ドラコーディア 〜ドラゴンの心〜Dracordia (by LittleMaggie)Translation by Nessa F.
第 19 章 隔たり(page 2/2)
すっきりと爽快な気分で、ドラコは目を覚ました。楽しい夢を見たのは久しぶりだ。今でもありありと思い出せる――十歳の誕生日の記憶。立ち上がって伸びをしたあと、枕の下から封筒が覗いているのが目に入った。引き出して開封する。 ドラコへ 手紙とお金をありがとう。友達としては受け取れないと思ったけど、仕事としてやったことなので、いただくべきだと考えなおしました。アパートが見つかったら、手付金を払うお手伝いをさせてね。そもそもわたし、友達としては優秀かどうか自信がありません。髪が赤すぎたりしない? ジニー ドラコはにやりと笑って手紙をブックケースに収め、手早く着替えた。昨晩は、ジニーがルシウスに向かって物語を話すのを、何時間も一緒に聞いていた。興味深い内容だった。シリウス・ブラックが本当は無実だったにもかかわらず犯罪者として扱われることになった顛末。ただしドラコは、誰か別の人間が主人公なのだと自分をごまかしながらでないと聞いていられなかった。シリウスが死んだ瞬間を見ているドラコとしては、話の内容をそのまま受け止めることができなかった。自分が物語の悪役になったようで、いい気持ちはしなかった。 台所に行くと、ジニーとモリー・ウィーズリーが食事の支度でてんてこ舞いしていた。室内の温度がかなり上がっていたので、シャツの一番上のボタンははずしたままでドラコは中に入った。ジニーがじゅうじゅうと音を立てている卵とベーコンから目を上げて、微笑みかけてきた。 「おはよう」 「まだみたいよ。夜のうちに何度か目を覚まして、眠り薬を余分に飲んだらしいの」 ドラコは笑みを浮かべた。 モリーは目をぱちくりとさせて、不安げにジニーのほうを見た。 ドラコが見ていないときを狙って、ジニーは母親にささやきかけた。 「どうかしらねえ」 「やめてよ」 「フォークは右? 左?」 「左よ」 ふたりきりになると、ドラコはジニーに向かって言った。 ジニーは笑った。 「ちょうどいい」 「太りすぎかも」 「きみは太ってない」 ナプキンの束をテーブルに置いたジニーの手が、ドラコの手をかすめた。ジニーは、触れ合ったことによってドラコがちょっとはリラックスするのではないかと思ったが、反対に彼はびくっとしてすばやく手を引っ込めた。スキンシップが好きではないのだ。ジニーには理解できないことだった。ちょっと手を触れたり目を合わせたりすることすら、ドラコにとっては馴れ馴れしすぎるのだ。こんな単純な手の動きに対してまで、どうしてそんなに冷ややかなのだろう。 「ねえ、あなた立派なスーツは何着もあるけど、みんな灰色とか白っぽいのばかりでしょ」 「ぼくの服のどこが悪い?」 「だって、その服じゃ……」 「やる気?」 なんだかかわいい。ジニーは微笑んで、うなずいた。 「いまさら服装でポッターの目を引いてどうするんだよ? ぼくが近くにいると、あいつは瞬き一つしやしない。警戒してる。ぼくのことを危険人物だとでも思っているんだろう」 「ほんとにそうだったりして……? オフィスの備品を密輸してるとか、ペーパークリップを強奪してるとか……」 「は、非常に面白いね」 ロンはテーブルに着いて、即座に自分の皿に食べ物をよそいはじめた。両親が席に着くことすら待たずに自分だけ食べはじめるなんて、ドラコには信じがたいことだ。しかしアーサーもまったく気にしているようすはなかった。ロンは耳がぷるぷる震えるほどの勢いでガツガツと食べ物をかきこんでいた。 ドラコはため息をつき、自分だけは品位を失わないようにしようと思いながら着席した。フォークとナイフを手にとり、各種の食べ物を最低限の量だけ自分の皿に盛った。半分ほど食事が済んだあたりからは急ぎはじめ、食べ終わると自発的に皿を流し台に運ぶ。タイを結びながら、ウィーズリー家の人々のほうを向いて、ドラコはそっけなく言った。 モリーがフォークを置いた。 「時間は止まってくれませんから」 「サンドウィッチを持って行きなさい!」 「いえ、けっこうです。いつも昼は食べないので」 「それじゃあ、そんなに痩せているのも当たり前だわね」 「じゃあ、あの……ありがとうございます」 「ずいぶん、よそよそしいわねえ?」 ロンは呆れ顔になった。 「ロン、おねがい」 「あいつに、何を期待すればいいんだよ? チャンスをやるのはいいさ、でもなんのチャンスだ?」 「兄さんが思うほど、ひどい人じゃないわ。過去の印象に捕らわれてるだけよ」 「過去の印象? 過去の仕打ちと言ってほしいね。あいつのせいで、どんなに嫌な思いをしていたことか! ハーマイオニーとハリーのことだって、いつも汚いもののように扱ってさ!」 「ロン、今はもう、むかしの彼とは違うわ」 「おまえは、あいつに言い寄られて舞い上がっているだけだ。魅力的で "ハンサム" だからな」 「そんな馬鹿な」 「言わなくたってわかるさ、そうだろ?」 「お母さん……」 モリーとアーサーは顔を見合わせた。それから、モリーが言った。 「そのあとはもう、何?」 「もう二度と彼に会うことはないと思っていなさい。会うことは許さない」 |