ドラコーディア 〜ドラゴンの心〜Dracordia (by LittleMaggie)Translation by Nessa F.
第 6 章 修復のとき(page 1/4)
窓がガタガタ震えるほどの金切り声が耳をつんざいたのは、午前四時半のことだった。ジニーがマルフォイ屋敷に来て四日目。今のところ、ナルシッサと顔を合わせることは、ほどんどなかったし、ドラコはまるでからっぽの容器が歩いているようで、ろくに挨拶もせずすれ違っていくばかりだった。ベッドから這いおりると、厚手のウールの寝巻きを着ていたにもかかわらず、ひどい寒さで自分が真っ裸であるように感じられた。ジニーは髪をうしろできゅっとまとめてポニーテールにした。前の晩、痙攣したルシウスの下に挟まれた髪の毛を引っ張り出そうとして、大変な思いをしたからだ。身体の向きを変えると、戸口のところに、黒っぽい人影が立ちふさがっているのが目に入った。 とっさに、ジニーは悲鳴をあげそうになった。が、すぐにそのすらりとした姿がナルシッサのものであることに気付いた。吐き出す息とともに、ナルシッサは言った。 「わかってます」 「ふん」 「すみません」 ジニーもつられて部屋の中を見回し、ぎょっとして目を見張った。すべての窓が大きく開いており、カーテンが激しくはためいていたのだ。ルシウスはと言えば、身体を引きつらせて咳き込んでいた。 ルシウスはまだ泣き妖怪(バンシー)のように悲鳴をあげつづけていた。眼球が裏返り、外からは黄ばんだ白目だけしか見えなくなっている。 「ポッターは――生かしておく価値がない」 ジニーは身震いしながら、ルシウスを別の寝巻きに着替えさせ、ベッドの傍らに座って語りかけた。自分の声が、自らとルシウス、両者のすりへった神経を落ち着かせるように思われたのだ。まず、コーンウォール地方のある欲深なピクシーについての面白おかしい物語。それから、自らの秘められた障害をものともせず、子供たちに知識を伝えつづけた、ある心やさしい狼人間の物語。話し終えてからさらに思い返して、ジニーは付け加えた。 「本当に? みんな?」 ジニーはハッと我に返った。まじまじとルシウスを見たが、彼はやはりじっと沈黙したままだった。振り返ると、ドラコがそこにいた。ジニーの愛読書に出てくるロマンティックな登場人物みたいに、戸口にたたずんでいる。その立ち姿や外見もまた、あの手の小説を連想させた。パジャマの前がはだけて表情豊かな鎖骨が覗き、屈折した瞳が暗がりのなかで輝いていて、ほとんど陳腐なくらいだ。もちろんその一方で改めて考えてみると、青白くて痩せ気味のドラコはロマンス小説のヒーローとしては失格なのだけれど。性格がすごく破綻しているし。その破綻具合は主として、不機嫌だったり陰鬱だったりする顔つきにあらわれている。また、近付いてきたドラコを見ると、今の彼はそれだけでなく、おそろしく困惑しているようだった。 「部屋の空気を入れ替えた?」 「いいえ。すごく不思議なの。ミスター・マルフォイのお世話をしにきたら、窓が全部、大きく開けてあって」 「本当にきみじゃないんだな?」 「わたしが何をしたっていうの?」 「前にもこんなことはあったか?」 「わたしの知るかぎりでは、ないわ」 「なるほど……」 「あなたはどうなの?」 ドラコは素早く首を振った。早すぎるほどだった。 ジニーはふたたびルシウスを見た。本当にこのひとは、みなが思っているように動けないのだろうか。そもそも、病んでいること自体でさえ、偽りなのかもしれない。しかしまた反面、それはきわめてあり得なさそうなことでもあった。大変な苦しみを味わいつづけているふりをしても、得になることは何もない。マルフォイ一族に、内外からの憐憫と恥辱をもたらすだけだ。 話題はドラコの誘導で、唐突に変えられた。 「だといいけど」 「さっきのルーピンの話――ぼくも一応あのときは、なんだか痛ましく思ったんだ」 ジニーはため息をついた。 ドラコは答えず、ただ窓のそばに行った。曇り空から突然降り始めた霧雨に目を向けるその姿が、青みを帯びた静謐な光に照らし出された。 ジニーはさらに言葉を続けた。 ドラコは欄干に手を置いて、目の前の窓ガラスに額を付けた。乏しい光のなかで、その頬をひとすじの涙がつたうのが見えた。ジニーはただひとこと、「おやすみなさい」としか言わなかった。ドラコはうなずくことで応じた。自己嫌悪と自己憐憫にとらわれているようすを、ジニーに見られたくなかった。ジニーにも、ほかの誰にも、知られる必要のない感情だった。 |