ドラコーディア 〜ドラゴンの心〜Dracordia (by LittleMaggie)Translation by Nessa F.
第 18 章 感謝(page 2/2)
レストランには、ほとんど客が入っていなかった。壁際で二組の集団が身を寄せ合っているだけだ。コートを着込み、フードを目深にかぶったドラコは、おそろしくデスイーターそっくりだった。影になって見えない顔の部分で、両の目だけがギラギラしていた。ジニーはテーブルを避けてブースに入り、席に着いた。ここなら、ソファのようにクッションのきいた背の高い仕切りで、周囲からは見えなくなっている。 ドラコはフードを脱ぎ、背中に垂れ下がるよう完全に下ろした。ウェイトレスが近づいてきた。驚いたことに、そのウェイトレスはパンジーだった。パンジーは目をぱちくりさせて叫んだ。 不運なドラコは、肩をすくめた。 パンジーはジニーに目を向けた。 「父が病気なんだ」 握手をしながら、パンジーはその幅広く白い顔を、口には出さない嫌悪で歪めた。そしてジニーが目を逸らしているときに、腰に手を擦りつけてぬぐった。ドラコは、自分が初めてジニーに手を触れたときのことを思い出した。あのとき同じことをしたにもかかわらず、今のドラコはパンジーに対して、そこはかとない怒りを感じた。
「マルフォイ家の付添婦になって長いの?」 「一ヶ月半です」 「あなた、いったいどうしてたの?」 ドラコは落ち着かないようすで咳払いをした。 「あなたって、いつもそうだったわよね」 ドラコの煮え切らない表情を見て、ジニーが口を開いた。 「お飲み物は?」 「ぼくはヘネシーを……」 「はいはい」 「いいえ、これだけです」 「別にどうってことないさ」 「ほんとに? でも、たしか付き合ってたでしょう?」 ドラコは肩をすくめた。 ジニーはため息をついた。 「粉々になって安らかに眠れと伝えてくれ」 「セミフォーマルな本式のイベントにするんですって。すごく盛大なパーティになるわ。ハリーはご両親からの遺産があるから、充分に大盤ぶるまいできるの。大きい家に引っ越すつもりでもう探してるのよ。今のアパートは引き払うつもりだって」 肩をすくめてドラコは応じた。 「いいえ、別に」 パンジーは返事をせず、そのままスウィング・ドアを抜けてキッチンへ戻っていった。 「彼女、妬いてるわ」 ドラコは首を振った。 「もう一度やり直せたらとは思ってないの?」 ドラコがテーブルの下でジニーの手をつかんだので、ジニーは息を呑んだ。ドラコの指が、ジニーの人差し指と中指の交差を解いた。それから、ドラコは言った。 ドラコは、たとえば蝿を追い払ったりといった、なんの変哲もない行動をとったときと変わりのない表情だった。何かを気にしていたり、深く考えているようなようすはまったくなかった。その無表情さゆえに、彼はいっそう、ロマンス小説の表紙に描かれた人物を思い起こさせた。 ドラコが食事をはじめたのを見て、ジニーも食べはじめた。 「カードにね。あ、結婚式の招待状のことよ……」 「こう書いてあったんだろ。『各自、自分用の棺桶持参のこと』」 ジニーは笑った。 「じゃあ欠席しろよ」 ジニーは黙ってうなずき、話題を変えることにした。どうやら、ドラコのワンパターンな思考のせいで、あまり実のある会話はできそうにない。 ドラコはうなずいて、空になった皿を重ねるのを手伝った。 ジニーは笑って小銭入れを出し、料金とチップを数えてテーブルの上に並べた。意図的にゆっくりと。ドラコが機会を捕らえて、自分が払うと言い出すのではないかと期待しながら。しかし、まったくそんなそぶりはなかった。ドラコが先に立って外に出て行くうしろで、陽気な輝きを帯びた黄色っぽい銅貨は、レストランの照明を反射して寂しげに光っていた。ジニーは自分でも意外なほど、内心でがっかりしていた。 その夜とても遅くなってから、ジニーは寝巻きに着替えてベッドに入った。寝室用ランプに手を伸ばしてスイッチを切り、枕の下に手を入れて抱え込むと、そこにあった封筒に手が触れて、かさかさと音がした。 封筒を引っ張り出してみると、それはジニー宛ての手紙だった。ゆっくりと開封して、ジニーはそれを読んだ。 優秀な付添婦、それに優秀なモデルをやってくれて感謝している。絵は昨晩、完成させた。絵の具が剥がれないようガラス板で覆ってから、シートをかけて保護してある。同封したものは大した金額ではないが、スカーフもう一枚分くらいにはなることを願っている。 ドラコ 封筒の中に手を入れると、金袋が出てきた。ドラコが銀行に入れると言っていたお金、マルフォイ家の借金に対処するには足りないとゴブリンが言っていたあのお金がぜんぶそのまま入っていた。一週間分以上の給料だ。では、結局マルフォイ家はジニーに支払いをする気があったのだ。 ジニーは、目に熱い涙が込み上げてくるのを感じつつ、何か罠でも仕掛けられているのではないかと、なかば覚悟しながら手紙を裏返した。そして、気付いた 胃が落ち着きをなくして踊りまわっているような気がした。お金を数えてみた。多すぎる。こんなの受け取れない。一ヶ月半にわたる付添婦の仕事の代価としては最低限にも達していないが、マルフォイ家にとっては、出せる金額を超えているはずだ。 ドラコはこの支払いについて、母親には相談さえしていないのだ。 そのとき、ジニーは気付いた――欄外にまだ走り書きがある。おなかのあたりが気ぜわしさで沈み込むように感じながら、ジニーは何が書いてあるのか読もうと灯りを点けた。 P.S. それから、友人でいてくれて、ありがとう。 |