2003/8/2

ドラコーディア 〜ドラゴンの心〜

Dracordia (by LittleMaggie)

Translation by Nessa F.



第 13 章 解決策

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 ドラコはようやく、肖像画に色を塗りはじめていた。ジニーの髪の濃淡の混ざり具合に驚嘆したドラコは、なぜウィーズリー家のほかの者たちとはそんなに色合いが違うのだろうかと不思議がった。ジニーの髪はほかの家族のものと比べて豊かでふさふさとしており、金色や茶色がたくさん混じっていると彼は説明した。しかしドラコは、ロマンティックななまざしを向けてきたことは一度もなく、顔を突き合わせていても決して照れを見せたことはなかった。その視線は、ただの使用人を見る、無関心なものに過ぎなかった。


「何を笑っているんだ?」
 絵の具を下に置きながら、ドラコは尋ねた。

「だってあなた、ものすごく真面目な顔してるんだもの」
 ジニーは言った。
「お葬式みたい」


「そんなことを言うならきみの顔にひげを描いてやるぞ」
 パレットの上にしぼり出された黒い絵の具に筆を近づけて、ドラコはつぶやいた。


「脅迫するつもりなら、胎児みたいにまるまったポーズをとるわよ」


 ドラコは目を上げて、顔に落ちかかった一房の金髪をかきあげた。
「突然、自分に注意を向けたがってどうしたんだい、"かまってちゃん"?」


「わたし "かまってちゃん" じゃないわ」
 ジニーは笑った。


 ふたりは延々とふざけあい、親しみをこめて言い合いをするようになっていた。まるで仲のいい友人同士のようにからかいの言葉を投げかけあったかと思えば、やがてどちらかが疲れてしまい、ふたりとも黙り込んで、ドラコが作業に没頭するようすをジニーがじっと観察するのが常だった。


 時には、もう少し崇高な話題に踏み込むこともあったが、ドラコが素早く話をそらすか、あるいはジニーがいくら質問をしても答えが得られないことにうんざりしてしまうのだった。それでも数日経った頃に、ジニーはどうしても気になっていた、ある質問を切り出した。


「わたしたちって、友達?」


「そうだったらいいのにって?」
 ドラコは薄笑いを浮かべた。


「もう、ミスター・マルフォイ。ちゃんと真剣に答えて」


「ミス・ウィーズリー。きみ……」
 ドラコは赤い絵の具をこねくりまわした。
「……たまには髪をとかさないと。ここからでも、もつれているのがわかるぞ」


「マルフォイ!」


「画家は、モデルと親密になることはできない」
 ドラコは考え込みながら言った。
「後ろめたさのあまり、本当は身の毛のよだつようなブスでも、目のさめるような美少女に描いてしまうかもしれないからな」


「お願い、ほんとのこと言って」
 ジニーは答えを求めた。


「ぼくたちふたりが、友人同士になれるとは思えない」
 ドラコは顔を上げた。
「この答えで納得したか?」


「どうして、なれないの?」


「そうだな、友人をめざして実習中の段階まではいけるかもしれない」
 ドラコは頭を傾けた。その瞳には、ゆらゆらと動く光があった。
「でも本当の友人にはなれない。ぼくたちは、違いすぎる」


「どんなふうに?」
 ジニーは食い下がった。


「セクハラはやめてくれ、ウィーズリー」
 ドラコはふざけた。
「うわ、見ろよ。間違って鼻の穴を三つ描いてしまったじゃないか」


「消せばいいでしょ」
 ジニーは取りあわずに言いつのった。
「わたしたち、どう違うの? 教えて」


「信念」
 ドラコは刺々しく言った。
「ぼくはデスイーターだ。腕に闇の印が焼きつけられている。一方きみ――きみは編物をして花を育てて、他人の手伝いをする」


「ヴォルデモートはもういないわ、ドラコ。それはノーカウント」


「じゃあ、経済的な違いだ」


「どんな経済的な違いよ? 今じゃもしかしたら、あなたの家よりわたしの家のほうがまだマシかもしれないじゃない。気を悪くしないでほしいんだけど」


「ぼくは暗くて憂鬱。きみは善良で友好的で元気な女の子。悪役と主人公の関係だ。対等な間柄にはならない。さて、スリザリンの名にかけてじっと座っていてくれないと、鼻の穴を四つにするぞ」
 ドラコは無表情のままだった。どこまでも冷静で落ち着いていた。


「じゃあ、どうして憂鬱なの?」


「きみはぼくのセラピストじゃない」


「ドラコ、ちょっとは本音で喋ってくれてもいいんじゃない? わたし、相談に乗るのが得意なのよ」


「ぼくには何もない。仕事はつまらないし基本的にいつも独りぼっちだし、両親がいるこの土地に縛り付けられている。これで満足か?」
 ドラコは苛立たしげに言った。


「あら、じゃあわたしと友達になればいいのよ。そうしたらわたしがいるから、独りじゃないわ」


「どうしてこれ以上、友達が必要なんだよ? きみにはもう、たくさんいるじゃないか!」
 そう言ったドラコは大きく息を吸うと、平静でどうでもよさそうな雰囲気を取り戻した。顔からはすべての感情が抜け落ちてゆき、どことなく高慢な薄笑いだけが残った。


「あなたに、もっと友達が必要だと思うの」
 ジニーは赤い巻き毛の房を顔からはらった。


「こら、そのままにしておいてくれ。影のつき方が変わってしまう」
 ドラコが文句を言った。


 ジニーはすぐさま髪の毛を、前と大体同じところに来ることを願いつつ顔のほうに引き戻した。
「わたしたち、違いすぎるなんてこと、全然ないわ。たぶん本当は、わたしたちを隔てているのは、育ってきた文化の違いだけなんだと思う」


「隔てているのは、ぼくの母じゃないだろうか」


「それもね」


「それから、ハリー・ポッターが大好きな一家に関わりができてしまうという事実もだろう」


「それは言えてるわね」


「ぼくは哀れみも援助もいらない」
 ドラコは言った。
「さあ、動くなよ。今、三つ目の鼻の穴を塗りつぶそうとしてるんだ」


「わたし、今日はもうポーズとるのやめにしたいんだけど」
 ジニーは静かに言った。


「まさか、怒ってるんじゃないよな?」
 ドラコは絵筆を置いて目を上げ、ジニーの顔を見た。


「いいえ、全然」
 ジニーは微笑んだ。
「ただ、ラベンダーから今朝、手紙をもらったから、読んで返事を書きたいの」


「女って」
 ドラコは立ち上がって、周囲を片付けはじめた。
「わかった、もう行っていいよ」
 目を上げると、すでにジニーはいなくなっていた。