ドラコーディア 〜ドラゴンの心〜Dracordia (by LittleMaggie)Translation by Nessa F.
第 2 章 付添婦(page 2/3)
ドラコは気をもみながら廊下を歩いた。"亡霊" は頭痛のせいでひどく興奮して、怒りっぽく不満を表明しながら部屋のなかでごそごそしていた。いつ付添婦が到着してもおかしくない時間だったが、どう対応すればいいのかわからなかった。自室のベッドの上に座って、ドラコはつい過去に思いをめぐらせた。 マルフォイ家は、なんと栄えていたことか! 父はヴォルデモートとともに威信を高め、計画は着々と進んでいた。十七歳のとき、ドラコは入信の儀式を受けて闇の帝王の支持者として誓いを立てることになっていた。ところがほどなくして、ハリー・ポッターがマルフォイ家の動向にあの貧相な鼻先をつっこんできた。彼は盗み聞きやスパイ行為をやり尽くし、結局は例年のように英雄として称えられることになったのだった。ただいつもと違ったのは、それが最終決戦となったことだ。 七年生当時、誰もがどちら側にくみするかを決めつつあった。校内では、ヴォルデモートに味方する者と敵対する者とを隔てる、見えない線が引かれていた。あまりにも対立がひどかったため、学校は崩壊寸前だった。しかしハリーは持ちこたえた。悪運の強いやつ。とうとう彼とヴォルデモートとの最終的な一対一の戦いになったとき、デスイーターたちのなかに、あるじがハリーやその他のおもだった "善き" 魔法使いたちと単独で対決することをよしとした者は誰もいなかった。そのときルシウスはまさに勇者だった。彼はデスイーターの一団からなる、ポッターやダンブルドアたちへの抵抗勢力を率いて戦った。しかし結末は、闇の陣営にとって恐ろしいものだった。ヴォルデモートはポッターによって完膚なきまでに打ち負かされてしまったのだ。何かが起こったのだ――ポッターの魔力を、ほとんど極限にまで高める、何かが。 文字どおり目もくらむような閃光がポッターの杖からほとばしって、次の瞬間、闇の帝王は死んでいた。ドラコが我に返る間もなく、ルシウスもまたその魔力に打たれ、そのせいでほぼ完全に身体が麻痺してしまった――そう伝えられている。しかし最も大きな損傷は、実は彼の精神に対するものだった。たとえ身体を動かすことができたとしても、脳がそれを許さない。心の傷によるショックがあまりにも大きかったために、彼は人間としての正常な機能を失ってしまっていた。ルシウスは、生きる目的もないうつろな亡霊として取り残された。もはや仕事もできず、社会的地位を失い、唯一の信望の対象だったヴォルデモートも、もういない。 そうしてルシウスは狂人となった。完全な、純然たる狂人に。もはやルシウスではなく、マルフォイ屋敷に巣食う亡霊となりはてている。ドラコが自己憐憫に溺れはじめかけたとき、ちょうど呼び鈴が鳴った。 「ドアをお開け!」 ドラコが階段を駆け下りてドアを開けると、そこに彼女がいた。黄褐色のトレンチコートを巻きつけて縮こまった身体から、地面につきそうな長さの鮮やかな黄色のスカーフが陽気に垂れ下がっていた。スカーフの両端には小さな黄色と白のポンポンが付いている。顔は完全に覆われ、外から見えているのは、まるで瞳のなかに魔法で残り火が埋め込まれているかのような、暖かいチョコレート色の両目だけだった。 彼女は元気よくうなずき、厚く巻いたスカーフの向こうからくぐもった声で答えた。 「荷物をこちらへ……」 決してすばらしい美女ではなかった。少なくとも驚いて絶句するほどではない。快活な丸顔で、少しだけ上を向いた鼻の上には、子供時代のなごりのそばかすがまだ薄く散っており、やわらかい赤毛は顔の両側でゆるやかに波打っている。年若い付添婦は、はつらつと輝いていた。まるで、あの独特な目に痛いほどのオレンジ色になるまで熱した、燃えたつ鉄のかけらのように。ドラコが一瞬身を引いたのは、その顔に見覚えがあったせいだった。一族共通の青写真を一部だけわずかに改変したようなかんじ。彼は記憶を遡ったが、この少女とホグワーツの廊下ですれ違っていたかもしれない瞬間は、ちらほらと断片的にしか思い出せなかった。 「きみ――きみは、ロナルド・ウィーズリーの妹か。そうだろう? ジェニファーだっけ?」 「ジニーよ」 「ああ、そうだよ」 「わたし、まちがった家に来ちゃったのかしら?」 「いや、ここでいいんだ」 「この家の人たちは誰もかれもウィーズリーに偏見を持ってるの?」 「すまない。単に、その……母がどう思うだろうかと」 ジニーは目をぱちくりさせてから叫んだ。 「執事?」 「だって、全身灰色だし、そんな立派なスーツを着てるし、だからつい……」 「もういいよ。ただ、母とは衝突しないようにしてくれ。本当に、ちょっとしたことで機嫌を損ねるんだ。まず部屋に案内するよ。荷解きもあるだろう」 ジニーはうなずいて、杖を取り出した。ぐるっと一振りすると彼女のセーターのポケットから小さな鞄が二つ空中に浮き上がり、妖精のまわりにただようきらきらした粉末のように床に着地した。鞄はすぐにふくらみはじめ、通常の大きさになった。ジニーは注意深くそれらを持ち上げた。若い娘にしては、なかなか力強そうだった。 「上の階だ。ぼうれ――父の部屋の近くに」 |