ドラコーディア 〜ドラゴンの心〜Dracordia (by LittleMaggie)Translation by Nessa F.
第 13 章 解決策(page 2/2)
面白い手紙だった。あまり長文ではない。興の乗るままにたっぷり数ページにわたって書きつづけるのがラベンダーの常だから、これは異例のことだ。ジニーはもう一度手紙を広げて、便箋から立ちのぼるきつい香水の匂いを意識しながら、再読した。 ハーイ、ジニーちゃん! マルフォイは自分で考えたりしないわ。両親があいつの代わりに考えてやるのよ。とにかく、今はあまりたくさん書かずにおきます。どうやらマルフォイ屋敷ではなかなか珍しい体験をしてるみたいね。本当にあなたが自分で書いてるように、それほど大変じゃないならいいんだけど。嘘は駄目よ! こんなはずじゃなかったってことが出てきたら、わたしに知らせて。すぐにそっちに行って、助け出してあげるから。 とにかく、今は詳しくは書きませんが、これだけ言っておくわ。わたし、あなたをびっくりさせるつもりなの。 ラベンダーより どのようにびっくりさせてくれるつもりなのかは、見当もつかなかった。しかしラベンダーがいつも、とんでもないことを思いつきがちなのは事実だ。もし今回もそんなことだったら。ジニーは、面倒なことにならないよう祈るしかなかった。 部屋から出て、マルフォイ邸の中央廊下に敷き詰められた深紅の絨毯に足を乗せるなり、ひんやりとした隙間風を感じた。ジニーは即座に廊下を突き進んで、その出どころである部屋に駆け込んだ。それがナルシッサの私室であることに気付いたのは、入ってしまってからだった。 ここに来たのは初めてだった。近付くことすら禁じられていたのだ。ジニーは思わず後じさりをしたが、それでも室内のようすは目に入った。ナルシッサはベッドに横たわって、しきりに寝返りを打っていた。おそらく、冷気のせいだろう。 巨大な天蓋ベッドの左側にある窓が大きく開いており、カーテンが荒々しくはためいて、ナルシッサの顔から数インチしか離れていないシーツの上をかすめていた。部屋全体は、まるで古い映画から抜け出してきたようだった。壁には繊細なレースのカーテンや真珠で飾られた鏡がかかっており、色の薄い木の床の上には、羊の毛皮の敷物があった。そこらじゅうのものに、金色の縁取りや真珠と象牙の装飾が施されていた。室内は徹底して中間色で統一されていた。冷たい灰色を帯びたものから、ほとんどわからないほどの黄色がかったものまで、あらゆるものがさまざまな色合いの白だ。 「まあ」 ジニーは音を立てないよう爪先立ちで、窓を閉めに行った。もしも今この瞬間にナルシッサが目を覚まして、ジニーが開ききった窓の枠に手をかけているところを見たら、目がまわるほどのスピードでこの家から追い出されてしまうに決まっている。ありがたいことに、幸運はジニーに味方した。ジニーが部屋の外に出てドアを閉めても、ナルシッサはまだまどろみつづけていた。 ジニーは廊下を進んで階段を下り、そのまま台所に向かった。ドラコは夕食を取りおわって、暖炉の部屋に行っていた。暖かい炎のまわりをうろついて、自分を外側から暖めようとしているのだろう。内側には冷たさがたくさん詰まっているくせに。 ジニーは台所に足を踏み入れて、息を呑んだ。目の前でラベンダーが、心もとなさそうに周囲を見まわしていたのだ。 「ああ、ジニーったらうるさいんだから」 ジニーは、うらやましさに胸がうずくのを自覚した。ほかの者たちにはうまく習得できた "姿あらわし" を、ジニーは一度も成功させたことがなかったのだ。とにかくどうしてもできなかったので、魔法薬学と変身術で特別にがんばることによって成績を埋め合わせるしかなかった。 「ラベンダー、聞いて。今すぐ "姿あらわし" で家に戻ってちょうだい。でないとすごく怒るわよ」 「あなたは、誰に対しても怒ったりできない子よ」 「もちろん、会えて嬉しいわ」 「よしよし」 「ドラコには会わせられないわ。ナルシッサに告げ口されたら、わたしはクビよ!」 「そんなにピリピリしなくていいじゃない」 ジニーは頭を振った。 「わかったわよ」 「どの兄?」 「ロンよ、決まってるじゃない!」 「素敵よ」 「あなたには何もかもお見通しね」 「もう結婚を考えてるの?」 「そんな古い話? とっくに終わってるわ」 「単純に、そんな暇がないんだと思うわ」 「そんな暇がないんだと思うわ」 「ラベンダー、あなたとロンのことはすごいと思うんだけど、ほんとにそろそろ……」 ラベンダーは下唇を突き出した。 「わたし……」 突然、別の声が会話に加わった。 ふたりのほうへ歩いてくるドラコを見て、ジニーは胃袋が膝まで急降下したような気分になった。思わず「どこから出てきたの?」と叫びそうになったのを抑え、ラベンダーをちらりと不安げに見てから、口を開いた。 「痛っ。気をつけてよ」 (ラベンダーって時々、とってもわざとらしくなれるのね) 「まあな」 「わたしに重要な知らせがあったの。本当に緊急の用事で」 ラベンダーはドラコから目を離さなかった。まるで、彼がどんなに美形だったか今まで忘れていたというふうだった。ドラコが自分の近況を尋ねたと思ったふりをして、ラベンダーは言った。 「そうなのか?」 「ラベンダー、そろそろ時間じゃないかしら」 「もう、わかったわよ!」 「よくあんなのを我慢できるな?」 「よく知ってみれば、そんなに悪いひとじゃないのよ……待って! あなた、わたしに怒ってないの?」 「あれと友達をやらないといけないというだけで、罰としては充分だろう」 「えーと……おやすみなさい」 ドラコはのんびりとした歩き方で階段を上り、自分の部屋に入っていった。ジニーは不審に思わずにはいられなかった。今日のドラコは、異様に物分りがいい。まさか、隠しておいたアルコール類を発見したのでは? でもそんなことはあり得ない。ずっと一階にいたのだから。 (もしかしたら、ちょっとは明るくなってきてるのかも。むかしみたいに、ふざけたことを言うようになったし) 問題に立ち向かう覚悟が定まれば、ドラコは自分から助けを求めることができるだろう。必要なのは、たったそれだけのことなのだ――自分が問題を抱えているという事実を直視すること。その時点でもう、差し延べられた手に向かって、足を踏み出したことになるのだ。好むと好まざるとにかかわらず。 (ナルシッサにもドラコにも絶対に知られてはいけないのは、彼らを助けてくれるようにわたしからハリー・ポッターにお願いをしたっていうこと。まだ時期尚早だわ。特にドラコにとっては。きっとカンカンに怒るわね) 前向きな考え方が、すべてのことに対する解決策。最初にそう、ジニーはドラコに話した。ジニーは、内側から心が晴れやかになっていくのを感じた。 |