ドラコーディア 〜ドラゴンの心〜Dracordia (by LittleMaggie)Translation by Nessa F.
第 11 章 素描(page 3/3)
ドラコはキャンバス・ボードの上にジニーの姿をスケッチしていたが、ジニーはどうもじっと座っていることができなかった。しばらく描いていなかったので、キャンバスを伸ばし、古くなって固まった絵の具を出してきて準備を整えるまでには、それなりの時間がかかったのだとドラコは説明していた。絵の具は、ドラコが本来使っていたものではなく、質の落ちる予備のものだ。いいほうの絵の具セットは絵の先生と一緒に埋められてしまっていた。 ドラコは決然とした表情を浮かべていた。水中の魚を見つめているワシのように。自分がどんなに大きな獲物を手にすることができるのかを心得て、今にも急降下しようとしている。先を尖らせた木炭を取り出し、ジニーの腰、胸、頭のある場所にそれぞれ円を描いて、ドラコは作業を開始した。 暖炉からのパチパチいう音しかしない室内の沈黙が、重くのしかかってきていた。とうとうドラコは口を開いた。 悪気はまったくないのだということはわかっていたので、ジニーは下層民という単語については聞き流すことにした。それでも、"穢れた血" をはじめとする、かつてのマルフォイ家よりも社会的階級の低い者たちへのドラコの狭量さには、我慢のならないものがあった。ジニーは答えた。 「ぼくの父は、他人に迎合しないことを高く評価し……」 「あなたのお父様は……」 ドラコは懐疑的だった。彼は三つの円をつなぐ太い線を走り描きし、ジニーの背骨の曲線を作り出した。それからもう我慢できなくなった。丸みを帯びた力強い肩を描き、髪の毛を描き入れはじめる。この部分が一番好きだった。 「描くのはずいぶん久しぶりなんだ……」 「誰かほかのひとを描いたほうがよかったんじゃない? あなたのお母様とか」 「こら、首を動かすなよ! 髪のところの光の当たり方が変わってしまった」 「お母様とか?」 「いや」 ジニーはその返事に黙って考え込み、それから尋ねた。 ドラコは目を上げてジニーを見た。 それは考えたこともなかった問いだった。ジニーはいつのまにか、そのつもりでいたのだった。途端に、ジニーの頬は真っ赤になった。 「ホグワーツにいた頃、ぼくが信用したのは、完全にぼくに忠実でいる意志のある人間だけだった。決して、ぼくの目の前からいなくならない人間」 「クラッブとゴイルね」 「あいつらはひたすらぼくを喜ばせることに身をささげていた。だからぼくは、あいつらを信用した。それでも、あいつらでさえ、ぼくのすべてを知っていたわけじゃない」 「そもそも、"穢れた血" とか言って嫌がるのはどうして?」 「ぼくたちの同族とは言えないからだ。真の魔法使いや魔女じゃない」 「違うわ! そうじゃない。本当の理由を教えてあげる。親は子を育てるとき、自分たちの言うことが正しいとその子が信じるようにしつけるの。今までずっと、あなたのご両親は、ある種の人たちが悪だと信じるように、あなたを育ててきた。あなたはご両親の偏見と敵意を、そのまま受け継いだ」 ドラコは肩をすくめ、それからジニーの着ているものの細部を描きはじめた。 ジニーはうなずいて、心の中で考えた。 |