2003/6/18

ドラコーディア 〜ドラゴンの心〜

Dracordia (by LittleMaggie)

Translation by Nessa F.


第 5 章 罪悪感

(page 4/4)

「なあに?」
 ハーマイオニーは、わけがわからないまま、突如としてそれまでの浮かれた気分がしぼむのを感じた。
「何かあったの?」


「もう本当にどうしたらいいのか決めかねてるんだ。ここしばらく、ドラコがらみのトラブルが多くて」


 ハーマイオニーは、返事をする前に、大きく息を吸った。
「ハリー、気にしちゃ駄目よ。どうせ、あのひとはちょっとおかしいのよ。みんなわかってるわ」


「ジニーになんらかの形で悪い影響が出なければいいんだけど」
 ハリーは心配そうな表情になった。
「時々、ジニーにあの仕事をまわしたことを、取り消せたらと思うよ。自分の仕事が忙しくて、ちゃんと考えてなかったんだ。延々と書類を処理して、提出して、処理して、提出して……。最初から、ジニーを行かせるべきじゃなかった」


「わたしの知ってるなかで、ジニーほど周囲を明るい気持ちにしてくれる子はいないわ」
 ハーマイオニーはなだめるように言った。
「もしマルフォイ家に光を入れることができるひとがいるとすれば、それはジニーよ」


「そうかもしれないけど」
 ハリーは、サラダにフォークを入れてかきまわした。
「なんだかマルフォイは、ぼくが一生、罪の意識にさいなまれながら過ごせばいいと思っているような気がするんだ!」


「ハリー、あなたはやるべきことをやっただけなのよ。あなたがいなければ――もしかして今でもまだ、ヴォルデモートが力をふるっていたかもしれないのよ」


「わかってる。でも……」


「聞いて」
 ハーマイオニーは、ハリーの両手を自分の手でやさしく包み込んだ。
「マルフォイはいろんな意味で、ちょっとノイローゼ気味なんじゃないかと思うの。彼のことはよくは知らないけど、きっと心のうちではいろんな気持ちがうずまいているはずよ。感情をぶつけられたからと言って、それが自分だけに向けられたものだとは考えないほうがいいわ」


「あいつは、嫌になるほど横柄なんだ」
 ハリーは不機嫌な声で言った。


「きみの言うように受け止めるのは、難しいよ。あいつの言うことを聞いてると、まるでぼくは……ぼくは自分が悪魔か何かみたいに思えてきて」
 ハリーは見るからに意気消沈していた。
「あのときのことを、思い出さずにはいられない……」


「お願い、そのことはもう考えないで」
 ハーマイオニーは警告するように言った。そして、おどけたようにハリーの指に唇をあてた。
「今はふたりの時間を楽しみましょう? ね?」


 ハリーはうなずいた。ふたりはさっさと夕食の残りをたいらげて、ソファに移動した。ハリーは唇でハーマイオニーの首筋をたどって、鎖骨のところに軽くキスをした。
「ああ、ハーマイオニー……」
 彼女の目を見上げて、ハリーはささやいた。


 ハーマイオニーは微笑んで頬をすりよせ、ハリーの耳元にささやきかえした。
「あと二ヶ月ね、ハリー」


 ハリーには、彼女が自分の指を見下ろした気配が感じられた。婚約指輪をはめた指だ。派手な指輪ではなかった。シンプルな金のリングに、ささやかな石がついただけ。値段ではなく、センチメンタルな意味に価値を置いた石だ。それはもともとは、ふたりで訪れた浜辺で拾ったものだった。波に洗われて表面がなめらかになった、淡いブルーの石。凍てつくようなイングランドの海辺での短い休暇はロマンティックだった。そしてある晩、暖炉の前で一緒に過ごしていたとき、ふたりはその石を磨きに出して加工し、婚約指輪に使うことを決めたのだった。


 ハーマイオニーが自分のほうに手を向けてきたので、ハリーは薄い青灰色の石が輝くのをじっと見た。その輝きは、ドラコと話し合いをしたときに、その目に宿っていた敵意を思い出させた。
「何か、ぼくにできることがあればいいのに」
 ハリーは、狂おしくささやいた。


 ハーマイオニーはきょとんとして、一瞬、自分の恋人が何を言っているのかまったく理解できていないようだった。それから、声を上げた。
「またそのくだらない話? もう、ハリーったら、正気とは思えないわ!」
 甘えるように喉を鳴らして、ハーマイオニーはハリーの首もとに顔をうずめた。
「キスして……」


 ハリーはぼんやりと彼女の髪をなで、さらに言った。
「あいつがぼくを睨みつけた、あの表情を見せたかったよ。視線でひとが殺せるなら……」


「ハリー」
 ハーマイオニーの声音が、険しくなった。


 ハリーは顔を上げて、彼女の鼻先にキスをした。
「なんだい?」


「そんなに気になるんだったら、魔法省で会議を召集するとか、ドラコに直接言うとか、すればいいじゃない。わたしじゃわからないわ」
 ハーマイオニーはいたずらっぽく微笑んだ。
「今晩はずっとふたりきりなのよ? 今日は、仕事を家に持ち込むのはやめておきましょ」