ドラコーディア 〜ドラゴンの心〜Dracordia (by LittleMaggie)Translation by Nessa F.
第 2 章 付添婦(page 3/3)
ジニーと一緒についてまわっているように思えた陽気な光は、その顔から笑みがなくなっていく過程で、すぐに消失した。 階段はジニーの目に本当に美しいものとして映ったので、彼女は立ち止まって感嘆の声を上げた。 ドラコは返事をしなかったが、この称賛が心にしみわたって、わずかながら自負心をくすぐったことが自分でもわかった。マルフォイ家が享受してきた贅沢に驚嘆してくれる人間が今でも存在するというのは、気分のよいものだった。 ドラコは振り返って肩ごしにジニーを見た。その太陽にさらされて変色した青いレースのような色合いの、突き刺すように鋭い謎めいた両の目が、ジニーの視線をかなり長いあいだゆらぐことなく捕えた。やがて長い金色の睫毛を伏せて、彼は応えた。 ふたりは気まずい沈黙に包まれて階段を上った。ジニーはどうやらドラコが荷物を持とうと申し出ることを期待していたらしく、鞄を引きずり上げながら小さくうめき声を出し、自分が鞄を持っていることを相手に気付かせようとしていた。しかしドラコが手伝おうというそぶりを見せなかったため、ジニーは低い苛立ちの声のあとは、階上につくまで黙ったままだった。ニ階に到着すると、ややこしく果てしない迷路のように広がる何本もの廊下を見て、ジニーは驚愕をあらわにした。 「使用人の部屋のある一画は左側」 ジニーはうなずいたあと、通路の真ん中にそびえたつ大きな石でできたガーゴイルに目を留めた。おそらくはオニキスか黒大理石だろう。この像は、北の棟への通路を完全にふさいでいた。彼女は南側の階段を振り返った。そして奇妙な心もとなさを感じてガーゴイルに片手をかけた。その途端、ガーゴイルは生命を持った。少なくとも魔法のかかった石像に許されるかぎりの生命を。大きな顎がきしむような音を立てて固く閉じ合わせられ、数瞬前にジニーの手があった場所で空気を噛みくだいた。ドラコは乱暴にジニーの手をつかんだまま、自分と向き合うように振り向かせた。 突然、彼の灰色の瞳は説明しがたい怒りに満たされていた。そのせいで、その目には長いあいだ存在しなかった情熱の痕跡が浮かび上がった。彼は激昂した声で言った。 「北の棟には何があるの?」 「何も。とにかく近付くんじゃない」 廊下を進んでいくつかのドアの前を通り過ぎると、ジニーの部屋だった。ドアにはわざわざ真鍮のノッカーが取り付けられており、プライバシーを尊重するようになっていた。ドラコがドアを押し開き、ふたりは中に入った。部屋の内装自体には、とりたてておかしいところはなかったが、全体ではおそろしく陰鬱な雰囲気がかもしだされており、室内に立っているふたりの身体にまで染み込んできそうだった。慌ただしく準備されたベッドの上には象牙色のシーツや繊細なレースの枕が、皺の寄ったまま無造作に投げ出されていた。てっぺんに紺色のタオルを載せられた寝室用ランプと、陶器の終夜灯がある。終夜灯には黄色いシェードがかかっていた。 机もあったが小さなもので、部屋の隅の暗がりのなかに押しやられており、唯一の窓(ベッドの枕もと)からの光もあまり届いていなかった。机は濃い色の桜材だったが、年月を経て変色し、くたびれて本来の艶を失っていた。粗末な台所用の丸椅子が、机の横に置いてあった。 「家具のいくつかは物置に入れてしまっていて。座るところがなくて悪いんだが」 ドラコは冷たい声で言った。 「大丈夫よ。日記は台所のテーブルで書いてもいいし」 彼は廊下に出て、落ち着かない気持ちで待った。部屋の中にまともな椅子がない本当の理由。それは、マルフォイ家に金銭的な余裕ができるまではそれらの家具が差し押さえの対象となっているからだった。ふたたび戸口に現れたとき、ジニーはセーターを脱いで、前みごろに裾までボタンが並んだ、メロンオレンジの袖なしワンピースだけになっていた。まるで幼い少女のようだったが、妙に似合っていた。 「よければ、ここで過ごしていてくれ」 「あら」 「父に……その、世話が必要になったときには、耳に届くよ。嘘じゃない」 「そう、じゃあ、夕食のときにね」 |