ドラコーディア 〜ドラゴンの心〜Dracordia (by LittleMaggie)Translation by Nessa F.
第 12 章 最愛の母(page 1/2)
ルシウスは、ワシの鉤爪のように固く内側に曲げられた震える指をあげて、何かを指し示そうとするようにジニーのほうへ伸ばした。ジニーは自分の背後を振り返ったが別に何もなかったので、すぐにまたルシウスの世話に戻った。食事を摂らせる必要があったのだが、これは大変な仕事だった。何もかもを唇のあいだから押し込まねばならず、ルシウスは口を開いておくことについてはとても非協力的だった。 指先がルシウスの手をかすめると、信じられないほど冷たくなっていた。ジニーは杖を取り出して、部屋を暖める魔法をかけてから揺り椅子に座り、半分ほど空になったオートミールのボウルをしっかりと持ち直した。ルシウスの静かな呼吸音が聞こえる。まぶたは閉じていたが、その下で眼球がうごめいていた。 「何かお話をしましょうか?」 物語の導入部が半分ほど過ぎたところで、室内にほかの人間がいる気配を感じた。ドラコがそっと入ってきて、熱心に耳を傾けはじめたのだった。話が終わるのを待っているのだが、邪魔はしたくないというふうに。ジニーは気にしないことにして物語を先に進め、やがて少女がどのようにして、恐ろしい部屋を開いてしまったかという部分にたどりついた。 ここで、ドラコが口を挟んだ。 ジニーはきまり悪い思いでうなずいた。 ドラコは心もちがっかりしているように見えた。 「どうして、闇の帝王のことをそんなに偉いと思うの? いったん頂点に上りつめたら、彼はあなたたちを裏切ったかもしれないって考えたりしない?」 「目指していたのは、マグルたちを我々のための労働者とすること。奴隷と言ってもいい。穢れた血は排除だ。そして、魔法族をふたたび我々純血の者たちで栄えさせるべく努めていく」 ジニーは震え上がった。 返答するドラコは冷えきった操り人形のように見えた。 「彼の追従者はみんな、入れ物にすぎなかったのよ。闇の帝王は頂点を極めたら、みんなを裏切ったでしょうね。だって、ほかのひとたちに権力を分け与えたりすると思う?」 「あの御方はぼくたちを裏切ったりなんかしない」 「そうするだけの邪悪さは持ち合わせていたわ」 その夜の食事はようやく、ある意味では一家そろってのものとなった。ナルシッサは階下に降りてきており、ドラコも仕事から早めに戻ってきていたのでナルシッサやジニーと一緒に食べることができた。ジニーは、ドラコとナルシッサを小さなテーブルに着かせてから、自分は隅のほうにちょこんと座り、なるべく音を立てないように心掛けた。ナルシッサは疲れて苛々しているようだったし、ドラコは今日も職場で厄介な一日を過ごしたらしかった。 「あなたが用意したキャンバスを見たわよ、ドラコ」 少しの沈黙のあと、ナルシッサはさらに言った。 ドラコは屈辱感に耳を火照らせたが、いつものように落ち着いた声音を保つ才能を発揮した。 「家族の肖像をもう一枚描いてもよかったのに。そのうちいなくなるとわかっている、よそ者の絵を描くなんて。ルシウスがよくなり次第、出て行ってもらう子なのよ」 「父上はもう、よくはならないよ」 「馬鹿げたことを」 「いいえ奥様、わたしは……」 「きっと、あなたね」 「母上……」 ナルシッサは大きな音をたててテーブルの上に手をついた。 「すぐに片付けます!」 「いいえ!」 「母上、おねがいだ。完全に論点がずれてる……」 「お座りなさい!」 「わたしはただ、お役に立ちたくて」 「役に立ちたいなら、一番いいのは、余計な口出しをせずに、呼ばれるまで自分の部屋にこもっていることよ」 ジニーは顔に手をやって泣きながら席を立ち、目からあふれ出る熱い涙を乱暴にぬぐった。そしてすぐに立ち去ろうときびすを返した。 「母上――ジニー。聞いてくれ。今はふたりとも頭に血がのぼっているだけで……」 ドラコは完全に板挟みになっていた。 「それから、もうひとつ」 「はい、なんでしょう?」 「わたくしの息子に手を出さないで。このあばずれ女」 |