ドラコーディア 〜ドラゴンの心〜
Dracordia (by LittleMaggie)
Translation by Nessa F.
第 4 章 炉辺
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「ひどいとしか言いようがない話ね!」
ジニーがマルフォイ家での付添婦の仕事について話し終えると、ハーマイオニーは声を荒げた。ハリーとハーマイオニーは、たまたまウィーズリー家に立ち寄っていたのだった。彼らはしばらく前、少なくとも七年生の頃から付き合うようになっていた。ジニーの推測では、おそらくそれ以前からも、このふたりはこっそり付き合っていたはずだったのだけれど。
「次の日――土曜日になるのが待ちきれないくらいだったわ。すぐにこっちに帰ってきたの」
ジニーは正直に言って、両手を握り合わせた。口には出さなかったが絶望的な気持ちだった。
「ああ、恐ろしかった」
ハリーの表情も少々暗くなっていた。深緑の瞳は、ジニーのスカートの花柄に向けられたまま動かなかった。裾が今は床をかすめているスカートの、柄の基調になっているのは、黄色や緑色の葉がついた茶色に近い深紅のチューリップだ。チューリップの色合いはジニーのシャツと同じで、彼女の髪の色よりは少しだけ濃い。
「ルシウスは当然の報いを受けたのよ」
やがてハーマイオニーは言った。
「ヴォルデモートの側についていたわけでしょ。あれだけ長い間、闇の帝王の支持者でありつづけておいて、何も傷を負わずに逃げられたら、そっちのほうが不公平だわ」
「ぼくの名前を言ってたんだ」
ハリーの声には、悲しみが満ち溢れて、ほとんど芝居がかって聞こえるほどだった。個人的にはさほど動揺しているわけではなく、むしろジニーやハーマイオニーに無神経と思われることのほうが心配だったのだ。
「今のドラコは、心底ぼくを憎んでいるんだろうな」
ジニーは身震いをした。
「あなたの名前が出たことそのものよりも、その言い方がね。まるでルシウスはすでに死んでいて、その身体を通じて、なんていうか――凶暴そのものの――悪霊か何かが口を利いているに過ぎないようなかんじだったの!」
彼らがいる台所では、モリー・ウィーズリーが昔ながらの、マグルと同じやり方でサラダを作っていた。ちょっとした食事にも多くの手間ひまをかけることが、モリーの喜びと言ってよかった。ひととおり会話を聞き終えた今、彼女も自分の意見を出す気満々だった。
「ねえ、きっとハリーに別の仕事を紹介してもらえるわよ」
ハリーは心もとなさげな表情だったが、とりあえず追従した。
「ほかに付添婦の募集があったら、すぐに知らせるよ」
「どうかしら……見捨ててしまっていいの? あんな状態を見たあとで?」
ジニーは尋ねた。
「いずれにせよ、マルフォイ家はもうおしまいだよ。一族みんなね」
アーサー・ウィーズリーがやけに激しい口調で言って、さらに自分の言葉を裏付けるかのように、まさに容赦のない、資源への虐待と言いたくなるような手つきで持っていた新聞をくしゃくしゃに丸めた。
ハーマイオニーはテーブルの中央にある皿からビスケットを一枚つまんで、ふり回しながら言った。
「一日かかわったくらいで、彼らを助けてあげる義理はないと思うわよ」
「でもね、気になることもあるの」
ジニーは本音を言った。
「あの北の棟には何があるんだろう、とか」
ちょうどそこにフレッドとジョージが、いたずら専門店での忙しい一日を終えて帰ってきた。戸口に立つふたりは、最近ヤギ鬚をはやし始めたばかりだ(「コメディアンなら誰だってはやさなくちゃいけないんだ」というのがジョージの弁だった)。ジニーの話の終わりの部分だけが、双子の耳に入った。
「北の棟(ノース・ウィング)? それ、新しいクィディッチ・チームの名前?」
フレッドが声を上げて尋ねた。
「ジニーが今、マルフォイ家での付添婦のお仕事のことを話してくれていたの」
モリーが答えた。
「さあて、あなたたちは今すぐ、ポケットをぜんぶ空にしなさい。さもないと台所には入れませんよ」
「傷つくなあ。実の母親がさ、まったく! 犯罪者扱いだぜ、ジョージ!」
フレッドは眉を上げて、双子の片割れのほうを向いた。
「いったい、何をそんなに警戒してるんだろうねえ」
ジョージは返事をしつつ、ズボンのポケットから "ベロベロ飴" を引っ張り出した。
その頃にはフレッドもまた、かなりの量のいたずら用キャンディを没収対象としてモリーに引き渡しているところだった。
「いい歳して……」
アーサーはぶつくさと言った。
「まだ親元に住んでろくでもないことを」
彼はコーヒーをがぶりと一口飲んでから続けた。
「ふたりとも、ガールフレンドと……アンジェリーナに、なんて娘だったかな……結婚して落ち着いたらどうかね。ちゃんとした家を買ってな」
「ここにはおれたちの居場所はないんだ……」
フレッドは哀れっぽく、顎を震わせながら言い、ジョージとふたりでふたたび爆笑した。数分後には、その場の誰もがジニーが直面している厄介な状況を忘れ去ってしまった。
ただし、ジニーは忘れていなかった。彼女はそこに座ったまま、普段よりもひっそりと、丸いパンの底にくっついたケシの実をすべてこそげとって皿の上で数えながら時間をつぶした。八十三粒目を数えようとしたとき、マルフォイ家から逃れていられる時間はおしまいになり、戻らなければならなくなった。ジニーは立ち上がってフルー・パウダーを手に取った。
「じゃあ、そろそろ行くわね」
「ああ、かわいそうに」
ハーマイオニーがはじかれたように席から立って、ぎゅうっと抱きしめてきた。
「きっとなんとかなるわ」
抱き合うと、ハーマイオニーの大ぶりの婚約指輪(ハリーが贈ったもの)が、ジニーの頬をかすめた。突然、ジニーは気分が悪くなり、不安を感じはじめた。
「また今晩もルシウスの世話をしなくちゃいけなかったらどうしよう? その前にまず、起きられないかもしれない」
ジニーの手は震えていた。
「何もかもうまくいくといいわね」
と、背後から声をかけてくるモリーを残して、ジニーはウィーズリー家の暖炉にフルー・パウダーを投げ入れ、そのままマルフォイ家の暖炉がある地下室に移動した。
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