ドラコーディア 〜ドラゴンの心〜Dracordia (by LittleMaggie)Translation by Nessa F.
第 20 章 新しいスーツ(page 2/2)
目が覚めると、ジニーの気分は大幅に浮上していた。目に見えない手によって眠っているあいだ、くすぐられていたとでもいうように、まるで小さな女の子みたいな開けっぴろげな笑顔で起き上がる。枕の下に手を入れると、またしてもそこには手紙が差し込まれていた。 おはよう、ジニー 昨日より元気になっているといいのだけれど。今日は早めに出勤することにした。最近、ポッターはやたらとぼくに新しい仕事を持ってくる。どうして突然、そんなにぼくを忙しくさせておこうと思うようになったのかは不明だが、収入が増えるので文句は言えない。それはさておき、新しい服を買いに行こうと言っていた件だが、今日ではどうだろうか。 ドラコ ジニーはぽうっとした笑みを浮かべてため息をつき、もう一度手紙を読み返した。何か潜在的なメッセージが隠されていないかと、行間に目を凝らすようにして。そして突然、自分のしていることに気付いてハッとした。まったく、馬鹿みたいだ。ジニーはいつのまにか、ドラコに対して不毛な恋心を抱きはじめてしまっていたのだった。彼がこの気持ちに応えてくれることなど、絶対にあり得ないとわかっているのに。わかっていながら、それでもジニーは心を奪われてしまっていたのだ。学校にいた頃、ハリーに幼い片思いをしていたのと同じように。 新しく買ったスーツを着たら、ドラコは自分が結婚披露パーティでのパートナーとして、うってつけだということに、気付いてくれないだろうか。チャペルには、嫌なら行かなくてもかまわない。でもパーティには一緒に行ってほしかった。もしかしたら何か、彼を説得する方法 「何、にこにこしてるんだよ?」 「なんでもない」 「休みを取ったんだ」 「あら、いいわね」 「ラベンダーが、おまえは最近、付き合いが悪いと言ってたぞ」 「そんなことないわ……」 「手紙の返事もなかなか来ないし、遊びに来いと招いてもくれないって。ラベンダーはおまえの親友なんだろう、ジニー」 「それは単に、あの仕事をやっていたからよ。家に戻ってきたんだから、今後は絶対に前と同じような生活になるわ」 「どうだろうか、ジニー……」 「ロン、そんなふうに勘ぐるのはやめて。わたしが兄さんに隠し事をするなんて、ほんとに思ってるの? これまでずっと、兄さんには何もかも打ち明けてきたじゃない」 「意地悪でこういうことを言ってるんじゃないんだよ」 「ほんとに仲良くやっていくつもりなら、うるさく言わないでよ」 「ぼくはただ、自分の妹のことが心配なだけだよ。おまえはぼくらのなかでたった一人の女の子、しかも一番年下なんだ。おまえに何かあったら 「もう、ロンったら……」 「ぼくはちょっと不安になってるんだと思う。それだけだよ」 「そういう気遣いは、ラベンダーのほうにしなさいよ。彼女、目移りしやすいのよ。言ってる意味わかる?」 「えーとその、ラベンダーは、ただ楽しく時間をつぶせる相手っていうだけだよ、どっちみち」 「ミセス・マルフォイよりも寝坊しちゃったなんて、信じられない!」 「とりあえず、目が覚めたら自分がミセス・マルフォイだったなんてことは、ないようにしてくれよ」 ドラコは、いつもより一時間遅く帰ってきた。スーツを買いに出かけたときには、外はもう暗くなっていた。それほど持ち合わせがないとドラコが言ったので、ふたりは "魔術師魔女古着店" をめざした。ドラコはそこに行くことについて、あまり嬉しそうではなく、結局コートの襟を立てて唇から頬を覆い隠し、さらには帽子のつばを引き下ろして目元を隠した。一見、ギャングのようだ。 ジニーはラックに掛かったスーツを物色し、黄褐色の一着を引っ張り出した。胸ポケットから金色と白のポケットチーフが覗いている。袖口には素敵な金糸の刺繍が入っていた。このきれいな刺繍がなければ、みすぼらしいかんじになってしまっただろう。 「すごくフォーマルに見える」 「そうよね、ハリーのスーツと張り合ってしまったら困るわ」 「なんだって?」 「いえ、なんでもないの。ごめんね」 「きみ、ぼくを結婚式につれていく気でいるんだな。そうだろう?」 ジニーはドラコを見上げた。堂々とした態度でいたかったが、実際には不安のあまり身体が震えた。 「ぼくは絶対に、ポッターの結婚式になんか出席しないぞ!」 「ハリーとは握手する必要もないのよ。ちょっと遅めに入れば、お祝いの大騒ぎはすっかり終わってるわ」 「招待だってされてない!」 「でもわたしはされてるもの。招待状には、パートナー同伴でって書いてあったわ。つまり、わたしと一緒に行く人は、誰であっても正式に招待されてるのと同じってことよ」 「絶対に嫌だ……」 「ねえ、駄目?」 「きみは注目されるのが好きなんだと思ってた」 「嫌だったとは言わないわ。でも 「おい、モデル料を払わなかったか?」 「わたしの家族とうまくやっていけるように努力するって、あなた約束したわよね? わたしが独りで行くことになったら、みんなは怒るんじゃないかしら。きっと、あなたが紳士らしくわたしに申し出てくれると期待してるわ」 「どうして? ぼくたちは、かろうじて友達という程度じゃないか」 ジニーの心臓が、痛々しく波打った。 「どうだろうな」 「もう、冗談でしょ! 葬儀屋さんの服みたいじゃないの!」 「そうかい。そんなにセンスに自信があるなら、きみが選べよ」 「じゃあ、これ」 「悪くはないね」 「なら、これにしましょ」 「できれば、それは勘弁してくれ」 |