2003/10/6

ドラコーディア 〜ドラゴンの心〜

Dracordia (by LittleMaggie)

Translation by Nessa F.


第 22 章 婚礼

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 ジニーは興奮の極致にあった。不安でたまらなかったが、とてもきれいだとラベンダーには繰り返し保証してもらっていた。しかしドラコと一緒に会場に足を踏み入れることによる気持ちの高ぶりは、自分でも理解できないほどだった。並んで順繰りに握手を交わすのをすっぽかすために三十分を遅刻し、人目を集めることは必至の入場だ。ジニーは自分と腕を組んでいるドラコのほうを向いて顔を見た。触れ合っているところが、じんじんする。ドラコは隙のない服装だったし、ジニーは古いモスリンのドレスをいじってかすかな光沢のあるブルーに変え、それに合わせた透明感のある水色のスカーフで首もとから肩を覆っていた。


「取って食われるぞ」
 ドラコは、なかば本気の声で言った。
「見ていろ。中に入ったとたん、あいつらはぼくを裸にひんむいて杭に縛り付けて、視線で殴りかかってくるから」


「もう、やめてよ!」
 ジニーは首を振って、くすくす笑った。


 重い扉を押し開け、ふたりは中に入った。ある意味、ドラコの予想は正しかった。会場はおそろしいほどの沈黙に包まれた。それから――すべてのテーブルに、波がうねるようにささやき声が広がっていった。ジニーはおぼつかなげに微笑んだ。
「ドラコ、空いてるテーブルを探しておいて。わたしはハリーとハーマイオニーのところに行って、お祝いを言ってくるから」


 ドラコはうなずいて、口の動きだけで「ありがとう」と言った。


 ジニーもうなずき返してから、ハリーとハーマイオニーのテーブルに行った。凛々しいカップルだ。特にハーマイオニーが。ハーマイオニーは本当は美人だったが、めったにそれを見せびらかそうとはしなかった。彼女の美しさは、言うなれば高価な宝石――特別な機会があるときだけ、その輝きを表に出すのだ。それ以外のときは、黒いフェルト地のケースに収められている。洗練されていて格調高いが、威圧的なところはない。こんなふうに美しい婚礼の女王、華麗な花嫁として装ったハーマイオニーのそばに立つと、ジニーは自分が醜いアヒルの子になったような気がした。


「ジニー!」
 ハーマイオニーが立ち上がって、ジニーを固く抱きしめてきた。
「ああ、もう今日なのね、今日なのね!」
 耳もとでささやく。


「そうね」
 ジニーはくすっと笑ってハリーのほうを向いた。
「あなたは素晴らしい人を奥さんにするのよ、ハリー」


「わかってないとでも思う?」
 ハリーは笑って、やはりジニーを抱きしめた。
「来てくれてよかった」
 それから、耳もとでささやいた。
「ドラコがどうかした?」


「お騒がせしちゃってたらごめんなさい」
 ジニーは言った。
「わたしが、招待状をなくしてしまって。招待状がないと、レストランに入れてもらえないでしょ? だから探さないといけなかったの」


「あなたのパートナーがドラコだったってことには驚いたわ」
 ハーマイオニーは認めた。
「悪く思わないでね。でも最後に会ったときの彼は、おっかないかんじの、ふさぎこんだ陰気男だったから」


「彼、ほんとにかなり変わったのよ。わたしたち、今ではすごく仲良しなの」


「驚きだね」
 ハリーは頭を振った。
「じゃあ、楽しんでいって。パーティーの最初のところを見逃して残念だったね」


「仕方ないわ」
 ジニーは応えて、ふたりに封筒を手渡した。
「ささやかなお祝いよ」
 ジニーは、ドラコから支払われたお金の半分を祝い金に充てていた。すでにハリーたちの口座に振り込んであったが、封筒にはその旨を記した銀行からの正式なカードが入っている。


「本当にありがとう」
 ハリーとハーマイオニーは優しい声でささやき、テーブルの上で高さを増しつつあったお祝いの山にその封筒を追加した。


(結婚式って、すごくたくさんのお金が行ったり来たりするのね)
 と、ジニーは思った。
「じゃあわたし、パートナーのところに行くわね。わたしたちのテーブルには、もうちょっとしてから来て。今は彼、なんだか恥ずかしがってるみたいだから」


「わかったわ」
 ハーマイオニーは笑った。
「恥ずかしがってるドラコ? 想像つく?」


 ハリーは肩をすくめた。
「彼を改心させて大人しくさせておける人間がいるとしたら、ジニーだけだよ」


 その頃ジニーは、会場のうしろのほうにいるドラコを発見していた。彼が座っているテーブルには、ほかの招待客は誰もいなかった。怯えた顔をしている。しかめ面の裁判官と不満げな陪審員の前に立たされた囚人のようだ。しかしジニーを見ると、その表情は明るくなった。


 フルコースのディナーとデザートを食べ終わると、とうとうダンスの時間になった。ジニーは、ドラコが誘ってくれないかと自分の席で祈る必要さえなかった。音楽がはじまったとたん、ドラコは立ち上がって尋ねてきたのだ。
「踊るか?」


 控えめに言っても、ジニーはびっくりしてしまった。
「わたし、あんまり上手くないの」


「少なくとも、ぼくは上手いよ。きみの分はカバーする」
 ドラコは手を差し出した。ドラコには、本当の意味でふたりが一緒に楽しいときを過ごせるのは、今夜が最後かもしれないということがわかっていた。彼の新年の誓いは、完全にジニーのもとを離れてしまうこと。今から、そのつもりで心の準備をしておく必要があった。


 ダンスフロアに出ると、すでにほかのカップルが数組、踊りはじめていた。最初のうち、周囲の目はみんな主役である新郎新婦に注がれていたが、やがてドラコとジニーのほうに引き寄せられていくことが多くなった。本人が言ったとおり、ドラコはダンスが上手だった。


 曲の合間に、ドラコはジニーに向かってささやいた。
「マルフォイ家の家訓だ――"男性はダンスに秀でていなければならない"」


 返事の代わりに、ジニーはにっこり笑った。