ドラコーディア 〜ドラゴンの心〜
Dracordia (by LittleMaggie)
Translation by Nessa F.
第 22 章 婚礼
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パーティも終わりに近づいた頃になって、ハリーとハーマイオニーがドラコとジニーのテーブルにやってきた。ドラコの雰囲気には、どことなく痛々しいものがあった。何かつらいことがあったとでも言うように。ジニーはそこそこ楽しそうにしていたが、こちらもなんとなく、見た目の機嫌のよさに少しそぐわないものが感じられた。
「あら、新婚さんたち!」
そう言ったジニーの声音のなかには、寂しげな色が滲んでいた。
ハーマイオニーは嬉しそうな笑顔で応じたあと、腫れ物に触るようにドラコを見た。
「あの……パーティ、楽しんでくれてる?」
ドラコは固い面持ちでハーマイオニーを見上げた。
「ああ」
穏やかな声で、返答する。
ハーマイオニーは目を見開いた。
「あなた、悲しそうだわ」
「いいんだよ、別に」
ハリーが慌てて口をはさんだ。ドラコが怒りを爆発させるような事態を招く前に、ハーマイオニーを黙らせようとしたのだ。
「ぼくのことは気にするな」
ドラコは苛立ったように応じたが、その後、微笑を浮かべた。
「子供の予定は?」
ハーマイオニーは、にこにこ顔になった。ドラコが礼儀正しい態度を保っていることを、心の底から喜ばしく思ったのだ。
「二人、欲しいの」
「ふーん」
ドラコが期待に応えようと繰り出した愛想よく礼儀正しい質問は、ここで底がつきた。
「ジニーは、本当にいい友達だね」
ふいに、ハリーが口を開いた。
「ふーん?」
ドラコはあいまいに、質問の意味を込めて語尾を上げながらつぶやいた。
「そうだよ」
ハリーはジニーに視線を投げかけた。
ジニーは、喉のところに手をやって切断のジェスチャーをした。「その話はやめて」と伝える意図を込めて。
ハリーはジニーの言わんとすることを理解せず、言葉をつづけた。
「本当に最初の頃から、ジニーはずっときみの世話を焼いてきたんだ」
「どういうことだ?」
不安にかられたように、ドラコは尋ねた。
「彼女はぼくのところに相談に来て、なにもかも話してくれたんだ。すべての問題を」
「なんだって?」
ドラコは青ざめた。
「どうもぼくときみは結局のところ、そんなにかけ離れた存在ではないんじゃないかって、思うようになったよ。ぼくたちは、それぞれふたりとも、人生において父親に相当する人間を失ったと感じてる」
ハリーは思慮深そうに言った。
「ジニーに頼み込まれて、説得されたんだ。きみの給料を上げて、チャンスを与えようって」
「じゃあぼくは……同情で仕事を任されていたのか?」
ドラコの声は段々と大きくなってきていた。激しい怒りではちきれそうになって、彼はジニーに目を向けた。
「じゃあ、ぼくがきみに話したことはぜんぶ、なにもかも――ぼくがきみを信頼しているのをいいことに――きみは聞くなりポッターのところに走っていって、ぶちまけたのか! なんのために? 引き換えに得られるものがあったからだ――ぼくの仕事が安泰なら、きみも失業することはない。そうだな?」
「ドラコ、違うの。待って……」
ジニーは慌てて言った。
ドラコはそれをさえぎった。
「そうすればポッターは、常にぼくを見張っていられる。常にぼくの一歩前で、ぼくを監視して。ぼくが自宅にいるときまで! それで、ぼくに同情しているって?」
ドラコは席を立って、怒り心頭といった視線をハリーに向けた。しかし次にジニーのほうを見たときには、完全な傷心の表情になっていた。
「ぼくは……」
そのまま頭を振り、毅然とした態度で、ドラコは戸口に向かって歩いていった。
ジニーは追いかけようとしたが、ハーマイオニーがそれを引き止めた。ハーマイオニーは、心配そうな顔でハリーを見た。
「ハリー! よかれと思ってしたことって、いつも裏目に出るわね」
ジニーは顎を震わせた。
「どうしよう、彼……彼、カンカンだわ」
「ああ、ジニー、心配しないで。きっとわかってくれるわ」
ハーマイオニーは早口で言った。
「いいえ、駄目よ。彼がいったん恨みに思ったことを許すところなんて、見たことないもの」
ジニーは応えた。
ハリーは狼狽して自分の顔を手でなでまわした。
「まさかこんなことに! ごめん……悪かったよ」
ジニーはどっと泣き出した。
「わたしが彼を傷つけるなんて! 信じられないわ……彼は今まで、一度もわたしを傷つけるようなことはしなかったのに。少なくとも意図的には。なのにわたしは、何も考えずに――ただ……」
しくしくと、ジニーは涙を流した。
ハーマイオニーはジニーを抱きしめた。
「あなたたちの結婚パーティも、めちゃくちゃにしちゃったわね。本当にごめんなさい……」
まだ涙で頬を濡らしたまま、ジニーは泣き声で言った。
「聞いて」
ハーマイオニーは、やさしく言った。
「愛はすべてに打ち勝つのよ」
「彼は、わたしのこと、好きじゃないわ」
ジニーはべそをかいた。
「わたしがすごく馬鹿なの。わたしが、馬鹿みたいに片思いをしてるだけなの。おまけにバルコニーでは、自分でも信じられないくらい、すごくあからさまな態度をとってしまって! 彼があんなに憂鬱そうにしていたのも、無理はないわ」
ハリーはため息をついた。
「ほら、あっちにラベンダーがいるよ。化粧室につれて行ってもらって、さっぱりしてくるといい。ハーマイオニー、ほかの招待客の相手をしに行こう。噂話をやめさせないと」
そこでハリーとハーマイオニーは、役目を果たしに行った。あのふたりはいつだって英雄だ。いつも、物事を修復しようとがんばっている。一方ジニーは、自分とドラコのあいだをつなぐ糸を、ほかでもない自分自身が切断してしまったと感じていた。いつかそれをやるのは、ドラコのほうだろうと思っていたのに。
(第 23 章につづく)
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