2003/7/23

ドラコーディア 〜ドラゴンの心〜

Dracordia (by LittleMaggie)

Translation by Nessa F.



第 11 章 素描

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 ドラコはジニーの真向かいに座っていたが、意識は自分だけの世界に飛んでしまっているようだった。皿の上でフォークを前後に動かして細長く切ったベーコンをもっと美味しそうに見えるように配列しなおそうとしていたが、どうやっても油のしたたる肉の薄切り以外ではあり得ない。
「朝から肉気のものを食べるのは好きじゃないんだ」
 と、ドラコは言った。


「わたしはオートミールに飽きちゃったの」
 返答しながら、ジニーは自分もベーコンにフォークを突き刺して、ぱくりと食べた。
「さあさあ。あなた、ほんとにどんどん痩せてきてるんだから」


 ドラコはじろりとジニーを見た。


 ジニーはさらにつづけた。
「あなたの食生活じゃ、全然栄養が足りてないわ。わかってるでしょう。朝はオートミールだけ、夕食も質素。それからそのあとに、お酒でカロリーだけはいくらか取って」
 こう言って、ドラコの反応を待つ。


「何をほのめかしているんだ? ぼくがアルコール中毒だとでも?」


「そんなこと言ってないわ。ただ、もっとちゃんと食べなくちゃ駄目だって言いたいだけ。ね、絶対、そのほうが気分も見た目もよくなるわよ」
 ジニーはやさしく微笑みかけた。


「で、きみはその筋の権威ってわけなんだね?」
 ドラコはせせら笑いをして言った。ジニーには、ドラコの言う意味がピンと来た――ジニーは正直、棒切れみたいに細い体型とは言えない。でもちょっとふっくらしているだけだ。ほとんどは赤ちゃん時代から残っている脂肪だけれど、ジニーには似つかわしい。それがあるおかげでジニーはなんとなく母性に満ちた、周囲の心を開かせる外見になっていた。


「ここしばらく、お酒の量が多いわ」


「犯罪じゃないだろ」


「自分自身に対する犯罪よ。肝臓に毒を盛っているってことだもの」


「おいおい、やめてくれよ」
 ドラコは無意識に酒類を収めた戸棚のほうに視線をさっと投げかけたが、すぐに我に返って自分を抑えた。
「ぼくは絶対にアルコール依存症なんかじゃない」


「さあて、本当に?」


「ああ、本当さ」


 ふたりはそこに座ったまま、テーブル越しににらみ合った。ドラコは灰色の目をいたずらっぽくきらめかせ、眉をぴくぴく動かした。ジニーが吹き出して顔を伏せ、自分のランチョンマットを見下ろしたので、にらめっこはおしまいになった。
「どうしてあなたって、いつもいつもそんなに頑固なの? たとえクッキーの入れ物に手をかけてるところを捕まえたとしても、あなたならきっと『ぼくじゃない』って言うわね」


「そういう性格なんだ」


「いいえ、あなたはそれ以外の対応を知らないだけ」
 ジニーはため息をついた。
「ほんとに生まれて以来ずっと、マルフォイ家の価値観のあれやこれやを頭の上から叩きつけられてきたのね。違う?」


「頭の上から叩きつけられたって?」
 ドラコは声を上げた。
「ぼくの子供時代はかなり快適だったさ。余計な……」


「ミスター・マルフォイ」
 ジニーは言った。
「あなたは、どんな感情ももてあましているじゃない。子供の頃は、学校で赤ちゃんみたいにふるまってたし」


 ドラコは険しいまなざしでジニーのほうを見た。


「なんでもかんでも、やたらと大げさに騒ぎ立てて。バックビークの件にしても、それから……」


「おい、あれはショックだったんだぞ」
 ドラコは薄く笑った。


「その馬鹿みたいなにやにや笑いはやめて。冗談で言ってるんじゃないんだから」
 ジニーは苛立って両手の上に頭を伏せた。
「あなたってほんとに……ほんとに、傲慢でたちが悪いんだもの……」
 大きく息を吸って、ジニーはつづけた。
「とにかくわたしが言いたかったのは、大人になってしまった今、あなたは逃避の手段としてお酒を飲むようになってるってこと。以前みたいにつまらない癇癪を起こせなくなった代わりに、悲しいことをお酒で紛らわせてしまってるの」


「悲しいこと? どんな悲しいことだよ? ウィーズリーのような下層の者とは違うんだ……」


「やめてよ!」
 ジニーは叫んだ。
「聞いて。アルコール中毒じゃないというなら、証明してみせなさい!」


「なんだい? 手彫りの石盤でもほしいのか?『ドラコは酒飲みに非ず』って?」


 ジニーは笑いを噛み殺した。よし、うまくいったわ。
「ここにあるお酒をぜんぶ、わたしの部屋に持っていって隠すの。ことあるごとに台所の戸棚に駆けよるのをやめても自分を保っていられたら、信じてあげる」


 ドラコは胸の前で腕を組み、うさんくさげに目を細くした。
「それがきみの診断方法ですか、先生?」


「これは挑戦よ」


「いいだろう、乗るよ。マルフォイ対ウィーズリーだ」
 ドラコは吐き捨てるように言った。
「見ていろ、きみが間違っていたと証明してやる」
 立ち上がって、鞄を引っつかむ。


「待って」
 ジニーは呼び止めた。
「あの……お仕事がんばってね」


「ああ、そうだな」
 ドラコはまだ競争心の余韻を残したまま、つぶやいた。そして出て行く直前に、付け加えた。
「きみもな」


 ひとりになったジニーは、にんまりと笑った。
「こういうの、逆心理っていうのよ」
 窓枠のところで羽づくろいをしていたマルフォイ家のフクロウに向かって、ささやく。
「なんと言っても最高なのは、わたしの思いどおりにことが進んでいるのに、彼はちっとも気付いてないってところ」
 それを考えると、素晴らしい気分だった。