ドラコーディア 〜ドラゴンの心〜Dracordia (by LittleMaggie)Translation by Nessa F.
第 18 章 感謝(page 1/2)
ジニーはドラコの部屋の入り口で立ち止まって、ドアをノックした。ドラコはベッドの上に座り、こちらに背中を見せて窓のほうを向いていたが、ノックの音を聞くと、書いていた手紙を乱暴な手つきで封筒に入れ、振り返った。彼はその封筒を引き出しに押し込み、ばたんと閉めた。 「どうかした?」 「いや、なんでもない」 「なんでもないなら、出かける支度をして。今日は近所を案内してあげる」 「今日はあんまり出かける気分じゃないんだが」 「正確に言えば、わたしと出かける気分じゃないってことじゃないの?」 ドラコは黙り込んだ。 「それとも、こうかしら? この近所を歩きまわる気分じゃない。なぜなら、この辺にはたまたま、お屋敷が全然ないから」 「ほっといてくれよ」 「じゃあ、あなたも何かやってよ。母が、あなたくらい背丈があれば廊下の天井の蜘蛛の巣を払う手伝いができるだろうって言ってたわ」 「椅子に乗ればいいじゃないか」 「あなた身体の具合、悪かったっけ?」 ドラコは立ち上がり、ジニーのうしろに続いて廊下に出た。ジニーは羽箒をドラコに渡して、天井を指差した。 ドラコは棒の先にきちんとそろえてくくりつけられた、羽根の束を見下ろした。脳裏にぼんやりと、マルフォイ家のメイドがこういうものを使って自分の部屋のたんすを掃除していたことが思い起こされた。それが今、ドラコ自身の手に中にあるのだ。まるで風変わりな剣か何かを振りかざしているようだ。ドラコは羽箒を掲げて天井を掃き、蜘蛛の巣を絡めた。蜘蛛の糸が羽箒にまとわりついた。埃にまみれた糸は、もう粘り気を失っている。 廊下の向こう側まで目をやって誰もいないことを確かめると、ドラコは杖を取り出して除去の呪文を唱えた。あっという間に、廊下の蜘蛛の巣はすべて消失した。彼は廊下の床に腰を下ろして背中を壁につけ、これ以上の仕事を課せられないうちに釈放されることを願いつつ待った。 「ドラコ?」 ドラコはハッと目を開いた。廊下の向こう側の端に、ラベンダーが立っていた。さりげなく、ロンの腕に自分の腕を絡めている。 ロンはため息をついた。 ドラコは立ち上がってうなずいた。 「手にハタキ持って?」 ドラコは自分の手にある掃除用具を、今初めて気づいたというように見下ろして、そのまま床に落とした。 ロンはそわそわとしはじめていた。 ラベンダーはうなずいてから、疑わしげにドラコに視線を投げかけ、バスルームに入っていった。ロンは水の音で会話が聞こえなくなるまで待ってから、口を開いた。 「じゃあ、なんでここに連れてくる?」 ロンは首を振った。 ドラコは自分の顔がほてるのを感じた。 「行けよ!」 ドラコは一番近くの部屋に姿を隠し、ドアを閉じた。身体の向きを変えると、そこには裸の背中をこちらに向けたジニーがいた。薄手の白いスリップが腰から脚を覆っているだけだ。ドラコは息を殺して、大慌てで周囲を見回し、ジニーがこちらを向く前にどこか隠れるところがないかと探した。結局、クローゼットに逃げ込んでじっと待つ。 ジニーは掃除をしやすい服装に着替えていた。長い髪は束ねて頭のてっぺんに結い上げ、ちょうど素朴な茶色のセーターを頭からかぶっているところだ。ジニーの体型は、それほど悪くはなかった。腰と胸が張り出しているうえに、ゆったりした服を着ていることが多いので太り気味でバランスの悪い印象があったが、今こうしていると、決して太っては見えなかった。 ドラコが目をそらしているうちに、ジニーはスカートを履きはじめたが、手を止めて考え込み、その後クローゼットに近づいてきた。別のスカートを出すつもりだ! その瞬間、ドラコはつくづく、いつものシルバーグレイのスーツや緑色のタイを身につけていなくてよかったと思った。ジニーの衣装はみんな陽気で明るい色合いなので、まるでバラ園の雑草のように目立ってしまったに違いない。今着ている白いシャツとカーキ色のズボンは、壁の色やウェディング・ドレスにうまく溶け込んでいた。ドラコは、ウェディング・ドレスをじっと見た。襟の裏のタグに、"モリー・オブレナン" という名前が記してあった。モリー・ウィーズリーが結婚式で着ていたドレスだ。きっと、ジニーにも受け継がれるのだろう。 ドレスの袖の滑らかな絹地の上に、ドラコは手を滑らせた。 ジニーが洋服をかきわけると、数着のワンピースが押し寄せてきて、ドラコを壁際に追い込んだ。ジニーは黒いズボンを手に取って立ち去った。ドラコはほっと息を吐いた。 ジニーは室内のものを少し片付けてから、外に出て行った。ドラコはドアが閉じられるまで待ってから、クローゼットを出た。服が皺くちゃになっていた。もう一度クローゼットの中を振り返ってみる。ロン、ジニー、アーサー、モリーの洋服が、今はすべてこの一つのクローゼットにまとめられていた。ベッドを三台も入れたため、室内はほとんど床が見えないほど手狭になっていた。 ドラコは廊下に出て、隣の部屋から出てきたようなふりをした。ロンとラベンダーはもういなかったが、ジニーはそこに立って、わざとらしい笑顔で羽箒を見下ろしていた。 ドラコは肩をすくめた。 「おなか空いたでしょ」 ドラコはビラに目を通した。 ジニーは噴き出した。 ドラコは不機嫌な顔になった。 「じゃあ息の無駄遣いはやめれば」 ようやく、ドラコは首を縦に振った。 |