2003/10/13

ドラコーディア 〜ドラゴンの心〜

Dracordia (by LittleMaggie)

Translation by Nessa F.


第 23 章 告白

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 やっとのことでジニーが帰宅したとき、ナルシッサはすでに就寝しており、モリーとアーサーはまだパーティから戻っていなかった。あとで、たくさん言い訳をしなければならないだろう。しかしジニーは、まずドラコを探した。


 結局ドラコは自分の部屋にいたが、何杯ものお酒を飲んで内側から自分を痛めつけ、弱ってすっかりめちゃくちゃになっていた。ジニーが入っていくと、ドラコは顔を上げた。泣いていたことがわかった。ドラコは、ジニーのために泣いていたのだ。長いあいだ干上がっていた感情を噴出させて、ドラコは泣いていた。


「ぼくは、きみに恋愛感情があるつもりでいたんだ!」
 ドラコは口走った。


 ジニーのお腹のあたりに動揺が広がった。
(彼はわたしのことが好きだったのね。もしかしたら、今でも好きでいてくれているのかも。ああ、どうしよう。彼はわたしのことが好きなんだ)
 それを知った瞬間は、まるで腕にカンフル剤の注射を受けたようだった。ジニーは言った。
「あなたが思ったようなことじゃ、なかったのよ」


「へえ、そうか?」
 ドラコは、手に持ったグラスを見下ろした。中の液体に、彼は自分が映っているのを見ることができた。情けない顔だ。


「ドラコ、聞いて。ハリーのところに行ったとき、わたしが言ったのは……わたしが、あなたにすっかり引き付けられてしまっているってことだったの。わたしの目には、あなたはいい人に見える、わたしは、あなたがいい人だと確信してるって」
 ジニーはささやきかけた。
「わかってくれないの?」


「信じない」
 ドラコは言った。
「今とっさに言いつくろっているだけだ」


「いいえ、違うわ。わたしはハリーに、あなたがむかしとは違う人のように見えるって言ったの。あなたの――わたしたちの――話し合ったことは、秘密は、なんにもばらしていないわ。ただ、心の奥底の部分では、あなたはチャンスを与えられるに値する人だって、そう言ったの」


 傍らに座ると、ドラコはジニーの膝に頭を乗せてきた。本当にすっかり酔っ払ってしまっている。半分空になったスコッチ・ウィスキーのボトルが、ベッドからそう離れていないところの床に転がっているのが見えた。ジニーはドラコの頬の涙をぬぐい、それから彼をぎゅっと抱きしめた。ふたりは互いに隣りあって横たわり、心をこめて抱き合った。


 ドラコの首もとに頭をつけて、ジニーはささやいた。
「愛してる。ほんとに、ほんとに、ごめんなさい」


 ドラコが唇を寄せてきて、ふたりは情熱的に口づけを交わした。ようやく、しっかりと。




 翌朝ドラコが目を覚ますと、くらくらと目が回り、ずきずきと頭が脈打っていた。すっかり飲みすぎたようだ。彼は全力を尽くして、昨晩のできごとを忘れ去ろうとした。何があったのかは、ほとんど記憶になかったが、最終的にジニーにキスしていたということはわかっていた。またしてもやってしまったのだ――愚か者になりさがり、ジニーを振り回した。横になったままで、ドラコは決断を下した。すべての力を振り絞ってでも、ジニーのそばを離れなければ。ハリーに言われたこと――まだ怒っているふりをするには、ちょうどいい口実だ。


 なぜかはよくわからなかったが、ハリーの言葉を思い返しても、怒りの感情は湧いてこなかった。三週間前であれば、怒り狂ったかもしれない。しかし今、ドラコは自分にとってもっと大事なものがあるという事実にとうとう直面していた。ジニー。そして同時に、乗り越えなければならない、最も重要なハードルにも直面しているのだった。ジニーのもとを去らなければならない。それもできるだけ早く。ドラコの論法を、ジニーは絶対に理解しないだろう。ジニーはいつだって、物事をよいほうにしか考えない。それがジニーにとっての真実だ。けれどドラコには、もしもジニーがハリーのようなタイプの相手ではなく、自分のような男を選んでしまったなら、どんなにその人生に破壊的な影響が出るかということが、見通せていた。


 そんなことを認めるのは、苦しかった。ジニーと一緒にいられる時間の終焉を、こんなふうに早めなければならないことで、苦しさはいや増した。それでもこれは、離れ離れになるきっかけとしては、最適だった。昨夜のことを口実に。そうすれば、まだジニーに対して強い愛情があることを悟らせずに、いなくなることができる。恋愛は、相手の人生をめちゃくちゃにしてまで追い求めるものではない。自分が相手にふさわしくないとわかってしまっていれば、自分のせいで相手が不幸な人生を送ることになったと罪悪感に捕らわれはじめるのは、単なる時間の問題だ。そしてもしドラコがこのまま、ここにいつづければ、ふたりが互いへの気持ちを表に出してしまうのも、時間の問題でしかない。


(ぼくは怒っていない。自分でもわかっている、ぼくは怒ってなんかいない)
 ドアに背を向けて、狂おしい気持ちでドラコは掛け布団を頭の上からかぶった。
(でも、やらなくてはいけないんだ)


 ドアのすぐ外で、床のきしむ音がした。今では聞きなれた足音。
「ドラコ?」
 怯えたような、ジニーの声がした。
「ドラコ、あなたのお母様が」
 ジニーはささやくように呼びかけていた。顔が青ざめている。


 瞬時にしてドラコは振り向いた。ジニーが見ているうちに、その顔には驚きがさざなみのように広がっていった。やがてその表情は、不安そうな、目を見開いたものになった。


「母が、どうかしたのか?」
 張り詰めた固い声で、ドラコは尋ねた。


「あの……」
 ジニーは顔をそらし、気遣わしげに唇を指で押さえた。
「夜のうちに、お亡くなりになったの。お気の毒だわ」