黄金色のスカーフと、風に吹かれてうねるジニーの赤い髪とが、絡まりあい、一緒になって舞い踊った。ジニーの髪は以前よりも短く、ようやく肩につく程度だったが、まさに全体が炎のようだ。 そして今このときばかりは、これらの色彩はドラコにも似合っていた。 |
と、いうわけでおしまいです。翻訳者は目一杯、楽しませていただきました。唯一、心残りなのは、原文がストーリーにふさわしく去年の秋から真冬にかけての連載だったのに、こっちの翻訳は思いっきり季節を外して初夏から秋にかけて出してしまったこと。気付いたときには、もう遅かったのです。
改めて、翻訳・掲載を快く許可してくださった作者の LittleMaggie さま、連載中に励ましの言葉をくださった皆さま、そしてなにより、この翻訳バージョンを最後まで読んでくださった皆さまに、心からの感謝をささげます。
それから、「自分だったらそういう訳文にはしない」と、もどかしい思いで見ていた方がいらしたら。広い心で見逃してくれてて、どうもありがとう。これからも広い心でお願いします(おい)。
2003. 10. 20 Nessa Fujii 拝