ドラコーディア 〜ドラゴンの心〜Dracordia (by LittleMaggie)Translation by Nessa F.
第 3 章 夕食(page 1/2)
ベーコンと脂肪がフライパンの中でじゅうじゅうと焼ける音につられて、ジニーは一階に下りた。ここでの役割については、マルフォイ家での付添婦の仕事だということ以外、あまり知らされていなかった。最初に聞いたときはとっさに断ろうと思ったが、家族のためにはお金を稼ぐに越したことはない、というのもわかっていた。サミュエル氏は、まさにジニーのような、生き生きした快活な娘が必要なのだとことさらに強調していたし、この話を断ることは難しかった。 マルフォイ家の噂は聞いていた。彼らががどういった類の事柄に手を染めていたかなどということは大して頭を使わずとも明白だったが、ヴォルデモート敗北後に、この一族が凋落して何もかも失ってしまうとは予想外だった。ロン、ハリー、ハーマイオニーをはじめとして多くの魔法使いたちが勝者として英雄視されるようになった一方で、完全に崩壊させられてしまった家系も多かったのだ。噂はさまざまだったが、ルシウスが精神を病んでいるらしいということは聞いていた。それから、ドラコが自殺未遂を起こし、昏睡状態のままマルフォイ屋敷に寝かされているという噂もあった。この噂は、シーツよりも白い顔色をしたドラコが毎日のように魔法省に出入りするのを目撃していると断言した人々がいたために立ち消えた。 ジニーは長い赤毛の三つ編みをまとめ上げて、光沢のある黄色いリボンで留めた。自分のワンピースがナルシッサの眼鏡にかなうことを祈りつつ、彼女は台所に入った。立派な部屋を想像していたが、そこはウィーズリー家の台所と似たり寄ったりだった。ただ、部屋が広いので、すべてのものの周りにずいぶんと空間があった。魔法こんろの傍らではドラコが、ベーコンの入ったフライパンに杖を向けていた。彼はエプロンを着けていたが、紐を結ばないまま痩せ気味の身体にぶらさげてあるだけだった。 「こんばんは」 ドラコは振りむいて彼女を見た。その顔の表情は解読しにくかった。恥ずかしさとも寂しさともつかないような。 ジニーはうなずいた。 ドラコはそれで話を切り上げた。会話好きなほうではないらしい。ジニーはテーブルについて、彼の作業が終わるのをじっと待った。 「ドラコ」 ジニーはさっと立ち上がってナルシッサと握手をしようとしたが、ナルシッサは戸口のところから動こうともしなかった。 「十八歳です、奥様」 「そこそこ長い間ここにいてもらうつもりなのだけれど、わかっているわね? ホームシックになったり、寂しくなったとたんに家に飛んで帰ったりされるのでは困るわ」 「わ、わたし、週末には家に戻りたいんですけど」 「この家で働くのであれば、彼のことは必ずミスター・マルフォイと呼ぶように。わたくしの夫についても同じく。初日からファースト・ネームで呼び合うような間柄になれると思っているのなら、残念だけどおかど違いよ」 「すみません」 ドラコは、いつもどおりに黙っていた。こんろから下ろしたフライパンをテーブルの上に置き、用意してあった三枚の皿に薄切りのベーコンを素早く移した。 「どこの家の子?」 ジニーは気まずい思いで自分の皿を見下ろした。 「なんてこと、魔法省はまともな手続きのひとつもできないの?」 「面倒は起こしません、お約束します」 ナルシッサは、付添婦にどれほどの自由を認めるかという点については、あまり寛大になるつもりはなかった。週末に家族のもとに帰ることを許可するのは気がすすまなかった。しかしふと条件を天秤にかけて黙考しはじめた。これは、それほど大それた願いではない――週に一度ちょっと自宅に戻るくらいなら、ジニーにとってもナルシッサにとっても納得のいく、ほどよい外出時間と言えるのではないか。ジニーはマルフォイ家で自分に求められている役割を少しずつ理解しはじめていた。すぐに立ち上がって三客のティーカップを用意し、手早く熱湯を注ぐ。 「ティーバッグあります?」 「だれか付き合っている相手はいるの?」 「いいえ、そんなひとはいません」 「厳しい時代ね。若い女性が結婚相手を探すことよりも仕事を選ぶなんて、まったく異常なことだわ」 ここにいたるまでほとんど口をきいていなかったドラコは、ぱっと手元のティーカップから目を上げ、控えめな口調で答えた。 「ね、おわかり?」 「あの、わたしは……」 「それに、若い女性は年長者が話しているときには口をつぐんでいるものよ」 「でもわたくしの父はその後、前よりいい仕事に就いたのよ。自分の家族も養うことができないようでは、父親失格ですものね」 「うん」 ジニーはこのやり取りを聞いて笑みをもらし、ベーコンを味見しようとフォークを口の高さまで持ち上げた。しかしナルシッサは苛立たしげに指先でテーブルを叩いた。 これでジニーは完全に侮辱された気持ちになった。彼女は席を立つなり流し台に駆けより、ものすごい勢いで手を洗った。屈辱感が心臓の鼓動と共に轟音を立て、頭に血液がのぼって頬をほてらせた。 「大変失礼しました」 その頃にはドラコはすでに食事を終え、立ち上がるところだった。 |