ドラコーディア 〜ドラゴンの心〜Dracordia (by LittleMaggie)Translation by Nessa F.
第 4 章 炉辺(page 3/3)
ジニーはそこはかとなく動揺した気持ちのまま、引き返して台所に戻った。転んだときにドラコが手を貸してくれなくても、それほど驚きはしなかった。そんなことをするには、彼は高慢すぎる。けれども、席をすすめるくらいはしてくれるのではと考えていた。お金持ちというのは、そういう――座れと命じて、お酒の相手をさせたりする――ものだとずっと思っていたのだ。 台所にたどりつくと、ジニーは手早く二人分のココアを作った。それから、そこを出るついでに食器棚の上にあった古くてかび臭い茶色の毛布を取って、さっきの部屋に戻った。室内に入ると、ジニーはココアの入ったカップをドラコに差し出した。 「温かいものを飲んだほうがいいわよ」 ドラコはぼんやりとうなずき、ワインを置いてココアを手に取った。 「そ……それと、毛布を持ってきたの」 ドラコは毛布を受け取ったが、広げて身体を覆うことはせずリクライニング・チェアの上の自分の傍らに置き、高さを利用して肘掛がわりに使った。ジニーはその右隣のカウチに腰を下ろして、尋ねた。 彼女はドラコの顔を懸命に見つめて、表情を――何らかの反応のしるしを――見てとろうとしたが、そこには何もあらわれなかった。彼はふさぎ込んだまま凍りついていた。もしかして、すでにワインを飲みすぎていて、頭がガンガンしているのかもしれない。ジニーは今まで、大酒を飲んだ人はどちらかと言えば騒がしくなるものだとばかり思っていたのだけれど。 「もっと外に」 「わ、わからないけど。とにかくあなた、とっても憂鬱そうに見えるんですもの」 ドラコはリクライニング・チェアの足元の床に熱いココアを置いて、ふたたびワインを手に取り、ぐびりと一口飲んだ。 「わ、わたし、哀れんでるわけじゃないのよ! 親身になろうとしてるだけ。お気の毒だと思って……」 さらに一口、怒ったようにワインを飲んだドラコは、ふいに感情を噴出させた。 部屋の中は爆発的に暑くなっていたが、ジニーの身体は震えた。 ドラコはマントルピースの上に手を乗せ、ジニーに背を向けた。暖炉のほうを向いた彼の身体を金色の光が縁取っていた。やがて、彼は言った。 「ううん、もういいの。気持ちはわかるわ」 彼は今度はためらいなくグラスを下ろした。 ジニーは、どう返答していいのかわからず、突然、不安を感じて部屋から出て行きたくなった。酔って気難しさを増したドラコの言動は予想がつかなかった。 「母のことも、忘れないうちに謝っておくよ」 「あら、お母様は別に何も……」 「母は、何もかもうまく行っているふりをしたがるんだ。今でも、一族が世界中の富を手にしているように思ってる。母は……」 「じゃあ、あなたから援助を求めればよかったんじゃない? 魔法省は、戦争の犠牲になった人たちに救済金を出していたのよ。助けてもらえたはずだわ」 「マルフォイ家の者は……」 その言葉は、おもりのように空中にぶらさがっていた。ジニーには、わけがわからなかった。たった今ドラコは母親が現実に向き合おうとしないと訴えていたばかりなのに、次の瞬間には、自分でも助けを得ることを拒絶するなんて。 彼は、苦々しく笑いはじめた。 「あの……」 彼はさらに笑い声をあげた。後になっても、その声は夜じゅうずっと、ジニーの耳について離れなかった。 |