2003/10/6

ドラコーディア 〜ドラゴンの心〜

Dracordia (by LittleMaggie)

Translation by Nessa F.


第 22 章 婚礼

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 パーティも終わりに近づいた頃になって、ハリーとハーマイオニーがドラコとジニーのテーブルにやってきた。ドラコの雰囲気には、どことなく痛々しいものがあった。何かつらいことがあったとでも言うように。ジニーはそこそこ楽しそうにしていたが、こちらもなんとなく、見た目の機嫌のよさに少しそぐわないものが感じられた。
「あら、新婚さんたち!」
 そう言ったジニーの声音のなかには、寂しげな色が滲んでいた。


 ハーマイオニーは嬉しそうな笑顔で応じたあと、腫れ物に触るようにドラコを見た。
「あの……パーティ、楽しんでくれてる?」


 ドラコは固い面持ちでハーマイオニーを見上げた。
「ああ」
 穏やかな声で、返答する。


 ハーマイオニーは目を見開いた。
「あなた、悲しそうだわ」


「いいんだよ、別に」
 ハリーが慌てて口をはさんだ。ドラコが怒りを爆発させるような事態を招く前に、ハーマイオニーを黙らせようとしたのだ。


「ぼくのことは気にするな」
 ドラコは苛立ったように応じたが、その後、微笑を浮かべた。
「子供の予定は?」


 ハーマイオニーは、にこにこ顔になった。ドラコが礼儀正しい態度を保っていることを、心の底から喜ばしく思ったのだ。
「二人、欲しいの」


「ふーん」
 ドラコが期待に応えようと繰り出した愛想よく礼儀正しい質問は、ここで底がつきた。


「ジニーは、本当にいい友達だね」
 ふいに、ハリーが口を開いた。


「ふーん?」
 ドラコはあいまいに、質問の意味を込めて語尾を上げながらつぶやいた。


「そうだよ」
 ハリーはジニーに視線を投げかけた。


 ジニーは、喉のところに手をやって切断のジェスチャーをした。「その話はやめて」と伝える意図を込めて。


 ハリーはジニーの言わんとすることを理解せず、言葉をつづけた。
「本当に最初の頃から、ジニーはずっときみの世話を焼いてきたんだ」


「どういうことだ?」
 不安にかられたように、ドラコは尋ねた。


「彼女はぼくのところに相談に来て、なにもかも話してくれたんだ。すべての問題を」


「なんだって?」
 ドラコは青ざめた。


「どうもぼくときみは結局のところ、そんなにかけ離れた存在ではないんじゃないかって、思うようになったよ。ぼくたちは、それぞれふたりとも、人生において父親に相当する人間を失ったと感じてる」
 ハリーは思慮深そうに言った。
「ジニーに頼み込まれて、説得されたんだ。きみの給料を上げて、チャンスを与えようって」


「じゃあぼくは……同情で仕事を任されていたのか?」
 ドラコの声は段々と大きくなってきていた。激しい怒りではちきれそうになって、彼はジニーに目を向けた。
「じゃあ、ぼくがきみに話したことはぜんぶ、なにもかも――ぼくがきみを信頼しているのをいいことに――きみは聞くなりポッターのところに走っていって、ぶちまけたのか! なんのために? 引き換えに得られるものがあったからだ――ぼくの仕事が安泰なら、きみも失業することはない。そうだな?」


「ドラコ、違うの。待って……」
 ジニーは慌てて言った。


 ドラコはそれをさえぎった。
「そうすればポッターは、常にぼくを見張っていられる。常にぼくの一歩前で、ぼくを監視して。ぼくが自宅にいるときまで! それで、ぼくに同情しているって?」
 ドラコは席を立って、怒り心頭といった視線をハリーに向けた。しかし次にジニーのほうを見たときには、完全な傷心の表情になっていた。
「ぼくは……」
 そのまま頭を振り、毅然とした態度で、ドラコは戸口に向かって歩いていった。


 ジニーは追いかけようとしたが、ハーマイオニーがそれを引き止めた。ハーマイオニーは、心配そうな顔でハリーを見た。
「ハリー! よかれと思ってしたことって、いつも裏目に出るわね」


 ジニーは顎を震わせた。
「どうしよう、彼……彼、カンカンだわ」


「ああ、ジニー、心配しないで。きっとわかってくれるわ」
 ハーマイオニーは早口で言った。


「いいえ、駄目よ。彼がいったん恨みに思ったことを許すところなんて、見たことないもの」
 ジニーは応えた。


 ハリーは狼狽して自分の顔を手でなでまわした。
「まさかこんなことに! ごめん……悪かったよ」


 ジニーはどっと泣き出した。
「わたしが彼を傷つけるなんて! 信じられないわ……彼は今まで、一度もわたしを傷つけるようなことはしなかったのに。少なくとも意図的には。なのにわたしは、何も考えずに――ただ……」
 しくしくと、ジニーは涙を流した。


 ハーマイオニーはジニーを抱きしめた。


「あなたたちの結婚パーティも、めちゃくちゃにしちゃったわね。本当にごめんなさい……」
 まだ涙で頬を濡らしたまま、ジニーは泣き声で言った。


「聞いて」
 ハーマイオニーは、やさしく言った。
「愛はすべてに打ち勝つのよ」


「彼は、わたしのこと、好きじゃないわ」
 ジニーはべそをかいた。
「わたしがすごく馬鹿なの。わたしが、馬鹿みたいに片思いをしてるだけなの。おまけにバルコニーでは、自分でも信じられないくらい、すごくあからさまな態度をとってしまって! 彼があんなに憂鬱そうにしていたのも、無理はないわ」


 ハリーはため息をついた。
「ほら、あっちにラベンダーがいるよ。化粧室につれて行ってもらって、さっぱりしてくるといい。ハーマイオニー、ほかの招待客の相手をしに行こう。噂話をやめさせないと」


 そこでハリーとハーマイオニーは、役目を果たしに行った。あのふたりはいつだって英雄だ。いつも、物事を修復しようとがんばっている。一方ジニーは、自分とドラコのあいだをつなぐ糸を、ほかでもない自分自身が切断してしまったと感じていた。いつかそれをやるのは、ドラコのほうだろうと思っていたのに。