ドラコーディア 〜ドラゴンの心〜Dracordia (by LittleMaggie)Translation by Nessa F.
第 15 章 信頼(page 2/2)
その後もしばらくあちこちを見てまわり、バスケットを食料でいっぱいにしてから、グリンゴッツに向かうことになった。ドラコが、週決めで受け取っている給料を口座に振り込みたいと言ったのだ。通りの角を曲がるなり、一瞬の静けさにつづいて、背後から一斉につぶやき声や怒涛のようなささやき声が聞こえはじめた。ドラコは「ほら言ったとおりだろう」というふうにジニーに目配せし、ふたりはグリンゴッツへの道を進んだ。 銀行のガラス扉を勢いよく開けて中に入ると、小鬼(ゴブリン)が近付いてきた。 「なんだって?」 「先日、回収部門の担当者をそちらにうかがわせたのですが、応対したのが家政婦で……」 ドラコは首を振った。 「では、こちらへおいでください」 「お宅の口座からは、すでに著しく超過引出しがなされているのですよ」 「大丈夫だ。金庫を見せてくれ」 ゴブリンはドラコが渡したささやかな金袋を手に持って、金庫の金属製のドアを引き開けた。 「お宅のお金のほとんどは、固定資産税に流れていっているんです、マルフォイさん」 ジニーはドラコのほうに目を向けた。静かな表情からは、まったく何の感情も見てとれなかった。背筋をまっすぐに伸ばし顎を上げて、その場に立ち尽くしたまま無関心なそぶりを保つべく痛いほど目に力を込めている長身の姿には、どこか殉教者を思わせるものがあった。 ゴブリンはうなずいた。そして来た道を戻って地上へ出るようにカートの準備をしながら、こっそりとつぶやいた。 帰り道は徒歩で、もの思いにふけりながらのものとなった。せっかくの田園風景なのに、これまでのところ、ふたりのあいだにあるのは苦々しい沈黙と、地面を絨毯のように覆う赤や黄色の落ち葉を踏みしめることで生じている、かさかさと耳に響く足音ばかりだった。 いきなり、ドラコがジニーのほうを向いた。襲われるのではとジニーが勘違いして硬直するほどの、唐突な動作だった。 「きっと、なんとかなるわ」 「いいや、ならないね」 そのとき突然、ある考えがジニーの頭に湧き起こった。ドラコがどれほど気持ちを張りつめさせ、極度に憤っているかを見てとったジニーは、何かを――その気持ちを和らげることなら、何でも――したいと思ってしまったのだ。 「とんでもない……」 「問題ないわ……」 「ぼくにとっては、問題だよ!」 ジニーは黙り込んで、周辺の落ち葉を蹴り散らしながら歩いた。ところどころで目に入るまだ緑色の葉っぱは、もう残り少なくなっていた。十二月が近付いてきており、もういつ雪が降ってもおかしくない。例年なら、今くらいの晩秋であればすでに初雪が降っているはずなのだ。 ドラコはため息をついた。 「そこまでって?」 ドラコは足元を見下ろし、地面の上で入り乱れている、さまざまな色彩を凝視した。 「それだけじゃないわ。あなた、すごく抑鬱されてしまってるもの――休息が必要よ」 ドラコは沈黙していた。 ふたりはそのまま歩きつづけた。ジニーの長い黄色のスカーフが、蛇使いによって目覚めさせられた蛇のように、ふたりの周囲で舞い踊り、強風に煽られてはためき、くるくると向きを変えていた。 「考えてみる」 「信じて……」 「でも母は気に入らないだろうな」 「わたしを信じてちょうだい」 ドラコはジニーを見た。 ふたたび夜になった。ジニーはルシウスに食事を摂らせ終えて、お茶を飲もうとドラコのいる台所に来ていた。ドラコはクラッブとゴイルへの手紙を書いているところだった。ジニーはまだ、ラベンダーへの返信をしたためる時間さえ取れずにいた。もっとも、マルフォイ家の秘密を暴露せずに書くことのできる話題も思いつかなかったのだが。 ドラコが顔を上げてジニーを見た。 「I、n、e、f、f、a、b、l、e ……」 感謝のしるしにうなずいて、ドラコはその単語を書き綴った。 そのとき二階から連続して、何かを壊したり叩きつけたりしているような激しい音がした。ドラコは聞こえないふりをしていたが、ジニーは立ち上がった。 「さあ」 「ミスター・マルフォイじゃないわ。だって……だってベッドから動けないもの」 「気にするな」 「何だったのかしら?」 ドラコはがばっとジニーの手をつかみ、椅子に引き戻した。 「何するの?」 「しばらくのあいだ、おとなしく座っていてくれ」 ドシン、ドシンという音がまた聞こえてきた。今度は、非常に大きな音だった。ドラコは恥ずかしさのあまり段々と赤くなってきていた。突然、窓が引き開けられる音がしはじめた。ジニーは目を丸くして、ドラコをじっと見た。 ドラコは首を振った。 「教えて」 ドラコはため息をついた。 「馬鹿みたいに窓を開けつづけて、毎日のようにわたしに濡れ衣を着せてきた無礼者の正体を、ぜひ知りたいわ」 ドラコは両手を組み合わせた。 |